理不尽と復讐心(結末と別解釈)

現在

アジアンレストラン「Herbハーブ, Spiceスパイス & Monkeyモンキー


「灰に変える力...ですか?」と設楽ラクは驚いた表情で鳳を見つめた。

「そんな物騒な力を与えたら、どのような使われるか神様は分かりながら、それをやったのですか?」

「さあな...神話の神々っていう存在は私たち、特に現代社会の倫理観や価値観で当てはまるとあまり理解しがたい行動が多い。【神のいたずら】というやつはまさにこのようなことだと私は思う。」とラクの疑問の答えになっていない回答のまま、鳳は話を続けた。


「触れるものすべてを灰に変える力を手に入れた灰鬼ハイキだが、一つの条件がある。相手の頭を触らないと発動しないということだ。そこで、真っ先にその力を試そうとしたのはなんと...自分が仕えるシヴァ神だった。今では考えられないでしょう?会社で自分が元上司より上の立場に昇進した途端、その上司をクビにしようとするみたいな出来事だ。まあ...かなりことの深刻さをトーンダウンしたかな。」とマサラチャイを一口飲んでから、カップを置いた。そして、自分の手を見つめて話の続きを再開した。


「もちろんもともと自分が力を授けたことが原因で困ったシヴァ神はその場から逃げて、世界の守護神...ヴィシュヌ神のところに逃げ込んだ。シヴァ神に助けを求められたヴィシュヌ神はあの恐ろしい力でこれ以上の被害が拡大すれば神々まで被害が及ぶと思い、何を行動せねばと決めた。そして、守護神が取った行動はまさに巧妙な方法でした。」と言った鳳はさっきまで見つめた自分の手を自分の頭を触りながら、話をした。

「頭を触ると発動する力なら、相手本人がという手法を選びました。」


「そこで、ヴィシュヌ神は自分のアヴァターラ化身の一つ、美しい女性に変身して、灰鬼の前に現れた。その美麗な姿に魅了された灰鬼は即座に彼女を求婚した。それにかかった灰鬼に対して、彼女は条件として、自分の得意とする踊りを完璧に最後まで真似し通すことができれば灰鬼と結婚するという難解な条件を上げた。」

「なるほど...いきなり私のダンスを完コピしてみせろということですね。」と感心したラクだったが、それに対して、少し若い人の言葉に抵抗があるものの、話を続けた。

「まあ...今の言葉で言うとそれかな。その条件を飲んだ灰鬼は彼女の踊りの一つ一つの動きを見事に真似して、彼女の踊りに付いて行けた。しばらく二人の踊りが続くと、ヴィシュヌ神の化身である美女が決めの動きを取った。それはだ。油断した灰鬼はそれを真似した結果、自分の頭を触ってしまい...まあ、どうなるかは君も分かるよね?」

「自分自身が...燃えて灰になってしまったということですか?」とラクはやはり話の流れだとオチがこれであるとすでに理解した。

「そう...残念ながら、結果はこうなってしまった。別の解釈でもやはり同じなんだ。求婚された美女はまず、灰鬼に湖で汚れた体を洗うようにさせたところ、うっかり自分の濡れた髪を乾かそうとして頭を触ったという話もありました。どちらにしてもあまりにも愚かで、可哀想な結末でしたね。まだ復讐が果たせないまま、神々に騙されて、あっけなく灰になり果てたという結末は...」

「確かにこのような結末は最近ではあまり見かけませんね。自分の能力がうまく使いこなせないままに自滅するタイプの自業自得的な演出で、もはやこれは愚かとか可哀想というより、ギャグの境地にも入るじゃないかと思ってしまいます。まあ...本人ではたまったもんじゃいないという気持ちでいっぱいかと思いますが。」とラクが自分が思ったことを述べた。

「そうね。実はもう一つ...」とここまで説明した鳳が何かの次の話を移す前にメインな料理が到着した。


「お待たせシマシタ~マトンビリヤニとトムヤムクンになりまス~」と運ばれたのはお皿に盛りつけたサフラン色のライスの中に隠された肉と具材のマトンビリヤニと器に入った緑のハーブが赤色のスープとちょうどいいコントラストで彩るトムヤムクン。それらの料理を見た鳳はラクに問いかけた。

「これは...おススメのトムヤムクンか?」

やはりまだ半信半疑の鳳に対して、ラクは普通のように淡々と説明をした。


「そうですね...これがおススメの理由は、このメニューだけのレシピは秘密にされたらしいです。門外不出と言われた何かの秘密の調味料を入れたら、魔法がかかったように何倍美味しくなったとかならなかったとかのようです。」

「それ...サブカル的で言うとメイドカフェみたいにメイドという名の店員が愛情とか萌えとかという調味料で魔法をかけるみたいな設定じゃないよね?」と言ったそばから、ラクの親戚の店員が二人に笑顔で話し始めた。

