第09/23話 出目予測
「それでは、ラウンド2のロールタイムを開始します」
(さて、それじゃあ、ロールを行うか。はたして、どんな目が出るか……強い役が出来れば、いいんだがな)
競一は、そう心の中で呟くと、トリガーに、右手人差し指を載せた。
そこで、ふと、閃いた。
(待てよ……ロールを行った結果、どんな役が出来るか、については、わかるんじゃないか? おれの【ハンド】、《運動予測》を行使すれば……)
競一は、トリガーから、指を離した。腕を組み、考えを巡らせ始める。
(いや……ロールを行う前に、《運動予測》を行使して、出来る役を知ったところで、それがいったい、どんなメリットを齎すって言うんだ? 別に、出目を変えられるわけじゃないんだぞ……意味がないじゃないか)
競一は、そう結論を出すと、腕を解いた。右手人差し指を、トリガーに載せると、それを、深く沈み込ませる。
そして、トリガーから指を離そうとした、その直前に、再び、閃いた。
(そうだ……このトリガー、押し込む深さを、ある程度、調節できるようになっているじゃないか。その深さによって、床の跳ね上がる勢いは異なる……すなわち、出目も変わる。
トリガーを押し込む深さを、いくつかに分類して、それぞれについて、《運動予測》を行使して、サイコロの出目を予測すればいいんだ。例えば、押し込みが、浅ければ【1】が出る、深ければ【6】が出る、はたしてどちらで押し込むべきか、みたいな感じで……)
そんな結論を出した後、競一は、トリガーを押し込める深さについて、いくつに分類できるか、調査した。もちろん、それを押し込んだ後は、弾かず、ゆっくりと元の位置に戻すことで、ロールを行ってしまわないよう、気をつけた。
結果、深さは、大きく分けて、【深】【中】【浅】の三つに分類することができる、とわかった。それぞれについて、《運動予測》を行使して、サイコロの出目を予測してみる。【深】は【①345】、【中】は【③456】、【浅】は【①256】となった。
(だが……過信は禁物だな。《運動予測》を行使して得られる、予測結果の精度は、経験に比例する……例えば、何度も見たことのある物体運動なら、高くなるが、一度も見たことのない、あるいは、数度しか見たことのない物体運動なら、低くなってしまう。
このマシンを使ってのロールは、まだ、二度しか行っていない……つまり、《運動予測》の精度は、低い。予測した目と違う値が出ることも、じゅうぶん、考えられる。
しかし、それでも、予測が大きく外れる、ということは、ないはずだ。逆に言えば、ロールを、すでに二度も行っているんだから。
つまり……予測した目の真反対に位置する目は出ない、と考えていいだろう。例えば、予測した目が【1】なら、出るのは【1】から【5】までのいずれかで、【1】の真反対に位置する【6】は出ない、というわけだ。たしか、他にも、【2】と【5】、【3】と【4】が、お互い、真反対に位置していたな……)
競一は、右手を顎に当てると、考えを巡らせ始めた。
(さて、今回は、【深】【中】【浅】のうち、どの深さで、トリガーを弾くべきなんだ?
……いや、別に、そう思い悩むような話じゃないか。どうせ、《運動予測》は、あくまで目安なんだ。単純に、予測した出目で作られる役が、最も強いやつにしよう。ええと、そう考えると、このラウンドでは……【③456】の【中】か)
そう結論を出すと、競一は、ロールマシンのトリガーを、【中】で、ぱちん、と弾いた。サイコロが、ケースの中を、ごろんごろん、という音を立てながら、転がり回り始める。
やがて、それらのうち、二個が止まった。出目は【⑥6】だった。
(よし!)競一は、片手で小さくガッツポーズをした。(これで、少なくとも、【半ゾロ】は確定した……!)
その後、さらに、サイコロが一個、止まった。出目は【6】だった。
(よし、よし、よし!)競一は、両手で大きくガッツポーズをした。(これで、【準ゾロ】だ! 後は、最後のサイコロの出目も【6】なら、【全ゾロ】……しかも、このギャンブルにおける、最強の役だ! ラウンド1と同じ……!)
