第6話 拍子抜け

ギルドの裏側は、ちょっとした運動の出来る広場となっている。

その気になれば訓練とかも出来るが、利用している者の姿は見当たらない。

今は貸きり状態だ


俺は広いスペースを取って奴と向かい合う。

それぞれの手には、訓練用の金属棒が握られている。

木製だと、クラス持ち通しの打ち合いに到底耐えられない為だ。


「へっ。じゃあ行くぜ」


ゲゼゼの奴が半笑いで攻撃を宣言してくる。


言うまでもないが、Bランク冒険者である奴の方が俺より格上だ。

普通こういう時は格下に先制を譲ってくれる物なのだが、そんな気は更々ないらしい。

胸を貸してやると言いながら、俺をボコボコにして悦に浸る事しか考えていないのが丸出しだった。


「オラァ!」


ゲゼゼが突っ込んできて、棒を乱雑に振るう。

どうやら奴は、此方の事を完全に舐め切っている様だ。

動きも雑で酷いが、そのスピードは欠伸が出そうな程に鈍い。


まあ延々俺を馬鹿にし続けて来た奴だからな。

これはしょうがない事か。

超格下と思ってる奴に全力でかかる奴なんて、普通はいないだろうし。


――俺はその一撃を軽く弾いてやる。


「な!?てめぇ!?」


ゲゼゼが驚愕に目を見開く。

サブクラスを手に入れる前なら、今の攻撃でも俺には通用しただろう。

だが、今の俺にそんなふざけた攻撃は通用しない。


「いくら何でもふざけすぎだ。流石にもう少し真面にやれよ」


今の隙だらけの姿に打ち込めば、ひょっとしたら勝てた可能性はある。

だがそれでは意味がなかった。


俺は隙をついてゲゼゼの奴を倒したいんじゃない。

今の自分の強さを知りたいんだ。


「成程……確かに少しは腕を上げたみたいだな。いいぜ、見せてやるよ。この俺様の本気って奴をよ!」


ゲゼゼの目つきが剣呑な物へと変わる。

次は間違いなく本気で来るだろう。

俺は手にした金属の棒を強く握り、相手の動きに意識を集中する。


「アマル如きが!俺に本気を出させた事!後悔しやがれ!」


「!?」


ゲゼゼの一撃に、俺は驚愕から目を見開く。


――冗談だよな?


その攻撃に俺は我が目を疑う。

確かに先程よりはましになっていたが、とてもそれがBランクの本気とは思えない。

それ程に緩慢な一撃だった


取り敢えず、俺はその攻撃を躱す。


「ちぃっ!生意気に躱してんじゃねぇよ!」


攻撃を躱された事に腹だったのか、ゲゼゼの顔が鬼の形相に変わる。

そして無軌道に何度も俺に向かって棒を振るって来る。


――だがその全てが、まるで冗談であるかの様な緩慢な攻撃だった。


「……」


「クソが!ちょろちょろ逃げ回りやがって!」


ショボい攻撃は何かのフェイクだろうか?

俺を油断させて、反撃が来た所を叩き伏せる為の。


ゲゼゼの顔を見る限り、とてもそうは見えないが……


「ウゼェンだよ」


取り合えず、次は攻撃に移ってみる事にする。

それで分る筈だ。


振り下ろされた攻撃を、俺の手にした棒で弾く。

そして出来た隙に――


「え!?」


なんと弾いた衝撃で、ゲゼゼの手から武器がすっぽ抜けてしまった。

思わぬ事態に唖然あぜんとなり、俺は攻撃するのも忘れてしまう。


「くっ……て、手が滑っただけだ!」


ゲゼゼが慌てて落ちた棒を拾い上げた。

その姿を見て俺は確信する。


こいつ……弱い。


Bランクってのはこんなに弱いのか?

それともゲゼゼの調子が悪いだけか?


「しねぇ!」


攻撃してくるが、俺は再び奴の手にした棒を弾き飛ばした。

そして今度はその先端を素早く奴の首筋に押し当てる。


「アマルの勝ちだ」


ジャッジを務めていたギルド長が俺の勝利を宣言した。

まあこれが実践なら、ゲゼゼは死んでいる状況なので当然の判定だ。


「馬鹿な……この俺が、アマル如きに……」


ゲゼゼが呆然自失した様にその場にへたり込む。

余りにも拍子抜け過ぎて、全く勝った気がしないから困る。


「見事だった。この支部にこれ程優れた冒険者がいるとは、夢にも思わなかったよ」


「ああ、いや。その……ゲゼゼって本当にBランク何ですか?」


思わず確認してしまう。

Bランクと言えば、冒険者としてはかなりの上位だ。

それがこの程度だとは信じがたい。


「ん?ああ、彼は間違いなくBランクだ。だがまあ、BはBでも、最底辺の様だがね。所属するパーティーがAに上がる事になったと聞いたから歓待したんだが、どうやら強いメンバーのお零れに預かっていただけの様だな」


Bでも最弱クラスか。


俺に会うたび絡んで嫌味を言ってきたのは、ベテランにも関わらず、Bクラスの底辺レベルというコンプレックスがあったためだったのかもしれないな。

他人を見下し弱い者いじめをする事で、自分の自尊心を満たしていたのだろう。


そう考えると、途端に哀れな奴に見えて来た。

とは言え、俺がこの20年間にしてきた苦労に比べれば大した事はないので、同情する気は更々ないが。


「それじゃ、俺はこれで失礼します」


「ああ。君の今後の活躍に期待している」


俺は一礼してからその場を去った。

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