ぶらり旅(近所編)

余は、シーター愛する我が君と一緒にあの狭い空間を出て、外を歩くことになった。

しかし、ただ外でのんびりするだけではない。

愛する我が君が...何だ...ブラリタビとか言ったが、これは余の心の欠片を探すという目的が兼ねている。


外は程良い気温と涼しい風...

さらに、愛する我が君のあの小麦色の肌とまとまった黒髪は太陽の陽差しに照らされることでさらにその美しさが増してゆく。

あ...眩しい...眩しすぎる。

太陽神スーリヤよ...この瞬間だけではあなたに感謝する。

愛する我が君の美しさをあなたに見せることには少し気は乗らなかったが、仕方あるまい。


しかし...今回もまた唐突な出来事だった。

しかも、心の欠片の行方とそれを探す方法を考えている途中...

突然何者かの声が余の頭の中に聞こえたという新手。


あの謎の声...聞き覚えがある。

その声が話したのは、


「あなたが探し求めたモノの居場所の方向だけを教えましょう...どうか...思い出してください...そして、心とを取り戻してください...では、ご武運を...我が王よ」という内容だった。


何者の声までは分からないが、どこかで懐かしく...どこかでこの不完全な余の心が少し痛みが走る。

驚きのあまりに余は立ち上がり、頭が天井を突き破ってしまった。

気が付いたら、愛する我が君を困らせてしまった。

言葉が通じなくてもその困惑の表情を見た余は理解できた。

すまなかった...

その件はいくらでも罰を受けるつもりだ。

ただし、今は余の心の欠片を見つけるのは最優先だ。


こうして、自然的にあの方向に行けば、余の心の欠片があるということが分かった。

距離などは知らないが、方向に辿れば...必ず見つかる。

最初は余が所有する戦車、プシュパカ・ラタを召喚しようと思ったが、愛する我が君が歩きたいと言われたから、其方が言うままに余は従うことにした。

少なくとも余よりこの国を知っている其方なら、何かの方法が分かるかもしれない。

余の今の状況はもはや進むべき方向を伝えるための道具に過ぎない。


あの狭い空間が集合する建物を出ると、細い道がある。

両側には木や茂みまたは石の壁が並べている。

余の前に歩く愛する我が君の姿がずっと見たいと思ったため、他の景色は気にしていなかった。

しかし、突然ある石の壁のところで何かを見ている愛する我が君を見て、余もその視線が差したところを見た。

そこには珍しき生き物がいた。


「ネコダ!」

これは...ネコダという生き物なのか?

余の国では見たことがない生き物だが、あの小さな毛玉...

そうだ!

この生き物...ヒョウの子供なのか!

行けない!

シーター!危険だ!

と思ったら、愛する我が君は素手でそのヒョウの子供だと思われる生き物を触った。


かなり動揺した余はヴィーナを召喚し、攻撃をしようとしたが、様子が...何もなかった。

かなり手懐けしただろうか...あの生き物は攻撃をするところか気持ちよさそうに愛する我が君に撫でられた。

あ...余が生きてきたこの生涯で別の生き物になりたいという気持ちが初めて湧いてきたかもしれない。

というより、余もあのように愛する我が君に

いかん...

考えれば考えるほど嫉妬の感情が...溢れてくる。

静まれ...余の不完全な心よ...

欠片が全部集めて揃えば、余もそのように愛する我が君とより共に過ごせるんだ。

ここであの生き物に嫉妬する場合じゃない。

と考えると、愛する我が君は余の方を見て、ふっと笑い出した。

何が可笑しいのか分からないが...笑っている其方を見るだけで幸せだ。


その後はしばらく歩いて、細い道を抜けると、大きな道が見える。

そこで、余が愛する我が君が今生活しているあの狭い空間に入る前に衝撃を受けたあれにまた目撃した。

すごい早さで走ったがいくつか並んで、道の上に走っている。

早さには関心を持ったが、あの早さでもよくお互いぶつからないというところは余にとってもっと感心した。

余の持つ戦車は空に飛べるため、空の中では何者かの故意ではない限り、ぶつかることはない。

しかし、地上では違う...

あの鉄箱を操る人間はよほど兵のように訓練を受けたのでしょう。

そうではなければ、ここまでの秩序が保てるとは考えがたいことだ。

無論...人間は過ちを犯す生き物だ。それは例え時間がどれほど流れようとしても簡単に変わることがない。

しかし、人間共も大きな道の端にある細い道で鉄箱が走っている大道の隣に何も驚かずに歩いている。

ここにいる人間共にとってはいちいち驚くことではないであろう。

この国に何日間しか滞在しないが、まだ秩序が保てる方だと余が思う...もはや感心したところだ。


余の生きてきたのは殺戮と征服しか道がない世界。

戦わなければ、生き延びない。

食うか食われるかの繰り返し...そのような世界だった。

何回も言うが、愛する我が君が会うまでという話だ。

だから、この平和の雰囲気には馴染めないが、嫌いではない。


...

余の気のせいなのか人間共はチラチラと余を見ながら、通りすがる。

ふむ...この偉大な羅刹羅闍ラクシャーサラージャの姿が見られるだけでありがたいと思え!

よく拝めばいい!


そうだ...と最優先の目的を忘れるところだった。

ここから余の心の欠片があるとされる方向を確認すると...こちらの方向だ。

しかし、その方向に振り向こうとしたとき、愛する我が君が別の方向に歩き始めた。

そして、或る場所に止まって、ここに入るように促された。

そこは建物の入り口で階段があり、地下への道とつながる。

白い光を照らす細い筒みたいなものが壁や天井に設置されたおかげで足下は見えるが、ここはどのような場所につながる階段か見当が付かない。


一応場所の名前は言われた。

ここは【ホンゴウサンチョウメ】という場所らしい。

その言葉の意味は分からないが、とりあえず其方に付いていくことは例え冥界だとしても余は大丈夫だ。


万一、其方に危害を加えようとした者がいれば、のみ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る