第22話 待ち合わせの待ち合わせ
日曜日がやってきた。
俺は、朝起きてからすぐにカーテンを開ける。
雲ひとつない青空が広がっているのを見て、「よかったぁ」とつぶやいていた。
森本さんとの待ち合わせ当日が快晴になったのはただの偶然なのだが、瀬能さんの勇気を太陽が褒めたたえてくれているかのように思えて、心が興奮しているのを感じる。
それに、雨の中、公園で待ち合わせっていうのはちょっとね。
「あっ、そうだ」
俺は晴れ渡る空に向けて手を合わせる。
「お母さん、この幸運をありがとう」
誰に向けていいかわからない感謝は、偶然に対する感謝は、これから母親にしようといま決めた。
***
今日は、駅の南口で瀬能さんと待ち合わせてから、二人で公園に向かうことになっている。
待ち合わせ時刻は午前十時と、少し早めに設定した。
その方が心の準備の時間が取れると思ったのだ。
……にしても、本当にこれでよかったのだろうか。
前日からつづいているそわそわは、時間が進むにつれてひどくなっている。
なに着ていけばいいんだ、と昨日の夜になって焦り始め、数少ない私服を全部クローゼットから取り出し、全通り試したんじゃないかってくらいコーディネートを試した。
こんなことなら女装じゃなくてオシャレに目覚めておけばよかった。
そもそも明日の主役は俺じゃなくて、瀬能さんと森本さんだけど。
付き添いの俺がこんなに悩む必要はないのだけど。
……で、結局。
スマホで『メンズ 初夏 コーデ 自然』で検索し、俺の数少ない服でも再現可能なコーディネートにした。
ジーンズに白のTシャツ、紺の上着。
駅まで歩く時に、同じような格好の男子を何人か見つけて少し安心した。
みんなと同じ、これ安心なり。
「瀬能さん……来てくれるかなぁ」
駅前にある牛のオブジェのそばで瀬能さんの到着を待っていると、急に不安が押し寄せてきた。
大丈夫、大丈夫、と自分に言い聞かせる。
余裕を持って到着した方がいいと思って三十分前に来たものの……少し早すぎたか?
と思っていたら、それから五分も経たずに瀬能さんはやってきた。
「おはよう。瀬能さん。早いね」
「辻星くんこそ」
瀬能さんは紺色のジーンズに黒のTシャツ、黒のキャップをかぶっている。
全国指名手配犯みたいな格好だ。
「いや、やっぱお願いしたの俺だし、待たせちゃいけないかな……って思ってさ」
「私こそ、私のためだから早くしないとって思ったんだけど、辻星くん早すぎ。私が待ちたかったなぁ」
「遅れてないし、競ってたわけでもないから、気にしないで」
苦笑しながら、俺は瀬能さんの持っているバスケットに目をやる。
「それは?」
「お昼の、お弁当」
瀬能さんは、少しだけバスケットを持ち上げた。
「え、瀬能さん、作ってきたの?」
「だって公園だし、辻星くんもいるから……」
瀬能さんはそこで言葉を止め、帽子のつばを下げて赤く染まった頬を隠してしまう。
まだ言いたいことがあったように見えたから、俺がそれを言葉にしてあげることにした。
「絶対に喜ぶよ。瀬能さんのお父さんも」
瀬能さんは肯定も否定もせず、さらに俯いてしまう。
その姿を見て、恥ずかしがっている瀬能さんの顔を生で見たいという悪戯心にかられて、つばを摘んで一気に帽子を持ち上げた。
「あ、と、とと、とわっ」
いや、とわっ、って、永遠ってことかよ。
俺は、焦る瀬能さんに笑いかける。
「それじゃあ、行こうか」
瀬能さんは、まだあわあわ目を回していたが、俺が取った帽子を被せ直してやると。
「もう、辻星くん」
ぷくりと頬を膨らませ、いじけたように、恥ずかしそうに笑った。
「うん。行く」
ぷくり瀬能さんも、ほんと、永遠に可愛いなぁ。
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