羅刹女の事情(乙女心)

蘭華ランカと魔王と呼ばれる巨漢が目的地に向かって再出発した朝...の前夜

場所はまた東京に戻り、そこはある焼肉屋さんだった。

換気が上手く作動しないせいかもともと換気する気がないのか店内にはなかなか煙っている。

薄い霧のように見えなくもないその煙が不思議な世界を思わせる。

そんな不思議な世界の中には二人の男女、片方は堅いスーツ姿の毛のない頭の男性と黒色に近い褐色の肌をしている女性が向かい合って席に座っている。

女性の服装はまるでさっきアパレルショップで店員さんのお任せコーディネートしてもらった一式を着ているかのように統一感がある。

しかし、彼女の目の前の焼いた肉を食べた様子で見ると...いささかワイルド感の食べっぷりだった。

煙っている状態のおかげかそれとも他の客の声も自分たちで騒いでいるのかこの二人の様子を気にするのは料理を運んだ店員ぐらいしかいない。

そこで男性の方はため息をついて、こう言った。


「ハーちゃん...さっき私が教えたと思うが、切られたその肉は手ではなくあの道具を使って食べるようにと。」

「これ...使いにくい...せっかく肉を食べるのになんで手ではダメなの?タカくん...私の記憶の中には手を使うのは当たり前だよ。」

「時代が変わった。君が見たこともない道具がいろいろ発明されたんだ。最近の人間には作法とかにうるさい人もいて...手で食べることは無礼だと思われる。」

「でも、手は一番馴染むから...」

「私の言うことを聞いてくれないか...」

「...タカくんのバカ...」

「何か?」

「頑張る...この二つの木の棒で肉を掴めばいいでしょう?」と言って、彼女は使い慣れないお箸で必死に肉を掴もうとした。

不器用ながら、その必死さを見た男性、おおとりは店員を呼び出した。

「すみません。フォーク...あと念のためにスプーンも一セットもらえますか?」と言った後に、店員さんが持ってきたのは女性が今使っているお箸と違った道具だった。

「私の配慮不足だ。この鋭い先があるものを使って、肉を刺さり、口に運べばもっと簡単かと思う。試してみて。」と共に女性にフォークを差し出した。

それを受け取った彼女はそのフォークという道具を使って、焼いた肉に刺さり、そのまま口に運んだ。

「...美味しい!」

「こっちの方がよかったな。また焼いてあげるから、君が満足するまで食べて。」

その言葉を聞いた彼女はどこかでモジモジとしていて、微笑んだ。

「タカくんは相変わらず優しいね...」

「子供のときの私に比べてもらっても困ります。今は君とこうしているのはあくまで取引ですから...腕の代わりにこれらの肉を食べさせる約束はちゃんと守ります。」と言われた彼女は落ち込む様子ではなく、こう鳳に返した。

「タカくんはちゃんと約束を守ってくれたから嬉しい。やっぱりタカくんは相変わらず優しいよ。」

そう...年齢が変わって優しさもまた年齢に応じた形で変わったが、優しさは優しさだ...

だから、私は...タカくんを...

「...好きに捉えても結構です。では、食事を続けましょう。」


しばらく食事をした二人のテーブルの上にかなりの枚数のお皿が重なっている。

その枚数のほとんどは女性が食べた分だった。

皿を運んだ店員もそれを下げる店員もその枚数を見る度に驚愕の表情になった。

女性の表情もまた満足したように見えた鳳はここで自分の本題を持ちかける。


「では、いろいろ説明してもらいたいことがあるが、まずはお互いが分かることを共有しましょう。

君は鬼子母神のご神体としてあそこのお寺に祀られたが、実際には違う存在であって、正体は...」

「そうだよ。私は羅刹女ラクシャーシーだ。この国では鬼神として認識されたこともあるけど...」

「あ...でも、それは仏教の考え方だ。鬼のような存在はあるきっかけで仏教の守護者として認識され始めた。だから、君の場合もそれに当てはまるじゃないかと私は考える。様々な文献や伝承には鬼は祀られる対象となるが、この国ではなかなかレアなケースだ。」

「私は...正直言うと、今でもなぜ自分の魂が封印されたのか分からない。そんなことを望んでいないはずなのに...断じて祀られるほどではない。」

「しかし、現に封印された君はそこに鬼子母神として祀られた。私にしてはそこは重要じゃない。何より封印を解くためにはあの者の血...いわゆる血筋がいないとできない私の仮説は本当だったとは驚いた。しかもあの二人と偶然で出逢ったのも...」

「ねえ、タカくん。あの子の心の一部をもらって、こんな実体まで持てた私が言うのはなんだけど...彼にとっては大丈夫なの?」

「大丈夫とは言い切れないが、彼...彼の先祖はきっと同じことをするだろう。私より君の方がそう思っているはずだ。」

「そう...ね...きっとあの方なら」と少し懐かしく感じるのか女性は煙った遠い方向を見て、少し寂しそうに微笑んだ。

「しかし、ここで様々な謎が交錯している。

封印された君の魂と私があの寺で出逢ったことも...そこで自分の仮説を検証するためにやってきた私の前に現れたあの二人...あの伝説の英雄王の血筋ということも...何より君のも…」

とここで真剣は顔をした鳳は女性に向かってこう言った。

「君はどこまで知っているのかお寺で答えなかった君の回答を聞かせてもらう。」

女性は少し頭の中を整理して、口を開けた。


「実は...」

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