羅刹の王国(古代宮殿:シギリヤ)
スリランカの最大都市コロンボから距離はあったが、日帰りでもできる距離で、
世界遺産にも登録されたスリランカで1番人気だと言われる観光スポット
水平線で見渡せる森林の中に突如現れたように聳え立つ巨大の岩
その巨大の岩に築かれた古代要塞にして...ある時期では王宮だった
天空の宮殿シギリヤ、別名【シギリヤロック】
蘭華はついにこのシギリヤロックまでたどり着いた。
しかし、ここからの道を進むには中々骨が折れそうだ。
交通の不便さはとっくに前の旅で慣れたし、長い移動時間も前のジャナクプルの旅に比べたらそこまでかからなかった。
今の蘭華にとっては決して時間や便利性は問題ではない。
蘭華の今の最大の敵は目の前にあるゲート...というよりゲートの近くにある看板に書いてある入場料である。
そう...シギリヤロックに入るために立ちはだかる最大の
「ううう...一応調べたときには分かったけど、いざと払うときはやはりこの出費が痛いな...は...」と蘭華は自分に言い聞かせた後、しょんぼりとため息をついた。
ここでは現地の人なら30円程度の入場料に対して、外国人観光客はなんと3000円を払わないといけない!
つまり100倍!
この件に関して蘭華はかなりダメージを受けていた。財布にダイレクトダメージと心に100倍のダメージを!
ネパールの旅も同じことがある。というより、日本では公平性を保つためにかなり高いが、ほぼ誰でも同じ料金に統一する。それに対して、現地の人と観光客とは入場料が違うことは珍しいことではない。
物価的にも日本では高いものの、賃金も高いため、入場料は
しかし、ネパールの旅では設楽ラームと親戚たちと一緒に行ったので、その時は自分の肌色と得意のネパール語を利用することでなんとかごまかして、タダで一緒に入れた(*よくないことです。絶対真似しないでください!)。入口の係員もあまり厳しくないため、問題なく通れてよかったが...
言葉も通じないし...
一人だし...
見た目もあまりごまかせないし...
...
これも世界遺産の保守のために必要なお金だ...関係者の生活費にもつながる。
...
腹をくくるしかないか...
と自分のためらいを消して、入場料を支払い、メインゲートを通った蘭華だった。
入口から見えたのは目の前に立つ巨大の岩山と麓につながる道、そしてかつて沐浴場と庭園だった広場の跡が広く見えてきた。
広場と庭園を通り抜くと、岩山の麓が見えてくる。さらに進むと、石の階段を上ることになり、たまに踊り場がある場所で休憩する人が見かけた。
「さすが昔の階段だね...段差がバラバラで逆に登りづらっ!っ!危ない危ない...こけそうだった...足元を気を付けないっと...」という蘭華の実況は段差が均等ではないことが目に見えるようだった。
先に進むと、中腹のところまで到着する。
岩の階段を登りきると、今度は崖に取り付けられた螺旋階段が目の前に現れる。
階段の周りは鉄の網柵で覆われているが、スリルも景色も同時に楽しめるスポットだと...そうでもないようだ。
「た、耐えるんだ...私...これを登らないと、『シギリヤレディ』の壁画が見られない。」
高いところがあまり得意ではない蘭華は、前だけを見ながらひたすら階段を登っていった。
そう...中腹あたりにはシギリヤロックでは絶対に見逃せない『シギリヤレディ』の壁画がある。
昔は500点ほど美女のフレスコ画の壁画があったと言われたが、今は18点しか残っていていない。
貴重な昔の壁画を見るためにも今を頑張らないと...そして、登った先にそれが見られた。
「キレイ...昔に書いた絵だと思えない。風化のせいで今はこれしか残っていないなんて...時は残酷だ。これを見るだけでも3000円の価値はあるね...うんうん」
決して自分が払った3000円の意味を探すためにそう思ったじゃないが、頑張って階段を登るまでの甲斐があることも見た壁画にそれぐらいの価値があるということも蘭華の本心だ。
美術は自分の専門かつ趣味の範囲外の蘭華だが、それでも芸術は普通に楽しめる。
それだけではない。出会ったことや出会った人々も旅の醍醐味でもある。
もう同じ場所に二度と来られるか分からないから...
出会った人たちとまた巡り合えるかも分からないから...
だから
ときに時間が過去から残っていたものを残酷に壊してしまうから...
『Carpe Diem』
ラテン語で「今を楽しめ」という言葉は蘭華の好きな言葉だ。
だから今を楽しんでいる。
今を楽しまないと
後悔がない思い出になるために!
