第2話

家への帰り道。子どもの時よく遊んだ公園がある。一人で砂場で遊ぶのが好きだった。高校の入学式、この桜の木の前で家族写真を撮った。同じように写真を撮りたい人がいて少し並んでいた。いつものようにおとう、あの人はイライラしてるし、もう一人は記念だからとしか言わない。早くここからいなくなりたい。いや違うかも。この桜があるきれいな空間からみんな消えてほしい。エゴのかたまりな物体は消えてほしい。私も消えちゃうな。はあ。こんな人生早く終わってほしいな。そんな入学式だった。あの日から教室には行ってない。家でも話せなくなった。声の出し方がわからなくなっちゃった。胸がぎゅーって声を出そうとするとすーっと空気が漏れてしまう。ああ、この家やだな。早く出ていきたい。遠くに遠くに。気が付くとすーっと自分の負の世界に入ってしまう。ちょっと時間を潰していこう。少しずつ暗くなってきた。塾は21時くらいまでやってるていだから、あと3時間はあるな。ちょっと寒いな。あの時の桜の木がある。立派だなあ。葉はまばらに散ってる。あの時は、エゴがたくさん群がっていた。今は誰も見向きもしない。桜の花びらが散り始めたとき、「残念だね」と言ってる人がいた。何が残念なの?今でもこんなに美しいのに。散ってしまったら終わりなの?桜の木は、花が咲いてる時しか生きてないの?それ以外は死んでるの?そんなことないよ。花が咲いてなくったって、ずっとこうやって強く生きてるよ。人はうまく行ってる時には、近寄ってきて頑張ってるねとかすごいねとか、見ていることをアピールしてくる。そうじゃない時には、見向きもしない。私だってずっと生きてるよ。うまくいかないことばっかりだし、生きてるのしんどいなって時もがんばって生きてるよ。生きてる本質ってなに?きらきらしてないといけないの?桜はずっとそこにあるんだよ。春にはきれいな花を咲かせるけど、秋も冬もこうやって強くある。誰も注目しないし、落ち葉が邪魔だって悪口言われてもそこにある。普段見向きもしないエゴが春にコロッと態度を変えて近寄ってきても変わらずにそこにある。強いな。私はずっと見てるよ。あなたのがんばりをずっと見てるよ。あなたの存在を感じるよ。私もあなたみたいに強くなりたい。友だちになってくれる?風に木の葉が揺れた。きれいな月が出ていた。ブランコで女の子とおばあちゃんが一緒に遊んでいることに気づいた。いつからいたんだろう。でもなんか懐かしいな。

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