不思議な縁(運命の地:ジャナクプル)
5週間前のネパールの街、ジャナクプル
カトマンズでは設楽ラームと彼の親戚たちと共に旅したおかげでいい思い出ができた。
今日からは一人旅の醍醐味である...他の同行者を気にせず、自分が思うままに自由に行動するということを満喫したいと決めた蘭華であった。
と...思ったときに自分が持っているスマホがピコッと通知音が鳴った。確認すると、ラームからの返事が来たようだ。
「ラームさん、今はもう実家の村にいたんだ...おお、村から見た景色が自然いっぱいでキレイだ。そこにも行ってみたいね...もしかしてその辺でまた遺跡とかがあったりして...ふふ」と独り言で言った蘭華だった。
そう言えば、ラームさんと旅した時に次の目的地はジャナクプルだと言ったときに何か言われたなと急に思い出した蘭華。
「ジャナクプルですか...そこもキレイでラーマーヤナ好きな人にはぜひ訪れてほしいですね。まあ、僕のオススメなら、ポカラを勧めますが、自然がいっぱいで、さらにペワ湖からも周りの山からも眺めがすごい絶景で、湖の周りの店で料理を楽しみながら、絶景を眺めることもいい思い出になるかと思います。」
ごめんなさいね、ラームさん...絶景もいいけど、やはり私は花より団子...ではなく、絶景より遺跡ですな!と考えながら歩いたら、ついに蘭華は今回の旅で訪れたい1位の場所に到着した。
ジャナクプルを象徴する寺院、『ジャーナキー寺院』
ネパールで唯一インド風の建築であるこの真っ白の壁と色鮮やかな装飾を持つ
この寺院を中心にして、周りにもこの街で最も古いネパール層塔建築様式の寺院、ラム寺院。
ラーマ王子とシーター妃の結婚を再現する寺院、ラム・ジャナキ結婚寺院。
さらに、ジャナク寺院...ラチマン寺院...ハヌマン寺院...シヴァ寺院と言った寺院が祀られているのは『ラーマーヤナ』に登場するキャラクターばかりだ。
このジャナクプルはミティラー地方の中にヴィデーハまたの名はミティラー王国があったとされる元都で、そしてシーター妃はミティラー王のジャナカの娘であり、ここはシーター妃の生まれた場所とラーマ王子と結婚したとされる深いゆかりの地である。ラーマーヤナも含めて、ヒンドゥー教の聖地の一つだと呼ばれるのもこのジャナクプルである。
もちろん、蘭華にとってはカトマンズより訪れたい街ランキングの上位にある。それはもう...蘭華のテンションも爆上げになっているのもおかしくない。
「...わ~」という嬉しさと感無量な気持ちで圧倒された蘭華は何枚の写真をスマホで撮ったのか...とりあえず寺院の各アングルを何枚かシャッターを連写したので、シャッター音が鳴りやまなかった。
もちろん内部では撮影禁止なので、それができない分せめて外観は全て記録したい蘭華だったが、それだけでも一時間ぐらい眺めるというレベルだった。
『シーター』はただ悪者に攫われ、閉じ込められた設定のよく創作物などにあるか弱いお姫様みたいなキャラクターではない。国王に14年間の追放が言い渡されたときもラーマ王子の傍に支える献身的な自己犠牲と、ずっと
それを感傷に浸った蘭華は潤んだ瞳でそのような悲劇の妃のことを思いながら、祈りを捧げた。
私も誰かのために...
確かに
と改めてラームに対する印象がぶれなく天然たらしが健在である蘭華だった。
その後も周りの寺院を
やはり都内の生活はこのようなスローライフができないね...自分の実家と比べても、日本の田舎だと言ってもこのような雰囲気ではない。あ...久々に実家にも帰ろうかなと思った蘭華の視線は別の方向を見た。その方向にはネパール唯一の鉄道、ジャナクプル鉄道の駅がある方向である。
実はもともとそれに乗って、インドにも行こうとしたが、以前にもらったビザの期限が切れたことに気づかず、ビザの申請を忘れてしまった。アライバルビザは空港で手続きできないから、ここから国境を越えてからという話になる。そのため、残念ながら...今回のインドの旅を断念せざるを得ない。あとで分かったが、仮にビザがあるとしても外国の観光客はこの鉄道で国境を超えることができないとのことである。
今回はアライバルビザでネパールに入国できたので、問題なかった。あまりビザが必要ない日本のパスポートを持つ者にとってはビザ申請はあまり慣れていないか申請し忘れが多い。逆に言うと、ほぼ海外へのビザが必要の他国の人にはかなり羨ましい気持ちで見られたこともある。
「さすがに列車の上に乗るとかはしないけど...満員電車に比べたらもっと快適かな...?いやいや、まずは危険だ!」と自分の考えたことを危険予知で止めた後、蘭華は次に訪れたい場所に向かうために立ち上がった。
その日は帰りのバスが次の日にしたため、ホテルに泊まり、朝に起きてバスの出発時間まで時間がまだある。その時間を使って、少し街の中心から離れた村に訪れた。その目当ては『ミティラー画』である。
