第二章 謎を求めて妹と一緒に

第14話 足跡

 朝は冷え込むようになり、秋は容赦なく深まっていく。

 広葉樹の木々が次第に色づき、その先にある冬を示唆していた。

 風が冷たく、心なしか景色も色あせて見える。



「上高先輩、愛利奈ちゃん、おはようございます」


「おはよう」



 朝、いつも通り里桜さんが家に迎えに来る。

 俺は遠慮して愛利奈と里桜さん二人で登校して良いというのだが、愛利奈がそれを拒否した。



「お兄さまは、里桜さまが一緒に登校するのは当然ですわ」



 と言って譲らない。

 俺と里桜さんが話していると、それを少し離れた位置から、「尊い」とかぼそっと言うのだ。



「も、もう……愛利奈ちゃん……」



 里桜さんは恥ずかしがりながらも、少しだけ嬉しそう。


 そんな平凡な日々に、俺は溺れてしまいそうになる。

 このまま、こんな日が続いていったら、どれだけ幸せだろうか。


 彼女の周りを注意して見ていても、怪しい人物は現れない。

 タイムリミットはまだ先だとは思う。多分、あの景色は十二月。

 まだ一ヶ月以上ある。


 しかし、悠長なことは言ってられない。

 俺は、色々あがいてみることにした。



 とりあえずできるのは……もっと客観的に里桜さんのことを知ることだと思う。

 そう考えた俺は、里桜さんがいるクラスに再び赴いた。


 目的のクラスの入り口に近づき、教室の中をそれとなく覗いていると一人の男子生徒が近づいてきた。


「先輩、何か用ですか?」


 見覚えがある顔。そうだ、中等部生徒会長の……確か青海とかいったっけ。

 俺は彼を知っているが、彼は俺に面識がないようだ。

 先輩と言ったのは、俺が高等部の制服を着ているからだろう。


 見た目は穏やかで、誠実そうな面持ち。顔立ちも整っていて、モテそうだ。少し長めの髪に切れ者という感じの瞳。


 スラッとしていて身長もそこそこある。

 まあ、これくらいのルックスがないと生徒会長などなれないのかもしれないと思うのは俺の偏見だろうか。


 生徒会長になるくらいの人格者なのだろう。

 俺は里桜さんのことを聞いてみることにした。



「ちょっと聞きたいことがあるんだが……。

 里桜さんのことなんだが、彼女はクラスでどんな感じなのかと思って。

 特に、いじめられているようなことはないか?」


「うーん、そうですね……ちょっと気になることはあります」



 何か含みを持たせた言い方をする青海。

 なんだ?



「気になること?」


「えっと、その前に一つ確認したいことがあります」


「何だ?」


「先輩は誰で、どうしてうちのクラスの下山さんのことを聞くのですか?」


 青海は、鋭く俺を睨んで言った。若干の不信感を俺に抱いているようだ。

 俺は一瞬言葉に詰まる。確かに、普通なら高等部の生徒が中等部にまで出向いてこんな質問などしない。

 怪しまれるのも無理はない。


「それは……」


「すみません、別に言いたくないことは言わなくていいのですが……ペラペラと他人のことを言うのも気が引けます」



 確かに、彼の言うとおりだ。

 でも、ここで引き下がるわけにはいかない。



「俺は上高っていう高等部一年の生徒だ。ここのクラスに妹の愛利奈がいる」


「あっ……上高愛利奈さんのお兄さん?」


「そうだ。妹と里桜さんは仲が良いんだけど、妹が最近里桜さんのことを心配しているみたいでね。

 手助けができないかと思って」


「そうなんですか。妹思いなんですね」


「ああ、妹は俺と違って人当たりも良いし、優しい子だからね」


「へぇ……先輩ってシスコンなんですか?」



 敢えて煽っているようにも思えるが……ここは乗っておこう。



「そうかもな。悪いか?」


 そういうと、小さく「マジですか」とつぶやきやがった。


「話は聞かせてくれるよな?」


「まあ、はい。じゃあ、ちょっとこっちに」



 俺は青海についていくと、ひとけのない階段に着いた。

 愛利奈や里桜さん、あるいは他の生徒に聞かれたくない話なのか?


「実は……SNSで下山さんをストーカーしてるアカウントがあって」


「ストーカー?」



 どくん。

 俺の心臓が震える。

 ストーカー。里桜さんを殺害する犯人……。



「はい。そういう話をクラスの男子が話していたのを聞いたことがあって調べたら本当みたいで……。

 多分、下山さんも上高さんも気付いていないかも」



 これは重要な情報だ。

 夢の中でも、大人が「ストーカーに襲われた」と言っていたはずだ。



「どうやったら、そのストーカーを見つけられる?」


「つぶやきサイトで、この名前を検索すると彼女の後ろ姿とかを写真を投稿しているアカウントが見つかるはずです」


「そうか……早速探してみる。ありがとう」


「いえいえ。下山さんは長期にわたって休んでいたので……クラスにも馴染めず心配しているんです。

 いつも上高愛利奈さんが気にされていて……僕も手助けしたいんですけどなかなか……。

 この話も、どうやって伝えたものか悩んでいたのです」


「そうか。気にかけてくれてたって事?」


「はい。僕に何かできることがあれば、協力しますので何でも言ってください」


「分かった。また聞きに来ることがあると思うからよろしくな」



 青海と一緒に教室まで戻り中を覗いた。

 愛利奈と里桜さんが楽しげに話しているのが見える。


 里桜さんは、今週の金曜日から手術のため入院するとのことだ。

 とはいえ、それほど長くはない予定で、長くても一週間あれば退院できるらしい。


 俺がここに来たことは気付いてないようだ。


 そうだ、変に巻き込んだりしてもいけない。

 これは自分だけで調べるべきなのだ。


 俺は一旦自分の教室に戻ることにした。

 ロッカーの中にスマホがあるので、早速聞いた情報を元に、ストーカーアカウントを調べてみる。





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