シギリヤレディを見た後は再び階段を降りて、蘭華は次の場所へのルートに進んだ。
そして、たどり着いたのは宮殿の入り口で、巨大な石の彫刻の一部が残された。
これは...前足?どうやらライオンの巨大彫刻があって、その前足だけが残っているらしい。
「おお...これが前足なら、実際の大きさはどれぐらいなのかな?」と蘭華も思わず大きさを想像してしまう。
「ここにライオンさんは入り口の番人として待ち構えているみたい。さすが獅子の血を継ぐ者と言われる
次に蘭華を待ち構えたのは頂上まで岩肌にへばりつくように伸びる人工的に作られた急な階段だった。石の階段のように段差は大きな問題ではかったが、今回は段数が問題になっている。
「長い...」と一言のコメントが口からこぼれてしまった蘭華。
ここまで来て...頂上までいけないとかはもう...もったいない。じゃなくて!自分のプライドは許されない!今まで行った場所だって、たいてい楽な道のりではないから、今回もそうだ!と決心して、ライオンの入口に入って、階段を登り始めた蘭華。
登って...登って...まだ頂上が見えない蘭華は気を紛らわすために今回ここに訪れた理由を頭の中に考えることにした。
まずはこのシギリヤで伝わった話。
森林に囲まれたこの遺跡には悲しい物語が隠された。
5世紀のアヌラーダプラ王国時代、母親が平民出身の一人の王子は王になるために王である実の父親を殺した。理由ははっきり分からないが、一番考えられるのは腹違いの弟は母親が王族出身のため、弟に王位継承権を奪われるのではないかと恐れたという仮説が一番濃厚である。そして、王になった王子は王位を奪還されることを恐れ、長らく都だったアヌラーダプラから離れて、
父を殺害したことを悔やみ続け、自ら命を絶ったという王の孤独の物語が出来上がり、語り継がれる。
父殺しという大罪を犯して、『狂気王』と人々に呼ばれてずっと罪を背負った王はこの岩山の頂上に王宮を建てることが亡き父の夢だった場所で実際に王宮を建てたことは父親への贖罪だろうか...今になっては真相は誰にも分からない。
謎はそれだけではない...
ここは要塞として使われるなら、当時のランカ島で最も防衛機能が高い場所はここしかない。
ここは狂気王の宮殿と同じように...
と考えていた蘭華が突然誰かの声が聞こえた。
階段は中央で区切られて、一方は登り、一方は下りとなった。
声の方向を見ると、すでに頂上に到着して降りている人たちの方からだ...蘭華や登っている他の人に「頑張れ!」という掛け声をしてくれたんだ。これは登り切った人の役目になったようで、そしてその掛け声で登り切った人にも降りるときに同じようなことをさせるという決まりみたいになっている。
励みの声を聞いた蘭華は笑顔で返して、最後の力を振り絞って、何とか登りきった!
「頂上に到着~!」と歓喜交じりの声を出した蘭華。そして、登ってきたところを見て、頂上からの景色を見ると、
...
...
...
圧巻...という言葉にふさわしい絶景だ。
見晴らしがよく、360度見渡せるこの絶景に蘭華は息を吞んだ。
疲れを忘れるほどに...言葉を失うほどに...
しかし、次に思ったことは今感じた静けさだった。
さっきの人々の掛け声以外、風の声しか聞こえない...
なんという静寂なんだ。
まるで...独りぼっちになった気分だった。
「狂気王の孤独...か」
確かにこの頂上から見渡せる景色は全てを手に入れるような王の気持ちが共感できると同時に、下の世界から切り離されたような孤独も感じた。この静寂はさらにその孤独を感じさせたかもしれない。
父殺しの狂気王...まるで物語で出てきたのようだ...
そういえば、ラーマーヤナの物語の中で羅刹の王の弟がラーマ王子の参謀になったという話もあったな...確かに心正しい羅刹でシーター妃を返すように提言したけど、それに聞き入れない王に対してラーマの側に付くという...兄弟であるものの、ラーマ王子とラクシュマナ王子みたいに信頼し合っているではなく、分かり合えないときもある。そして、王のそばから一人の身内がいなくなった...