このミティラー地方では独自の文化があり、その中で一番知名度が高いのはミティラー画だと言っても過言ではない。
ミティラー画はあの有名な画伯『ピカソ』にもインスピレーションを与えて、高く評価された民俗芸術である。ミティラー・アートとも言えるこの独特な絵のスタイルは3千年前からこの習慣があったと言われる。村の女性が日々の中の物を形にすると言われて、そこから展開して祈りや祝いのために家の素朴な土壁の内壁にも外壁にもに描かれている。自然にあるものから神様の絵までバラエティー豊かのシンプルかつ独特な絵が代々に受け継がれ、今でも見られる伝統である。
「美術は専門外だけど...この独特なセンスは本当に面白いね。」と歩きながら、絵を楽しみながら、村の子供たちのあいさつに応じたり話をかけたりした蘭華だった。
さらに、蘭華は街の女性開発センターという施設にも尋ねた。ここに住む女性たちが絵を描く技術を習得しながら、伝統美術を応用した作品を作っているらしい。村まで
ミティラー画が描かれた絵画からマグカップまでお土産の品々などが置いてある場所に入って、お土産を選ぼうとしている蘭華。
そこで一人の老婆が蘭華に英語で優しく尋ねてきた。
「何かを探しているかい、お嬢さん?」それに対して、蘭華はネパール語でただ普通に返事した。
「あ、いいえ。まだ見ています。」と言って老婆の顔を見たら、何か違和感を感じた。
その老婆は蘭華の顔を見た瞬間、蘭華を怯えるように突然目を開いて、唇が震え始めた。
そして、何かの言葉をしゃべりだした。
その反応に対して、疑問を持っている蘭華は老婆に話をしようとした。
「おばあちゃん...大丈夫ですか?私...何かよくないことをしました?」とその質問に何の答えがないまま、また同じ言葉を繰り返して、頭を抱えはじめた。
蘭華も混乱し始めたが、一方で老婆が言った言葉を聞き取ろうとしてみた。
これ...
ネパール語でもない...
ヒンディー語でもない...
これって、マイティリー語?
ミティラー地方の人々はヒンディー語より近い『マイティリー語』を話す人も少なくない。
しかし、それが理解できるほど蘭華はこの言語には聞き取れない...そのはずだった。
聞き取れなかった言葉は段々分かるように...まるで翻訳機能が急に作動したように老婆の言葉が分かるようになった。
その内容は...
「許してください...」
「私にお許しください...」
「申し訳ございません...申し訳ございません...申し訳ございません...申し訳ございません...」
「申し訳ございません!...お許し下さい!シーター様!」
と言ってから、外へ走って行った老婆の後ろ姿を見た蘭華はまだ自分が体験したことが完全に理解できなかった。
さっきは...何だ?
何で私はあのおばあちゃんが言ったことが分かるの?
それより...「私のこと、シーターと呼ばなかった?」とふっと言葉をこぼした。
シーター...
シーター妃のこと?
そこでさらに先日に聞こえた誰かのささやき声がまた突然聞こえてきた。
「ランカ...」
「え?今度は何?」
やはり今自分に起きた不可解なことではさすが誰でも動揺する...蘭華もそうだった。
しかし、動揺をしながらも蘭華は頭の中に整理しようとしていた。
また聞こえてきた...あの声
誰の声か分からないけど...でも、さっきもいい前もいい...
ランカ...確かに自分の名前だが、もしかしてこれはランカ島のことを言っているの?
と南アジア好きの頭脳は自分の名前より物語に登場した場所だと思うのもさすが彼女だった。
そして、前のささやき声で聞こえた名前と先日ラームのいとこの子供が言った名前が一致している。
シーター...これはシーター妃のことだと思った方が一番話が嚙み合うだろう...
「これって、ラーマーヤナ...だよね?」と頭の整理が終わった蘭華が導き出した答えが一つだった。
ランカ島なら、この不可解で不思議な現象の究明に何か繋がりが見つかるではないか...
そして、ずっと悩んでいた研究のテーマにつながる答えが見つかるかもしれない...
「ランカ島...羅刹の王国...それだ!」と自分に決意を口にした蘭華は建物の外を出て、空を見上げた。
そして、次の旅先を決めた。
「ヨシ!決めた!スリランカだ...そこに行こう!」
と...言ってからはいいものの、どうやってそこに行くための資金を手に入れるか急に現実が蘭華を襲い掛かり、我に返った蘭華だった。
「は...とりあえずお土産を買っていくか...」とまたお土産を見るために建物の中に戻った。
まずはバスに乗って、
カトマンズに戻って、
日本に帰って、
それから計画を考えるか...と決めた蘭華であった。
これで今回の蘭華のネパールでの旅は終わり...
しかし、これからの旅は彼女、そして周りの人の運命の歯車を大きく歪めてしまうことは無論...
彼女は何も知らなかった...
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