拾われた少年と封印された力

@mioshio

第1話

川や森、自然が豊かな人口50人程の小さな村 スムル 。

 その村の外れに木造二階建ての家が建っていた。

 白髪の短髪に白いあご髭、服の上からでもわかるほどの鍛え抜かれた巨漢の男が荒々しく階段を上がり二階の部屋へやってきた。


 「……なんだ、親父か……」


 寝癖がたった黒髪の少年がベッドから寝ぼけた声で答えた。


 「いつまで寝てるんだ!さっさと買い出しに行って来い。」


 「……後ちょっとしたら行くわ……」


 少年が言葉を言い終えると同時に、低く重い打撃音とともに少年は宙を舞い、開いていた窓から外の木に飛ばされ引っかかっていた。


 「いってぇ……咄嗟に防いだけど、俺じゃなかったら死んでるぞ!」


 「いつまでも寝てるからだ!魔の森でおまえを見つけ、育てた15年のうち12年はあんなに可愛かったのに、3年で生意気になってしまった。 もう、いい……レオ! 昨日言ってた買出し、さっさと行ってこい」


 苦痛を浮かべながら木の枝に立っている

少年に巨漢の男は男泣きしながら小銭袋を投げつけた。


 「じじぃだから涙腺弱いんだな……」


 巨漢の男が睨め付けると少年は木から飛び降り、逃げるように村の中心へ向かった。


 少年の名はレオ。


 巨漢の男の名はヨゼフ。


 15年前……魔の森と呼ばれる、多種多様の魔物が闊歩している危険な森があった。

 冒険者だったヨゼフは、魔の森の魔物討伐の依頼を受け、魔の森へと向かった。

 無事依頼を達成し、帰りの道中に目にしたのは信じがたいことだった。

 この危険な森の中に、籠の中に布で包まれた赤児がいたのだ。

 ヨゼフは自分の目を疑いながら籠に近寄り、寝ている赤児の布を取り、抱き上げた。

 赤児の首には一つのペンダントが付いていた。

 そのペンダントの裏に レオ という文字が刻まれていた。

 寝ていた赤児が目を覚まし、ヨゼフを見ながら満面の笑みを浮かべ、ヨゼフの白い髭を引っ張った。

 ヨゼフは顔を歪めながらも、赤児の満面の笑みを見て、自分も笑みを浮かべていることに気づいた。

 当時、 白き鬼神 と恐れられていたヨゼフが、何年振りかに笑みを浮かべ、ヨゼフ自身が驚いていた。


 「潮時か……」


 赤児の顔を見ながら笑みを浮かべた。


 「おまえの名はレオ!! この白き鬼神ヨゼフの息子とし、我が残りの人生をおまえに費やすことを誓おう!!」


 魔の森と恐れられる森の中で大声で叫び、誓いを立てた。

 その後、ヨゼフは冒険者を辞め、スムルの村でレオを育てることにした。


 「いてぇ…まだ両腕が痺れてるよ…」


 ヨゼフの一撃を防いだ両腕の痺れをとるように振りながら走っていた。

 村の中心までは小川に沿って一本道。

 その途中、川で遊んでいる少年が二人いた。


 「おい、あいつが走ってくるぞ」


 「ん? あぁ……魔なしか」


 少年たちの声がレオの耳に届いていた。


 「……魔力なんて、いらねぇ……」

 

 魔なし

 この世界では魔法が主で回っていた。

 生活や仕事など色々な場面で魔法は使われ、魔力が高ければ宮廷魔術師などの上位職に就ける。

 成人の儀式 15歳になると教会にて、魔力適正が行われる。

 水晶に手をかざすと光り始め、光の強さで魔力量がわかり、光の色によって適正属性が調べられる。

 その儀式でレオが水晶に手をかざすと、水晶は何の反応を示さなかった。

 この結果により、レオは魔力適正なし、魔なしとなった。


 「さてと、親父に言われてた薬草を買いに行くか」


 村の中心 広場に着いた。

 広場は村で一番栄えた場所で、野菜や果物、衣類など、様々な店があつまっている。

 レオは、ヨゼフに頼まれていた薬草を買いに広場を抜けた先にある薬屋へ向かっていた。


 「レオっ! またヨゼフにいじめられたのかぁ!?」


 野菜や果物が並んでいる店から威勢のいい男が話しかけてきた。


 「いじめられてねぇよ。 遊んでやってんだよ」


 「仲良くやれよ。ほら、これ持ってきな」


 笑いながら赤く丸い果実をレオに放り投げた。


 「ありがとう。 適度に仲良くやるわ」


 放り投げられた果実を食べながら広場を抜け、蔦が絡み付いている一軒の薬屋があった。


 「ばぁさん、いるかぁーー!?」


 ドアを開け、辺りを見回しながら叫んだ。

 店の中は、何に使うのかわからない器具や草花が乱雑していた。


 「……動き出したか……」


 奥のカウンターで水晶に両手を当てながら、老婆が呟いていた。


 「ばぁさん、いるなら返事しろよ」


 乱雑している物を避けながら、奥のカウンターに近寄っていった。


 「うるさいのが来おった……何用じゃ……」


 「そんな嫌そうにすんなよ。 親父に頼まれて、薬草買いに来たんだよ」


 「さっさと持って行きな……ヨゼフに動き出したと伝えな……」


 老婆は薬草を放り投げ、意味深な伝言を頼んできた。


 「……??……伝えとくよ。 またよろしく」


 店を出て行く背中を見送りながら、老婆は呟いた。


 「残酷なものよのぉ…ヨゼフよ…」

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