ぶらり旅(宿泊④)

ある夜の街にそびえる一つの建物

周りの建物から異国感を放ち、中世ヨーロッパのお城に見えなくもない外見を持つあの建物の正体は愛の宿...俗に言うラブ...のホテルである。

その場所には男女二人に限らず、人数も性別も様々な形でこの場所を出入りしている。

特に夜中では陽差しが残る時間に比べて、出入りする人の数が増してゆく。

そして、この場所にたどり着いた人々はそれぞれの思いを抱えている。

先ほど入ったある男女もそう...今はある部屋の中にいる。


女性は男性にある言葉を送ってから、浴室に向かった。

気のせいかと思えないぐらい...彼女の頬が赤らめている。

一方、何か言われた男性はただ無言に...その浴室がある方向から全体の体を正反対の方向に立っている。

椅子やベッドにも座れるにも関わらず、ただ無言のまま...立ち尽くしている。

表情も変えずに立っている男性...巨漢は自分が見えるものを見ながら考えている。


ここは...愛する我が君が住む空間とは違って、光も色も違う。

何より薄暗い。

余が住んでいた宮殿さえ夜になってもこんなに薄暗くない...

いつも夜になると、街に光を照らすあの球や細長い筒から放った白い光も今は違う色になっている。

この色には何の意図で壁や天井に置いてあるのだろう...

...

しかも見たことのない装飾品ばかりだ。

この時代で見かけた物が少ない。

宮殿では幾度の戦から取った戦利品が飾られた...

無論勝利した国や領地から取ったものだから、統一感はない。

しかし、この空間にある装飾品の雰囲気は同じ時代...または国から取ったものだと感じている。

もしくは別の扉には別の空間があって、そこにはまた別の時代の戦利品が飾られたのか?

何のために分けるだろう...


...

ここは...シュクハクするための場所

先ほどこの方向に向いてと言われる前に目にしたのだが、

この空間の中には寝るための大きい寝台が一つ...

愛する我が君が住んでいる空間より二人分...それ以上の大きさだ。

愛する我が君はこんな大きい寝台で寝ることを願っているのか?

それなら、余はこの建造物と同じぐらいのものを作ってやろうじゃないか!

そのためなら、この世界を征服するか...と今はその考えはよそう。

あと、別の空間が見通せる場所はあったな...

やはり理解は難しい。

夜を過ごすために...このような空間が用意される意味...

頭に浮かんだ可能性はいくつかあるが、どちらも却下だ。

そのようなは考えられない...いや、願ってはいけないのだから...


一方、浴室に入った女性は浴室の様子を確認するためにあちこち見ている。

彼女はある箇所を見て、こう考えた。


ゲッ!

本当にツケツケで中からも外からも丸見えだ。

人の趣味とか癖に文句を言わない主義だけど...そんなにシャワーを浴びる人を外から見たいのかな...

まあ...覗くとかとは違う意味で堂々だけど...

...やっぱりやめておく?

シャワーなら一日ぐらい対しことじゃないし、

遺跡探索のときだって...何日間していないときだってあったじゃない...

でも勿体ないじゃ、勿体ないな...

せっかく大きなお風呂もあるし、ゆっくり浸かりたい気持ちもある。

あの人?...あ、見えた。

ちゃんとあっちに向いて、動かないし...

大丈夫...のはず...

ヨシと何かを決意した女性は服を脱ぎ、シャワーを浴びることにした。


浴室から水の音がした。

確かに...水を浴びると言ったなと巨漢は考えた。

そこは水を浴びるための空間か。

住んでいる空間とは少し違う構造だが...そういうことか。

あそこは見通せるように作られたから...それを見るなということで理解した。

第一そのようなことを言わずとも、余は許可なく愛する我が君を見るなんて無礼で無粋の極まりだ。

それは...

と考えている途中に突然その浴室から聞こえた小さな悲鳴。


!?

巨漢は反射的に浴室の方に振り向いてしまった。

しかし、女性の姿がハッキリ見えない。

よく見ると、体の一部だけが見えて...倒れているみたいな姿勢になっている。


まさか...敵襲!?

余のしたことは...今日はあのナーガとの戦いをした後なのに、この辺には敵が1匹だけいるとは限らない。

愛する我が君のお願いに忠実するあまりに...その点は失念した。

あのこざかしい蛇め...今度は何のマネだ。

哀しみという感情はこの不完全な心にまだ溢れていっぱいだが、今ここで哀しむところじゃなくなった!

其方の願いを破ったより今優先すべきなのは其方の無事な姿がこの目で確かめることだ。

悪かった...


そして、巨漢はその様子から素早く浴室に駆けつけ、扉を開けた。

「シーター!!!」と叫んだ巨漢は目の当たりにしたのは...

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