第3話
家に着いたヨゼフの顔は、意外にも穏やかな顔をしていた。
「またお前を着ることになるとはな……」
部屋の奥隅にしまっていた大きな木箱を開けた。
中には銀地に赤い模様が施されたプレートアーマーがあった。よく手入れされており、年季が入ってるようには見えない。
ヨゼフはプレートアーマーを着込み、身の丈ほどある刀身が太めの大剣を持ち、部屋を見渡した。
「……覚悟はしていたが……結構辛いな……」
レオが初めて立った場所……怒鳴られ泣いた場所……二人で笑った場所……見る場所見る場所レオとの15年間の思い出が込み上げてきていた。
「……ぐぅぅっ……」
兜の下でヨゼフは涙を堪えることができなかった。
しかし、涙を流しながらも歩み始めた。
人気のない村の広場を抜け、村外の平原へ向かった。
「……この雲の動き」
ヨゼフは気操術を使い平原に向かった。
ヨゼフが平原に着くと、雲が渦状になり、稲光を放っていた。
「……来るか……」
ヨゼフは渦の中心を見ながら呟いた。
その瞬間、渦の中心から黒い稲妻が平原に落ち、爆音をあげ、土埃が周囲を包んだ。
その中に薄っすらと人影のようなものが見える。
「本当……この移動方法どうにかならないの!? 汚れるから嫌いなのよね!」
土埃の中から女性が一人歩いてきた。
「あら……お出迎えがあるなんて嬉しいわ」
胸元が開いた黒いドレス、ウェーブがかかった長い黒髪、血の気のない白い肌の妖艶な女が不敵な笑みを浮かべていた。
「……こちらとしては来てもらいたくなかったがな……目的はレオか?」
「まぁっ! 話が早くて助かりますわ! 教えてくだ……らなさそうですわね」
「……さぁ、始めようか」
「せっかちは嫌われますわよ」
互いに戦闘態勢に入った。
周囲の大気が震え始め、空では雷鳴が轟いていた。
二人が一瞬消え、ぶつかり合った瞬間、凄まじい轟音と地響きが起きた。
この轟音と地響きはレオのところまで届いていた。
「なんだっ!?」
レオは咄嗟に音のなった方に目をやった。
「村の方で何かあったのか!? しかも、あの雲……嫌な予感がする」
花を詰めた鞄を手にし、異様な雲を目掛けて、枝や葉で体が傷付いていることすら気に留めず、全力で向かった。
道中何度も、轟音と地響きがあった。
「……誰もいない……?」
村に着いたレオは、人の気配がない村を見回して、嫌な予感が確信に変わった。
その時、今までで一番の轟音が鳴り響いき、辺りは静まり返った。
「……まさかっ!」
轟音がなった方へ急いで向かった。
「……なんだよ……これ……」
レオが目にした光景は、穴や地割れなど荒れ果てた平原の中心に、折れた大剣にボロボロになった鎧をまとい血だらけで倒れたヨゼフと黒髪の女性が立っていた。
「親父っ!!」
一目散に駆け寄り、上半身を抱えた。
「……おまえか……」
「はい?」
「おまえがやったのかぁーーーーーー!!!!」
「っ!?」
レオの怒号と同時に、体全体から白く輝く光と黒く禍々しい稲光が天を貫いた。
女性を睨んだ途端、女性は後方へ飛ばされた。
「な、なんなのこの魔力はっ! まさか……レオ様!?」
女は余りにも強力な魔力を前に震えで立つことができなくなっていた。
レオは女を睨みつけていた。
「……この状況で連れてくのは無理ね……一旦引きましょう」
女はもてる魔力を振り絞り雲の渦へ飛んでいった。
ヨゼフを抱えてるレオは動くことが出来なかった。 女は雲の渦に入ると渦の中心で強い稲光と共に女は消え、暗雲から光が差し込み、レオ達を照らした。
「親父っ! 大丈夫かっ!?」
「……レオ……よく聞け。 お前には封印が……」
「は、早く治さないと……」
「聞けといってるだ! 馬鹿者!」
「っ!?」
「……おまえには封印が施されている。 これからはその封印を解く旅に出ろ。 おれの親友がここへ向かっている。 奴に詳しい話はしてあるから奴と共に行け」
「なにいってんだよ! 親父がいるじゃねか……」
「おれはここまでだ……レオ……おまえと過ごした時間……幸せだった……ありがとな……」
「親父! なにいってんだよ! これからも一緒じゃねぇか!」
「……馬鹿息子が…………少し……寝るぞ……」
ヨゼフは目を閉じ、手が静かに地面についた。
「おい……嘘だろ……親父っ! 冗談はやめろよ……起きろよ……親父……うわぁぁぁーーーーー!!!!」
レオはヨゼフを強く抱きしめ、号泣した。
白き鬼神 ヨゼフ は最愛の息子の胸の中で最期を遂げた。
「……間に合わなかったか……」
レオ達の後方から、茶色のマントにとんがり帽子、白髭の男が歩いてレオの隣はやってきた。
(ヨゼフ……幸せな顔をしている。 後のことは私に任せろ……安らかにな……)
男はヨゼフを見て優しく微笑んだ。
雲から光が差し、優しい風が吹いていた……。
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