第10話

食事を終えた三人は側の平けた場所へ移動した。そこでレオとルファスは対峙し、ルファスの右後ろ付近でティアは二人を観戦していた。


 「レオ、まずは剣術の前に剣士にとっての魔法について話しておく」


 「ん? 剣士にとっての魔法? ティアから教わってるのと違うのか?」


 「先程レオがやっていた魔法は攻撃魔法だ。 剣士が使うのは基本は強化魔法になる。 もちろん攻撃魔法も使うが隙を作るために使うくらいだな。 まぁ稀にどちらも得意という奴もいるがな」


 「強化魔法か。 それはおれにもできるのか?」


 「強化魔法は属性がないから魔力があれば使える。 まぁ得手不得手はあるがな。強化魔法の基本は、攻撃力はブースト、防御力はプロテクト、素早さはアクセルとある。 まずはこれからだな。 やり方はどの箇所の何をどのくらい強化するかをイメージし、魔力を送ると使える。 見ていろ」


 ルファスは剣を抜き、足に魔力を送り、一気に左側にある岩の前へ移動したと同時に今度は右腕に魔力を送り、岩を軽く一振りし剣を納め戻ってきた。


 「ん? ルファ爺、岩まで移動したのは凄かったけど岩なんともなってないぞ?」


 (う〜ん……ルファス……どこかで聞いた名じゃのぉ。 にしてもあの一振り……レオは気付かなかったみたいじゃのぉ。 この後のレオが見ものじゃ)


 ルファスがなぜ戻ってきたのかレオには分からず、そのレオの姿を見ながらティアはニヤニヤしていた。


 「歳はとりたくないものだ。 レオ見ていろ」


 ルファスは足元に落ちていた小石を取り、先程の岩に投げた。小石が当たった岩は粉々に崩れていった。


 「えっ!? どいうことだ? 一振りして……あれ?」


 「アハハッ 笑いが止まらぬわ。 予想通りの反応で最高じゃ! 腹がねじれるわぁ」


 予想外の事が起きて困惑しているレオの姿を見てティアはお腹を抱えながら笑い転げていた。


 「なんだよティア! おまえはわかったのかよ!?」


 「ヒーッヒー はぁ、笑い過ぎて死んでしまう。 ……16回じゃ。 レオには一振りに見えたかもしれんが、あの一瞬で16回斬っておる。 しかもブースト、アクセルの二重強化じゃ」


 「あの一瞬で16回も斬ってたのか!? 一振りにしか見えなかった」


 レオは今まで技より力、一撃必殺のヨゼフに剣術を教わっていたため、ルファスのような技の剣術に目がついていかなかった。


 「ほぉ……ティアは中々良い眼をもってるじゃないか」


 「今さっき思い出しての。 白き剣聖ルファスじゃったかな? う〜む……たしか、わしの記憶が正しければおぬしは…………」


 「過去の話だ。 今は只のルファスだ」


 ティアの話を遮ぎる様にルファスは割り込んできた。何かを納得したのかティアはこの話を掘り下げることはしなかった。


 「ルファ爺も親父みたいな感じで呼ばれてたんだな。 白き鬼神に白き剣聖か。 親父と闘ったら圧勝じゃないのか?」


 「まぁ昔は二人で色々とやったものだ。 ヨゼフとは何度か試合をしたが全て決着がつかなかった」


 レオの言葉に対し、昔を思い出すかの様にルファスは語った。


 「あいつとの試合は本当に楽しかった。 私がいくら強化して斬りつけてもあいつは物怖じせず突っ込んで一撃を放ってきていた。 気操術で網の様に気を練ってそれを二重にし全身を覆ったり、時には範囲を狭めて三重にしたりとあの図体に似合わず、繊細な技を使ってきていた。 私にあいつの一撃が当たることはなかったが、私の剣もあいつに届くことはなかった。 歳はとりたくないものだ……涙腺が緩くてなってしまう」


 目頭を押さえながらルファスは笑っていた。


 「いいなそういう関係。 ライバルであって親友。 おれもいつかそういう奴と出会いたいな」


 「きっと出会えるだろう。 ヨゼフとの決着はあの世でやることにするか。 さて、続けるぞ」


 この二人のやり取りを見ていたティアは微笑んでいた。ここに新たに深い絆が生まれてきていると。


 「先程ティアが言っていた二重強化についてだが、おまえに難しい事を言ってもわからないだろうから簡単に言うと、言葉通り強化を二種類使うって事だ。 私が使ったのはブーストとアクセルを腕に使ったのだ。 腕の攻撃力と素早さを上げたという事だ」


 「う〜ん、アクセルの素早さはわかるんだけど、ブーストの攻撃力っていうのは筋力じゃないのか?」


 「それは違うな。 筋力などは身体能力になるから、気操術の強化がそれになる。 魔法による強化は、魔力の量がそのまま乗っかって威力になる。 ブーストに関していえば近闘攻撃魔法みたいなもんだな。 そもそも強化魔法が…………」


 ルファスは長々と強化魔法について語り始めた。レオは案の定空を見上げていた。ティアは何処かで見た風景だと思いながら二人のやり取りを見ていた。


 「…………ということだ。 私としたことがつい熱くなってしまった。 ……ティアの時と同じことが起きてるな……」


 あの時かと納得がいったティアはルファスにグッドサインを送っていた。


 「ルファ爺、空見てたら思いついたんだけど強化魔法と気操術を同時に使ったらどうなるんだ?」


 「空見て思いつくことなのか? まぁいい、発想はいいな。 だが、大抵は魔法か気のどちらかに適性が偏る。 私は気より魔法の方が得意で逆がヨゼフだ。 まぁ、おまえならできるかもしれないな」


 「そうかぁ……やってみるかな。 要は魔法と気を同じくらいってことだよな」


 レオは静かに目を閉じ、静の息吹をしながら足にアクセルをイメージし、静かに目を開け力を入れた。


 「っ!?」


 「な、なんじゃ!?」


 ルファスとティアの間に突風が抜け、ティアの長い髪とワンピースがなびいた。

 その直後後方で ズザザーッ という音と共に土煙が上がった。二人は音が鳴った方へ向くと、土煙の中から体勢を崩しながらも立っているレオがいた。

 ルファスとティア、二人の眼を持ってしても見失う程の凄まじい速さで間を通り抜けていた。


 「な、何が起きたんだ……?」


 「わしらの間を通り抜けた……見えたかの?」


 「いや、風が抜けただけだ」


 「わしもじゃ……」


 二人はレオを見ながら驚きで立ち竦んでいた。

 二人をよそに、土煙の中レオは何かを掴んだらしく不敵な笑みを浮かべていた。

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