「では...このトムヤムクンが何倍も美味しくなれるように...これから魔法のジュモンを唱えますので、おふたりも同じジュモンで言ってクダサイね~」

「何!?」とまさか自分の予想が当たって、驚きが隠せない鳳だが、さらに驚くのは彼の正面に座っているラクは表情一つも変えなかったことだった。

なんで驚かないのか、設楽くん!ここがメイドカフェなら普通に見られる光景だが、ここはアジアンレストランだぞ!この風景に驚かないのはもしかして...君も同じことに遭ったのか?それは気の毒だ...と勝手にラクを被害者だと思い込んだ鳳だったが、今は目の前の光景に理解が付いていけないまま、店員さんのジュモンが迫ってくる。


「では、行きますヨ~もえもえ...」と言い始めた途端、店の二階から叫び声が聞こえてきた。

「おい!ジュモンそれはやめろ!前にそれをやったら、めっちゃお客さんが引く顔って今でも思い出したぞ!」とその声の主が二階から降りてきた。見た目からすると、日本の人とは違う顔立ちをした中年男性が階段のところに立っていた。

「あ...オーナー...冗談ですヨ!冗談!ラクにびっくりさせようとしただけです。」と誤魔化すラクの親戚。それに対して、結構怒っている顔をしているオーナーと呼ばれた男。そこで、彼がため息をついて、ラクの親戚に警告した。

「店を話題にしたいアイディアを考えてくれてうれしいけど、二度とその真似をするなよ!店の評判がガタ落ち一方になる。」

「はい~かしこまりました。オーナー!では、ごゆっくり~」と返事してから、ラクと鳳に向けて最後の言葉を放って、厨房に戻った。


「は...やれやれ...の頼みだから、雇ったけど、時々とんでもないことをやらかそうとしたのは困るよな」と自分に言ったように話した男を見て、ラクは挨拶をした。

「オーナー、お久しぶりです。さっきのことはたぶん冗談だと思ったので、もしオーナーが止めなければ、僕は自分で止めますので、彼を許してください。」

「あ~そうだな。お前なら冷静に対応できると分かったよ。」とオーナーがラクの肩を軽く叩いて、笑顔で言った。

「最近あまり店に来ないから、どうしたのかと思ったが、元気そうだな、ラク。お兄さんも元気かい?」と言われたラクは少し困っている顔をして、ため息をついてから話した。

「ええ...相変わらず元気ですよ。一か月前にネパールに行ってきたので、もうここに寄ったかと思いました。」

「いや...うちも戻ってきたばかりでな。なんかネパールでしか入手できないものとかは君の親戚に渡したらしいけど、俺はまだ直接に会っていないな。」

「そうですか...会ったらオーナーのことを話しますね。」とそのやりとりを見ていた鳳に気づいた男はラクに質問した。


「この方は誰かな、ラク?」

「あ...紹介が忘れました。こちらは僕の大学で教授を務めている鳳教授です。鳳先生、こちらはこの店のオーナー、スリーヤさんです。タイ出身の方で、このトムヤムクンを開発した方です。」とお互いラクに紹介された二人は見つめ合って、相手の容姿を一見で確認してから、鳳は先に挨拶を始めた。

「ほ...初めまして...鳳です。このトムヤムクンの秘密のレシピを考えた方ですか。まだ食べていなくて、申し訳ない。」

「いいえ...うちの店員が変な真似をしてしまい、こちらこそすみません。Herbハーブ, Spiceスパイス & Monkeyモンキーのオーナーのスリーヤと申します。どうぞ冷めないうちに食べてみてください。」と自分がレシピを考えた料理を勧めたスリーヤと呼ばれたここのオーナー。

「では、遠慮なくいただきます。」と言ってから、スープをスプーンですくって、一口をした鳳。

「!?...これは!絶妙な酸味と辛さでよりエビと他の材料を引き立てるハーブとスパイスのちょうどいい調合率!辛さと旨味が凝縮したこの一口!すばらしい!」と急に料理バトル漫画で出てきた料理評論家の食レポみたいな口調になった鳳だが、それを見たオーナーのスリーヤは大きな笑いをした。

「ハハハ!お気に入って何よりです。ラクも気にしないでいっぱい食べてくれ!」

「いや、僕は酸っぱい辛いが苦手なので、このマトンビリヤニにします。」ときっぱり断ったラクだった。

「相変わらず可愛げないね...ラクは。お兄ちゃんの愛嬌を少し分けてもらったらどうだ?」と冗談っぽく言ったスリーヤだが、ラクが鋭い目線で返した。これ以上ツッコむとあまりよくないと感じたオーナーは別の話題に変えた。


「あ...そうそう...さっきお二人の話が聞こえたけど...その話...があるのよ。」と聞いて、スプーンを持っている手が止まった二人だった。

「別のバージョンですか?」とラクがスリーヤの話について説明を求めたが、先に鳳が説明をし始めた。

「そう...実はこのラーマーヤナのゼロ話という物語は灰鬼と少し違うキャラクターが登場したんだ。能力も違う。なぜならこれはまた別ののラーマーヤナだからな。その話はたぶんオーナーは知っていると思うが...」と鳳はオーナーのスリーヤに視線を向けた。

「その通り、これは俺の出身地であるタイのタイ版ラーマーヤナ【ラーマキアン】の物語だ...さっき鳳先生が説明した灰鬼はシヴァ神に力を与えるようにお願いしたところまでは一緒だが、お願いした能力は灰に変える力ではなく、自分の差し指が指したものを力なんだ。」

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