第6話

 水の神殿内部


 「膨大な魔力を持ったものが近づいてきています。直ちに、戦闘準備に入りなさい!」


 地面に着くくらい長い水色の髪、装飾が施された青と白を基調にしたローブ、トライデントのような矛を持った美女が、慌ただしく指示を出していた。


 「エリス様! 入口への封印が解かれました!」


 「な、なんですって! あの封印解くことができるなんて……何者なの……」


 湖の封印は、エリスが何重にも封印術を重ねがけしているため、簡単に解けるものではなかった。


 「はぁ……出来ることなら、話し合いで終わらせたいところね……」


 エリスは四大精霊の中でも好戦的な方ではなかった。


 「入口に入り次第、何用か問いただし祭壇に連れてきなさい。 好戦的でない場合は丁重に、好戦的なら……全力で……」


 精霊たちはエリスの言葉に頷き、颯爽と持ち場へむかった。



 「さぁて、いこうか!」


 レオが立ち三人は神殿の中へと入っていった。入って一本道を進んでいくと広間に出た。そこには槍を構えた精霊と弓を構えた精霊達に囲まれた。


 「お、おい……なんだってんだよ!」


 レオが驚いていると、精霊達の中から一人の精霊が寄ってきた。


 「私は水の精霊王 エリス様の二柱が一人 ディネと申します。 貴方達は何用でこちらにいらしたのですか?」


 ロングヘアの青髪、白いローブを着た美少女が尋ねた。


 「おれ達は水の精霊王さんに聞きたいことがあるんだよ。 争いにきたんじゃないぞ」


 「……そちらの女性は?」


 「ん? わしか? わしもレオと同じじゃ」


 「……わかりました。 エリス様の元へお連れしましょう。 申し訳ありませんが、武器は預からさせて頂きます。 よろしいですね?」


 「あぁ 構わない」


 「では、どうぞこちらへ」


 レオ達は武器を精霊に預け、奥の祭壇の部屋へ向かった。

 神殿の中は、水が壁や道の脇など至る所に流れていて、水の音が響き渡り、涼しく、陽の光が差し込み水に反射し、とても神秘的な場所であった。


 「どうぞ、こちらでお待ちください」


 祭壇の部屋へ着くと、ディネは奥へきえていった。

 祭壇の部屋は円形の大広間で、中央に祭壇があり、祭壇への一本道と祭壇の周り以外水が占めていた。


 「綺麗なとこだな 至る所水でまさに水の神殿って感じだな」


 「当たり前だ。 水の神殿だからな」


 ルファスは呆れた顔で言った。

 そんな話をしながら待っていると、祭壇の周りを覆うように水が噴水のように噴き上がった。


 「おぉっ! 何が起きてんだ!?」


 「ふん! 演出好きな小娘が……」


 ティアが小さく呟いた。

 噴水が治ると、祭壇の中央に三人の精霊が立っていた。


 「初めまして。 私が水の精霊王 エリス・ウンディーネと申します。 左にいますのが先ほど皆様をこちらまでお連れした ディネ。 右にいますのが二柱のもう一人 ディセと申します」


 中央に精霊王エリス、左右に同じ顔、同じ体格、同じ服装をした二柱のディネとディセがいた。


 「初めまして おれはレオ。こっちの爺さんがルファス、こっちのちっこいのがティアだ」


 「なっ! このわしをちっこいとは何様じゃーーー!!」


 「悪かった悪かった!」


 ルファスは精霊王を前にしてこのやり取りに呆れていた。


 「……レオよ、あなたは私に何を聞きたいのでしょうか?」


 「あっそうだった。 おれの四大精霊によって封印された封印を解いてもらいたいんだ。 頼むよ」


 レオの発言に精霊王、二柱は青ざめた。


 「っ!! あなたは…… ……出来ません……」


 「なんでだよ? 勝手に封印しといて出来ませんじゃねぇだろ!」


 「……あなたが何と言おうと封印を解くことは出来ません」


 レオとエリスのやり取りが続く中、ティアが割って入った。


 「……よいでわないか。 レオの封印を解いてやればよい のぉ……エリスよ」


 ティアはエリスを睨みつけて言った。

 エリス達は青ざめ、震えが起きていた。


 「……あ、あなた様は……」


 「わしは単なる巫女じゃ! 巫女! 巫女以外の何でもない。 ……わかるじゃろ?」


 ティアはエリスを嬲るように目線を送りながら言った。 

 エリスは唾を飲み、小さく頷いた。


 「……わかりました。 レオ、あなたの水の封印を解きます。 こちらに来てください」


 レオは祭壇の方へ歩いて行った。

 祭壇に着くと、エリスは膝をつき、レオの胸に手をやり呪文を唱え始めた。

 すると、周りの水がレオを包み始めた。


 「うわっ! 何だこれ! 溺れちま……あれ? 息ができる」


 エリスは呪文を唱え続け、レオを包んだ水の球体に光の文字が浮かび上がってきた。

 その文字がレオの胸の紋様に吸い込まれていき、水の球体が弾けた。


 「ふぅ……これであなたの水の封印は解けました。 魔力も多少戻ったでしょう」


 「本当か! これでおれも魔法使えるのか!?」


 「使えますよ。 ですが、使えるのは水属性のみです。 解いた封印の属性が使えるようになります」


 「そうか これでやっと魔法が使えるのか!」


 「子供のようにはしゃぎおって。 もうここには用はないじゃろ? 行くぞ」


 「はしゃぎたくもなるだろ! やっと魔法が使えるんだぞ! ん? ティア。 おまえの用はすんだのか?」


 「えっ! あ、あぁ……わしは神殿の中に入れればクリアじゃ」


 「そうなのか? エリス様ありがとう! またなんかあったら来るわ」


 三人は祭壇の部屋を後にした。

 三人が去っている時、ディネとディセが声を合わせるように言った。


 「エリス様……あの女性の方は……」


 「そうね……あの方は……」


 エリス達は困惑しながら三人を見送った。

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