第2話「うつ病について」

 少し、自分という人間の話をしよう。


 聴覚障害者で、うつ病持ち。恋人はおらず、当然子供もいない。一人暮らしかつ、現在は……求職中、ということにしておこう。


 今の立場を利用して、朝から晩まで小説を書くことはザラだ。合間にSNSを覗いたりして、自分よりも評価やレビューをもらっている人に嫉妬を覚えることもよくある。


 一人暮らしで、求職中。普通ならお先真っ暗だ。学生の頃からコツコツと貯めてきたお金と、障害年金のおかげでなんとか暮らせていけている。でも、それもいつまで続くのかわからない。先行き不透明。


 なぜ、今のような状態になったのか。これは話すとかなり長くなるし、面白い話でもない。だから今の時点では、「うつ病で心身ともにやられている」とだけ書き記しておく。




 うつ病は怖い病気だ。


 心の病気と見なされることが多いが、その影響は体にも出てくる。


 朝、起きたら体が動かない。手足が鉛のように重い。


 トイレの時も、赤ちゃんのように這いずらないととても行けない。


 何を食べても美味しくない。味を感じない。


 気持ちが落ち込み、趣味を楽しめない。


 目まいがする、動悸がする、吐き気がする……こういった症状は人それぞれだが、「明らかに普通の状態で動けない」のは高確率でうつだ。




 今のご時世、もはやうつ病は珍しいものでもなくなった。「コロナうつ」というワードも出てくるぐらい、浸透している。


 けれど、うつになったことのない人にとっては、未だ理解の及ばない病気であることに変わりはない。さすがにうつになった人に「頑張れ」「うつは気のせい」「うつは心の風邪だからすぐに治る」とほざくような輩は少なくなった――と信じたい。


 今や学校にも会社にもカウンセラーが派遣される時代だ。意識の改善、啓発も行われているはずだ——と信じたい。


 信じたい、と書いたのは自分自身、「世間」「社会」「職場」と切り離されている期間が長くなりつつあるためだ。今の労働環境がどうなっているのかは、ネットのニュースで確かめる外ない。中には当然、ガセもあるが。




 今、うつになっている人はどれぐらいいるだろう。


 その人たちは普段から、誰かとコミュニケーションを取れていただろうか。自分の本心を伝えることができていただろうか。誰かと笑い合い、時にはケンカしたり、時には一緒に悲しんだり……そういう風に感情を共有できていただろうか。


「ただ自分の話を聞いてほしい」そういった理由で、カウンセリングを受ける人もいるという。自分も、その気持ちは痛いほどよくわかる。


 改善や解決を求めているのではないのだ。




 今や小学生ですら、うつにかかるという。産後うつ、季節型うつ、非定型うつ……誰もがうつになってもおかしくない時代になった。


 けれど自分は、自分の場合は「なりたくてなったわけじゃない」と声を大にして言いたい。


 ただ、どうしても……どうしても力が及ばなかった。


 できることなら普通に働きたかった。


 安定した収入を得つつ、執筆にも力を入れ、いずれは専業作家に……そんな風に希望を抱いたことだってある。


 そんな希望はとうの昔に打ち砕かれた。


「今は仕事のことを考えず、とにかく療養に専念して下さい」とドクターストップがかかる始末だ。


 だから今は書くしかない。他にやれることがない。


 何か、自分で生み出したもの……自分なりの成果がないと、生きている意味も価値もないように思えてくるのだ。

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