邂逅(ガールミーツラクシャーサラージャ)

スリランカ、シギリヤロック


崖の穴の中で出現した階段の先に謎の扉が開き、その扉の前に立っている一人の女子、椎谷しいたに蘭華ランカ


突然降ってくる雨と遭遇するような感覚で不思議な出来事の連続を目の当たりにした蘭華は興奮と混乱が混ざっている状態になっている。

まだ彼女の頭の整理も心の準備もできていないまま、物語が次の展開へ勝手に段々進めていく。


自分と似ている謎の少女

崖で出現した穴と階段

扉のような石盤

刻まれた古代文字

シーター妃と思われるフレスコ画

スイッチのようなくぼみに触った瞬間に開いた石の扉

一言を放って、幻のように消えた少女


...って、いきなり展開が多すぎるでしょう!


お酒のおつまみが欲しいだけなのに、急にフルコースの料理が運んできた気分だ。

いや、例えはなんか違う...違わないか...

前みたいに少しずつのヒントみたいなやつが欲しいのに、今はついに謎が解けるところまで進んでしまった。


とりあえず少し落ち着こう、私

深呼吸して...息を吸って...吐いて...

スー...ハー

スー...ハー

まずは今まで遭ったことを整理しよう。


ほぼ一か月前のネパールで体験した不思議で、不可解な出来事は何かしら『ラーマーヤナ』とのつながりがある。そこで、物語で登場した羅刹ラクシャーサの王国があるとされた場所、ランカ島に行けばその謎を究明するヒント...さらに、羅刹という存在についてのヒントも何かが見つかるかもしれないと思っている。

それでここ、スリランカはランカ島だという仮説を立てた私はここ、シギリヤロックが王国のかつての王宮だった場所だと推測した。そして、現地まで来て、さっき体験したことから見て、自分の仮説はかなり正しい方向にあると思う。少なくともここはシンハラ王朝の時代に築かれた王宮と『狂気王』の物語とはまた違う別の謎が隠されている。じゃないと、この石の扉について説明がつかない。

最後に、さっきシーターだと聞こえた言葉から推測すると、以前に聞こえたささやき声の発生源はどうやらこの扉の向こうにいるようだ。というより


足元に扉の向こうから流れてくる冷たい風が感じた。

扉の向こうには...空間があるようだ。

洞窟?とふっと思って、スマホのライトを扉の向こうに照らしてみた蘭華。

洞窟としては不自然だ。

部屋ぐらいの大きさの空間が人工的に造られたみたいだ。

いや、なんでここに部屋ができているんだ?

そもそも...崖だと思ったら、穴ができて、そこから階段...そして、この扉。

これってシギリヤロック、つまり巨大岩の中にできている空間じゃない?

これってまるで...を閉じ込めるために造られた部屋...牢獄みたいだ。


上から小さな隙間を通り抜けて照らされた光が見えてきた。

そして、その光が差し込んだ先には何かがいる。


人!?


その正体に近づけてライトを当てると、部屋の壁にもたれて座っている一人の男性らしき者が見えた。

さらに近づけると、その者の正体がもっとはっきりと判明できた。

見た目から推測すると、この者は中年男性で、髪も髭も長く伸びたままに整っていない。

肌色はこの辺の現地の人と似ている褐色で、一応下半身は古代の下着、白いアンタリヤを着ているようだが、上半身は何も着ていない。

さらに一番驚いたのは男性の胸に矢が刺さっている!?


「え?ちょっと待って...矢が刺さっているけど...」

この矢...昔ืみたいな単純な作りだけど...矢に何かが書いてある。

また古代文字だ...今までこんなに翻訳機能が欲しいときはなかったなと思った蘭華はその文字を読もうとした。


「土...神...血...解?」

と言ったそばから、その男性から漏れた弱気なつぶやき声が聞こえた。

その男性は弱まった状態でも、蘭華の方を遠い目のような眼差しで見つめて、一つの言葉しかしなかった。


「シーター...」


「シーター...」と何回も同じ言葉を繰り返した。

ボソッと

力弱く...

でも、その一言だけは止まらず、呟き続けた。


シーターって...私のこと?

刺された一本の矢と今の言葉

まさか...この矢は


とにかくこの矢をなんとかしないと...この人?がこれ以上動けないようだ。

さすがに無理やりに抜けないかな...と蘭華は矢を触れた瞬間、

矢に書いてある文字が突然消えて、

矢は塵と化し、していった。


「消え...ちゃった...」と蘭華も驚いた。

私...何もしていないのに...いや、触れただけなのに...

なんで?と疑問が浮かんだ蘭華。

少しの間が経つと、その男性が無言のままに立ち上がった。


「よかった。立ち上がれ...た...」と少し安心した蘭華はまた別のことに驚かされた。


この男...おとこ


さっきまでは座ったから、気づいていないけど...男性の高さは人並みより超えている。

2メートルを超えるぐらいだろうか...

さらに、さっきまで弱まった体と思わない強靭な体...

ムキムキの筋肉とバキバキの腹筋...

もはや男性ではなく...蘭華の頭から出た第一の言葉はだった。

そして、その巨漢は蘭華の方を見て、蘭華も巨漢の方が見えるために顔を上げた。

お互い見つめ合って、沈黙が続いた。


巨漢の表情は強面のまま、少し目の輝きが取り戻した。

不思議だ...この人?は初めて会った気がしない。

どこかで懐かしい気持ちがある。でも、ラームさんと会ったときと少し違っていた。

何だろう...長い間会っていない人との再会したときの気持ちに近い...

ここで「また会えたね」と謎の少女がさっき言った言葉は今になってしっくりきた気がする。

この人とまた再会できて嬉しい...そのような気持ちだ。

本当にこの人?は...何者だ?

とそのとき、部屋の中が揺れはじめた。


「地震?」と地震に慣れた日本生まれ日本育ちの蘭華は動揺せずに周りにライトを当てながら見渡した。

そして、蘭華が入ってきた入口の方向にライトを当てるとそこから現れたのは...


が見えた。

「今度は蛇!?」さすがに巨大蛇に慣れない...というより慣れる人がいないだろうという当たり前なリアクションをした蘭華はここで怖じ気ついた。

その巨大な蛇が少しずつ蘭華のところに近づいてきたそのとき、

蘭華の後ろから巨漢が蘭華を守るように両手で蘭華を覆った。

そして、蘭華を優しく抱きしめた。


え?何?と急な出来事に付いていけない蘭華。

とすぐさまに巨漢は蘭華を持ち上げて、早いスピードでその部屋から飛び出た。

蘭華が入った入口ではなく、上の、外を出た。


「きゃー!」と突然の衝撃に思わず叫んだ蘭華。次に気づいたときはすでに外...というか宙に飛んでいる!?

「嘘...」と目の前にある光景と今の自分の状況に驚いた蘭華は自分を抱きしめて、さっきの部屋のような空間から連れて出た巨漢の顔を改めて見ようとしたとき、一つの違和感が脳内に走った。


その巨漢の肌色は先ほどと違い、に変わったと気づいた。


これは本当にまさかのまさかじゃない...

この肌色は...

この人?は...あの羅刹の王

「ラ...っ!」

と何かを言おうとした蘭華だったが、邪魔されたように巨漢と蘭華は強い衝撃を受けて、地面に落下した。

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