「王って孤独になる運命の存在なのかな...」と頂上から見渡せる景色と聞こえてきた静かな風の音で蘭華は少し感傷に浸った。
頂上ではかなりの広さがあり、今も王宮跡が残り、よく見ると当時の治水・建築技術の高さに驚かされるほどだった。
「ああ...楽しかったな...」と言って、蘭華はスマホを取り出して、この絶景と一緒に自撮り写真を記念に撮った。
さてと...降りようか。
満喫した後に蘭華は下り専用の階段に行って、恒例の掛け声で登ってきた客に励ましたり、逆に自分の片言の英語で反応した相手の返事で笑わせられた。
無事にライオンの入口まで戻った蘭華はさっきまで楽しかったことを思い出した後、少し違和感を感じ始めた。
...
楽しかったけど、やはり結局何も起きなかった。
今まで何回も不思議で不可解なことが起きておいて、ここまで来て何も起こらないのは逆に不思議だ!
私の仮説は間違ったのかな?
「シーター」
「ランカ」
「余」
「ラーマーヤナ」
もしかしてランカ王国の宮殿は別の場所にいるのかな...まいったな。
何も起きなかったことに当てが外れた気持ちで
「これじゃ、ただの世界遺産ツアーじゃないの~」と肩をすくめてがっかりした声で言った蘭華。
とそのとき、前を見ようとした彼女の目の前に突然人が現れた。
「!?」あまりの唐突さで動きと思考が一瞬止まった蘭華。
しょ...少女...?
現地の人の子か?
見た目は10代ぐらいの少女だ。
迷子じゃないと思うけど、突然現れてびっくりした...
「えーと...ハ、ハロー」と目の前にいる少女を試しに挨拶してみたが、その少女は無口のまま蘭華を見つめただけ。
服装から見て...古風な感じだな。
今の子供が着る服じゃない...
...
待って...
この顔は知っている...
いや、ちょっと待って...
なんで?
なんで顔が私と似ているんだ?
この子誰?何者?
ますます目の前の不可解のことが起きて、頭が混乱してしまった。
さっきまで不可解なことが起きてほしいと思う人とは見えなかった...
しかし、目の前の少女は蘭華の頭の整理を待ってくれない。
その少女は急に走り出した。
「待って!」ととっさに呼び掛けても少女は止まらなかった。
少女の後に追うことになった蘭華。
ようやく追いついたと思ったとき、少女が立ち止まった先にはただの岩山の崖だった。
周りには誰もいなかった。
「ここ...何があるの?」と崖を見た蘭華。
とそのとき、突然その崖の中に大きい穴ができ、石の階段が出現した。
そして、少女はその階段を登っていった。
不可解なことの連続で蘭華の頭がもうパンク寸前になった。
どうなっているんだ?何が起きているのか訳が分からない。
まるでファンタジー小説のような出来事じゃないの...これ?
とりあえず今はあの少女に追わないとと思った蘭華は突然出現した階段を登った。
中は薄暗い。足元があまり見えない。
そこで蘭華は自分のスマホを取り出して、懐中電灯機能を使って階段をなんとか登った。
なんでこの子は暗闇に普通に登れるの?
で...登った先には行き止まりのようだ。
と思った瞬間、光が岩の隙間から出て、四角い扉のような形をした。
よく見ると、その扉のようなところに文字列のようなものが刻まれた。
これは...石碑?
そして、急に文字列のようなものが石碑にに刻まれた場所に光って現れた。
少女はそれを見た後に、蘭華の方を見て、指でその扉に指した。
それを読む...解読してほしいという意味かな?
と半信半疑の蘭華は先を進んで、その光った文字を読もうとした。
これも古代文字で全部読み解けない...
けど、一部なら読める。
「王...安らぎ...場所?」
なんだろう...
とスマホのライトを当てたとき、文字の上に壁画が見えてきた。
これ...シギリヤレディと似ているフレスコ画だけど...
この壁画の女性...資料で見かけたある女性と似ている。
...
シーター妃...?
目の前にいる少女もいい...この壁画もいい...
まさに自分が探し求めた不思議のことの連続で逆に今は興奮状態になった蘭華。
この展開だと、この扉を開ける仕組みがあるはず...
それでスイッチのようなものを探そうとした蘭華だったが、見当たらなかった。
そこで少女は蘭華の方を見ながら、また指で別の場所を指した。
少女が指した場所にくぼみがある。
これ...まさかスイッチ...?とそのくぼみを触った瞬間、
扉の形をした石が動き、扉のように開いた。
そして、開いた扉の向こうに向かった少女は一言の言葉を放った途端、
幻のように蘭華の目の前に消えた。
少女が放った言葉は蘭華がはっきりと聞こえた。
たった一言で
「また会えたね」...と言って...消えた。
そして、扉の向こうにいる何者かの声が聞こえた。
「シーター」
どうやら...運命の歯車が動き出すときがやってきたようだ。
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