そんなことを考えている間に、最後のサイコロが、止まった。
出目は、【5】だった。役は【⑥665】だ。
(じゅうぶんだ……じゅうぶん過ぎる! 【準ゾロ】で、ゾロ目値は【6】、非ゾロ目値は【5】……かなり強い役だ。ラウンド1での役、【⑥666】といい、今日は、ついているのかもしれないな……)競一は、軽くにやついた。
しばらくしてから、ロールタイムが終わり、衝立が取り払われた。森之谷が、「それでは、ベットタイムを開始します」と言った。
「お二人とも、アンティをベットしてください。アンティは2CPです」
言われたとおり、競一と赫雄は、チップを二枚、それぞれの陣地にあるサークルに置いた。森之谷が、「それでは、轟橋さま。アクションを決定してください」と言った。
(おれのアクションは、すでに決まっている……【レイズ】だ。なにせ、おれの役は、今回も、かなり強いんだからな。赫雄の役が【全ゾロ】以外なら、絶対に、負けない。
そうだなあ……赫雄のほうから、【レイズ】してくれれば、助かるんだがな。おれは、それに対して、【コール】するだけでいい。あるいは、やつの増やしたチップが少なければ、さらに【レイズ】してもかまわない)
競一が、いろいろと思いを巡らせている間も、赫雄は、腕を組んで、考え込んでいた。やがて、彼の陣地にあるBTタイマーのディスプレイが表示している値は、「09:00」を下回った。
(だが、「赫雄のほうから【レイズ】してくれれば助かる」というのは、あくまで、「増やしたチップが多くない」という場合の話だ。極端な話、仮に、オールインを行われて、賭ける額を49CPなんかに設定されたら、とても厄介だ……おれの役は、かなり強いが、最強、というわけではないからな。負ける可能性は、高くはないが、なくもない。
それに、もし、49CPが賭けられた状態で、ショーダウンが行われ、おれが負けた場合、おれの所持チップは、底を尽く。これでは、ラウンド3のアンティが払えない。プレイヤーが、そんな状態に陥った場合、その時点で、そのセットにおける敗北が確定してしまう……)
しかし、競一の心配は、杞憂に終わった。赫雄は、彼の陣地にあるBTタイマーのディスプレイの表示が「08:00」を下回ったくらいのタイミングで、「【コール】」と言ったのだ。
(【コール】か……さては、赫雄のやつ、役が弱いのか?)
「それでは、品辺さま。アクションを決定してください」
(で、おれの番か……まあ、さっき考えたとおり、【レイズ】に決まっているんだが──はたして、チップを、いくらに増額させるべきか?)
競一は、腕を組んで、考え込み始めた。そして、数十秒後、腕を解くと、「【レイズ】、5CP」と言った。サークルに置かれているチップ二枚に、三枚を加える。
(さあ……どう出る? ラウンド1と違って、おれにも負ける可能性がある以上、できれば【フォールド】してほしいんだが……)
しかし、赫雄は、「【コール】」と言った。贔島がBTタイマーをスタートさせてから、十秒ほどしか経っていなかった。その後、彼は、サークルに、チップ三枚を追加した。
「それでは、ショーダウンを行います。お二人とも、役を開示してください」
競一は、ロールマシンのカバーを取り去った。それから、テーブルの上、敵陣にあるマシンに、視線を遣った。
赫雄の役は、【①111】だった。
「な……!」
競一は思わず、そんな声を上げた。口が、独りでに、半分ほど開いた。。
(ぐ……赫雄は、おれに「役が弱い」と思わせるため、わざと【レイズ】ではなく【コール】したのか……)軽く、歯噛みする。(やつの作戦に、まんまと、引っかかってしまった……)
「轟橋さまの勝利です。それでは、轟橋さま。チップを獲得してください」
そう森之谷が言った後、赫雄は、テーブルの中央めがけて、両手を伸ばした。二つのサークルに置かれているチップ、合計十枚を、左右から挟むようにして、掴む。そして、それらを、ずずーっ、と引き摺るようにして、自分の体に向かって、移動させていった。最終的には、所持チップの山に合体させた。
「現在の所持チップ額は、品辺さまが47CP、轟橋さまが54CPです」森之谷が、そう言っている間、贔島が、テーブルに衝立を設置した。
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