第2話
「腹も減ったし、さっさと帰るか……それにしてもばぁさんの伝言……」
レオは老婆からヨゼフへの伝言を気にしながら、家へ向かって走っていた。
その頃、ヨゼフは家の畑を汗を垂らしながら畑を耕していた。
「……雲行きが怪しいな……」
額の汗を拭きながら、空を見上げて呟いた。
空には今にも雨が降ってきそうな、黒く厚い雲に覆われていた。
ヨゼフは畑仕事を一段落終え、農具を片付けていた。
「親父買ってきたぞ」
「おぉ、ご苦労。町は何も変わりはなかったか?」
「特には。あぁ、ばぁさんが動き始めたって伝えてくれって言ってたぞ」
「……っ!? とうとう来ちまったか……」
老婆からの伝言を聞いた瞬間、ヨゼフは険しい顔になり、空を見上げた。
空からは一粒、また一粒と徐々に雨が降り始めていた。
ヨゼフとレオは一階の居間で昼食を済ませ、くつろいでいた。
外は雨音が聞こえるほど本降りになっていた。
「親父……魔力ってのは、後から宿ったりするのか??」
レオは居間の窓から外を眺めながら聞いた。
「どうだろな。聞いたことないな。 お前には魔力がなくても使える、気操術を教えただろ。 今はそれでいいんだ……今はな……」
ヨゼフは険しい顔をしながら、自分の大剣を取り、手入れを始めた。
気操術
魔力ではなく、体内に流動的に流れている、生命の力 気 を操り、筋力や自己治癒などの身体能力の向上、気を武器や防具に流し、鋭利さや強度の向上など行える。
レオは幼い頃からこの気操術、体術、剣術をヨゼフにより叩き込まれていた。
レオに魔力がないことをしっていたかのように……
「……今は?」
ヨゼフの意味深な発言に首を傾げていた。
「レオよ、明日昼過ぎからばぁさん家の裏山で、カーベラの花を摘んできてくれないか……」
変わらず険しい顔で、大剣の手入れをしながら言った。
「あぁ、あの花か。 柄にもなく花かよ。 好きな人にでもあげるのかぁ?」
レオは笑みを浮かべながら、ヨゼフを煽るように言った。
「……まぁ、そんなとこだ……」
「……なんか調子狂うなぁ。 修行がてら取ってきてやるよ。」
ヨゼフのいつもと違う雰囲気を気にしながら、自分の部屋へ行こうとしていた。
「レオっ! お前には、俺の教えれることは全て教えた。 何が起ころうと、誰がなんと言おうと、お前はお前の道を貫けっ! 強くなれよっ!」
部屋に行こうとしたレオを呼び止め、ヨゼフの険しい顔はなく、笑みを浮かべていた。
「急になんだ? 親父熱でもあるじゃねぇか?」
いつもと違うことばかりで、調子が狂ったレオは、早めに寝ることにした。
ヨゼフは部屋に戻るレオの後ろ姿を見ながら
「……強くなれよ……」
ヨゼフの眼から一筋の涙が流れていた……。
翌朝
雨は止んだものの、まだ空は、黒く厚い雲に覆われていた。
ヨゼフとレオは朝食を済ませ、各々支度をしていた。
「親父ちょっと早いけどいってくるわ。 晩飯には帰ってくるから。」
鞄を持ってレオは階段を駆け下り、玄関へ颯爽と向かった。
「わかった……おれは村長のとこへ行ってくるからな」
ヨゼフの顔は、昨夜より険しい顔になっていた。
レオはヨゼフの顔色を気にしながらも外へ出て行った。
「さて、やるか!」
レオは庭で肩幅で立ち、力を抜き、息を深く吸って吐いた。
これは気操術の呼吸法の一つ 静の息吹 といい、体の気を高め、流動する気を感じやすくし、操りやすくする。
気をどこに集めるかにより腕力、脚力など向上することができる。
今回、レオは下半身に気を集め、脚力を向上させた。
「はっ!!」
レオは村に向けて風のように走った。
村が近づくと、家の屋根伝いに跳ねながら渡り、薬屋の裏まで行き、山へ入っていった。
村人達は 元気なことだ と、笑みを浮かべていた。
レオは山の中腹にある、村を一望できるひらけた場所がお気に入りで、修行はここでやっていた。
「親父に頼まれてた花は、来る途中採ったから始めるか」
レオは静の息吹を始めた。
レオの修行は、気を球体のように集め、右手から左手へ、右足から腹部を通り左足へ、体の中を流れるように気の球体を動かしていくのを繰り返す。
瞬時に思った部位に気を集める。
剣を持ち、剣へ気を送り、落ちてくる葉を切るなどを行なっていた。
この修行を幼い頃から行なっており、気操術に関しては達人の域に達していた。
その頃、ヨゼフは村長に会いに村へ来ていた。
「村長……村人の避難を頼む」
「来なければと思っていたが、来てしまったか……」
「すまない……村に被害が出ないように善処する」
「村全体で決めたことじゃ……気にするでない。お主こそ大丈夫か?」
「あいつからは、幸せを沢山もらったし……最後くらい親として、かっこいいとこみせないとな」
顔を歪めながら笑顔をこぼした。
「……行こうかの……」
村長はヨゼフの顔見て返す言葉がなかった。
二人は村の広場へ向かった。
村長の一声で村人達は避難を始めた。
小さい村ということもあるが、魔物などの襲撃に備え避難訓練を行なっていたため、スムーズに避難は完了した。
「……さて、行くか」
避難誘導を終えたヨゼフは、一人家へと帰っていった。その背中を見送った村人達の顔は悲しみをうかべていた。
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