第5話 挑発
思う
清々しい気分で俺は目が覚める。
「疲れも全くないな」
戦士のパッシブスキルは、回復能力も向上してくれる。
そのため、昨日一日中激しく動き回ったにも関わらず、体に疲れは一切残っていなかった。
おっさんになって疲れが抜けにくくなってきた身としては、有難い事この上なしだ。
とりあえずクエスト清算の為、俺は着替えてギルドへと向かう。
「昨日受けたクエストの清算と、新規クエストの受注と清算を願いします」
ボードからビッグワームの胆石取集の依頼書を剥ぎ取り、昨日受けたクエストと共に受付に提出する。
昨日狩り集めた大量の胆石と共に。
最低ランクの依頼であるビッグワームの胆石収集クエストは基本糞安いので、人気が無く常に余りまくっている状態だ。
お陰で集めた胆石を一気に清算する事が出来て助かる。
「成功されたんですね。おめでとうございます。それもこんなにたくさん」
昨日は不信気味だった受付の女性が、笑顔で祝ってくれた。
これで
「はは、年甲斐もなくつい張り切ってしまってね」
「此方が報酬になります」
受付嬢が複数の清算を済ませて、報酬をトレーの上に乗せる。
生まれて初めて得た、冒険者として報酬。
額としては転職屋の仕事一回分よりずっと少ない物だったが、俺はそれを握りしめた。
……俺は本当の冒険者になったんだ。
報酬を貰ったこの瞬間、昨日魔物を狩れた時よりも強い実感がこみあげて来る。
思わず大声で「やったー!」と叫びたくなるが、ぐっと堪えた。
流石にこんな場所で雄叫びを上げるのはアレだからな。
「あ、あの……どうかされましたか?」
受付の女性が、俺におっかなびっくりと言った様子で声をかけてきた。
まあ彼女からすれば、いきなりいおっさんが報酬を握りしてめて固まった様に見えていた訳だろうし、焦るのも無理はない。
「ああ、いや。気にしないでくれ」
こんな場所で感傷に浸るのもあれなんで、今日はもう帰って自分祝いを――
「あん?」
俺がその場から離れようとすると、カウンター奥にある扉が開き、中から数名の人間が姿を現す。
その中に一人、見知った人物の姿があった。
――ゲゼゼだ。
俺に気付いた奴は、此方へずかずかと大股で歩いてくる。
「おいおい、何でアマルが
相変わらず人を小馬鹿にしたムカつく物言いだ。
「今クエストの清算を終えた所だ」
「ああん?アマルが清算?そりゃなんの冗談だ?」
予想通りの反応が返って来る。
まあいきなり笑顔で「オメデトウ!」とか言われても寒気がするので、別にいいが。
「オメーじゃ最弱の魔物も狩れないだろうが?」
「これでも20年努力して来たんだ。ビッグワームくらいは狩れる様にはなるさ」
本当はサブクラス付与と言うスキルのお陰なのだが、それをこの場で口にするつもりはなかった。
サブクラスなんて物は、絡まれた時に助けてくれた大男から聞かされるまで俺自身知りもしなかった情報だ。
一般的に知られていない特殊な物である事は、疑い様がないだろう。
そういった情報を周囲にべらべら吹聴する程、俺も馬鹿ではない。
トラブルの元になりかねないからな。
「ふむ……まあ確かに、ビッグワームみたいな糞雑魚なら流石に転職屋でも狩れるか」
奴は俺の言葉に少し考えた素振りを見せてから、まあ最弱の魔物位なら努力でどうにかなると結論付けた様だ。
――実際はその最弱の魔物ですら、非戦闘のユニーククラスでは狩るのが難しい。
以前の奴ならその事に気づけただろう。
だが、既に戦士として20年活動しているゲゼゼはギフトを受ける前の感覚が消失している様で、あっさり俺の言葉に納得する。
「じゃあな」
ゲゼゼのせいで、折角の気分が台無しだ。
これ以上不快な気分になる前に、さっさと退散する事にする。
「おい待てよアマル!」
「まだ何か用か?」
ギルドから出ていこうとすると、ゲゼゼに大声で呼び止められる。
面倒くさいと思いつつも、無視したらしつこく追いかけてきそうなので足を止め振り返った。
「どれぐらい腕を上げたのか、俺が確認してやるよ」
どうやら、勝負のお誘いの様だ。
「ま、怖いのなら無理強いはしないぜ!」
奴は周囲に聞こえる様、大声でそう挑発してきた。
断った俺を、逃げ出した臆病者と吹聴して、笑いものにしようって腹積もりなのだろう。
本当に嫌な性格をしている。
「分かった。胸を借りるよ」
だが俺は奴の言葉にイエスの返事を返す。
別にゲゼゼの挑発に乗った訳でも、腹が立って頭に血が昇っている訳でもない。
単純に知っておきたいと思ったのだ。
Bランク冒険者の実力。
そして今の俺が、そんな相手にどの程度渡り合えるのかかを。
何せ今までは訓練ばかりだったからな。
サブクラスの効果で最弱の魔物を容易く倒す事は出来る様になったが、自分の現状を正確に把握できてはいない。
これはそれを確認するいいチャンスだ。
「……ぷっ、ははは。こいつはいい」
ゲゼゼがゲラゲラと笑い出す。
奴の頭の中では、もう俺をボコボコにしているイメージでも浮かんでいるのだろう。
まあどうでもいいさ。
ギルド内で手合わせを宣言している以上、負けても大けがを負わされる様な事はないだろうし。
「ギルド長!裏の広場を使わせて貰うぜ!」
ゲゼゼと一緒に出て来た中年の男性は、この支部のギルド長だった様だ。
奴がギャーギャー喚いてもお咎めが無かったのは、Aランクパーティーの肩書があるからだろう。
奥の扉から一緒に出て来た辺り、それが察せられる。
まあAランクは通常範囲のパーティーの中では、最高位みたいなもんだからな。
その影響力も大きい。
「わかった。だが、ジャッジは私がさせて貰うぞ。怪我人を出されても困るからな」
「ははは!安心しろ!俺はちゃんと手加減してやるからよ!」
ゲゼゼが上機嫌にギルドから出ていき。
俺は黙ってそれに付いて行く。
さて、どの程度戦えるか……
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