第15話 場違いな写真
俺は一旦自分の教室に戻ることにした。
ロッカーの中にスマホがあるので、さっそく、中等部生徒会長から聞いた情報を元に、ストーカーアカウントを調べてみる。
つぶやきサイトで、名前は……「青柳」。アカウント名は……「AOYAGI」。
検索すると一発でヒット。つぶやきには写真だけが添付されている。
クソッ。里桜さんが写っている。
このアカウトは、プロフィールに何も書いておらず、ツイートは彼女の写真のみ。
フォロワーは三十人程度しかいない。
こいつらはいったい何を見るためにフォローしているんだ?
俺はこのアカウントをフォローすることにした。コイツの正体を突き止めたい。
他のフォロワーも同じ考えなんだろうか……まさかな。
単に、可愛い女子中学生の写真をを見るだけが目的だという可能性もある。
俺は、夢で見たストーカーの名前と特徴を思い出そうとした。
しかし。思い出せるのは、
「ストーカーに襲われたそうよ……かわいそうに」
これだけだ。
夢の中で、この発言をした喪服の女性や愛利奈に聞けばもっと詳しい話が聞けるだろう。
夢の中で家に帰って新聞を漁っても良い。ネットでもニュースになっていることだろう。
しかし茜色の夢は、映画のようにただ見せられるだけで意思を持って介入ができるわけではない。
いつももどかしい思いをする。
もっと、いろいろなことが分かれば、できることも増えるだろうに。
よくあるタイムリープもののように、失敗しても何度も繰り返すことなんてできない。
この戦いは常に、一発勝負なのだ。
「おい、おまえらー、席に着けー」
午後の授業の先生がやってきた。
俺は一旦、調査は打ち切り、スマホを鞄にしまい、席に着いた。
******
家に帰り、すぐに自室に籠もる。
スマホで、つぶやきサイトにあるストーカーと言われるアカウントをじっくりと見て行く。
ヒントはないか?
手がかりはないか?
写真はどれも里桜さんを遠目に撮影してある。全部最近撮影したものだ。
アカウント自体は新しい。一ヶ月前に作られている。
俺が里桜さんに会う少し前だな。
写真はだいたい二十枚ほど。どうやってかは分からないが、少し遠目から里桜さんを撮影している。
里桜さんをピンポイントで切り取っているところから、彼女を完全にターゲットにしている感じだ。
クソッ。里桜さんの隣に愛利奈っぽい女の子の姿が見切れて写っている。
さらに、男の生徒も見切れている。ていうか俺だ。
切り取られているが、撮影されていることも知らずに間抜け面をした自分が……。
背景はごくごく近所で見覚えがありすぎる。朝一緒に通学しているところを撮影されたのだろう。
「ん?」
学校や下校時ではゆっくり見られなかったのでスルーしていたのだが、里桜さんが写ってない風景写真が一枚ある。
どこかの港のようだ。
空は青く、海も穏やかでもっと青い。
小さな田舎の港といった風情だ。
防波堤と、何隻かの小型の船が写っている。
どうも見覚えがある。たぶん、俺の住んでいる同じ県内のどこかの港なのだろう。
里桜さんに関係あるのか?
俺はスクショを取った。
……里桜さんのスマホに送ろうとしたけどやめる。
聞いても良いだろうけど、いきなりストーカーだとか、そのアカウントにある写真だとかを彼女に送るのも気が引けた。
ストーカーかどうかはまだ確定じゃないな。
とはいえ、この感じだとストーカーだと言ってもいいだろうけど。
里桜さんの前に愛利奈にまず伝えてみよう。
ちょうど愛利奈が帰っており、ノックして部屋に入る。
「ああ、お兄さま、何ですか?」
「ちょっ!」
「どうかしましたか?」
愛利奈は下着姿だった。白いシンプルなブラとショーツのみだ。
ふっくらと膨らみつつある胸、細い足。とてもスレンダーだ。
今まさに、制服を脱いでゴスロリ風お嬢様の服に着替えようとしていた。
「愛利奈っ、着替え中ならそう言ってよ!」
俺は目を背けながら言った。俺はちゃんとノックをしたはずだが、返事をするのみで何も言わなかったはずだ。
「お気遣いありがとうございます。でも大丈夫です。
気にしませんよ、家族ですし」
まったく恥ずかしがる様子がなく、淡々と着替えている。
シュルシュルと、衣擦れの音がする。
「その割に、愛利奈は俺の裸見て赤くなってなかったか?」
「あっ……そ、それは……その、久しぶりに見てちょっと男らしいなってドキドキして……って何を言っているんですか。
私は恥ずかしくないのでお兄さまも普通にして下さい」
声がうわずっている。
でもまあ、そう言うならと俺は愛利奈を見た。
「もしかしてお兄さま、私の裸にドキドキされましたか?
成長を感じましたか?」
「そ、それは……びっくりしたけど……でもスレンダーでスタイルがいいなって……」
「はあ、どうせ里桜ちゃんと違って貧相だとか言いたいんでしょう? これでも一応Cカップあるのですが」
愛利奈は自らの胸の大きさを確かめるように揉んでいる。
不思議だ。こんな色っぽさの欠片もないやり取りをしていると、愛利奈の下着姿に何も感じなくなってきた。
同時に、俺は愛利奈との胸がどうこうというやりとりで、少し気が軽くなっていた。
ありがたい。
俺はぼんやりと、愛利奈の着替えが終わるのを待った。
「それでお兄さま、何か用ですか?」
「いや、写真のことで聞きたいことがあるんだけど……今愛利奈のスマホに送った」
里桜さんの盗撮されていた写真は一旦保留だ。
俺は、ストーカーのアカウントにあった、謎な港の写真を送った。
「あら、ありがとうございます……。えっ?
これって……」
愛利奈には、なにかピンと来るものがあったようだ。
よかった、これが正解なのだろう。
「見覚えあるのか……?」
「これ、どこにありました?
もしかしてネットの記事に残っていたとかですか?」
「え?
ネットの記事?
どうしてそういう話になるんだ?」
「写真の港は……里桜ちゃんのお兄さまが亡くなった場所……ですの」
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