5話 Best friends

 話せ。

 なんてそんなことを言われても僕は田中さんのこと何も知らない。

 それに僕は彼女のことがまだ好きだ。

 まだ、というよりずっと好きで居ると思う。だから綺麗だとは思うけれど好きにはならない。

 とりあえず三河くんと話して、その間にどう彰に説明するか考えておくか。


「こんにちは」


「おう」


「‥‥‥。」


「…。」


 会話が続かない!!

 何が好きなの?とか趣味は?とか聞くべきなのかな?


「北川に鈴木が用事あるからと呼ばれたんだが…

何か俺に用でもあるのか?」


 用事なんてない。彰が勝手に呼んじゃっただけだし…。

 でも別に三河さんなら他クラスだし話してもいいかな?

 高校卒業したら会うことも無さそうだし。


「僕さ、彰にかなで…。

 田中さんのこと好きだって思われてるんだよ…。」


「は?」


『ガンッ』


三河くんが持っていたバットを、自分の足の上に落とした。


「えっ⁉︎だっ大丈夫!?」


「ゔぅああ大丈夫だ。」


「絶対嘘でしょ!」


「いや、ほんとにこんなの日常茶飯事だから」


「どんなアクティブな日常送ってたらそうなるんだよ!第一、痛みでうずくまってるじゃないか!」


三河くんの有り得ない言い訳に思わずツッコミを入れる。


「…。」


『ガヤガヤ』


 周りにいる人達も三河くんがうずくまって居るのを見て心配そうに見に来る。


 まじで三河くん大丈夫じゃないだろどうするだよ。

 周りの人も心配そうにしてるし、強がりにも程があるだろ…。


 三河くんの方に背中を向け、おんぶのポーズをとる。

 だが、三河くんは一向におんぶをされてくれない。


「ん。」


「なにをしているんだ?」


「何って、君をおんぶしようとしてるんだ。ほら、来い!」


「気持ちは嬉しいが俺は大丈夫だ。

 一人で歩いて行ける、それに俺をおんぶなんかしたら恐らく鈴木の腰と腕が折れる。」


 三河くんに言われ自分の腕と腰を見る。


 ほっそ、僕ホネッキーになれるじゃん。


「だっ大丈夫!

 今日はなんか行ける気がするから。」


「そう言うやつほどいけないと言う俺の持論が…」


僕の言葉を信用出来ていない様子の三河くんを安心させられるように声をかける。


「僕は!確かに細いが、男子一人ぐらいなら持てる…。

はずだ。安心してくれ。」


なかなか、動かない僕らに痺れを切らした彰が僕に加勢してくれる。


「研吾に甘えろよ!お前怪我人なんだから」


「でもな、北川…」


「研吾、すまん。

 このままじゃ意地でも自分の足で保健室行きそうだから俺も手伝うわ」


「いや、むしろ助かるありがと彰。」


 三河くんはごちゃごちゃ言っていたが僕と彰で保健室まで運んだ。


「あら、小指の骨にひび入ってるわよ。」


「…お前俺と研吾が運ばなかったらどうするつもりだったんだよ。」


保健室の先生からの言葉を聞き、僕と彰は一緒に三河くんにジト目を向ける。


「すまん、気合いでなんとか行けるかなと」


 三河くんの中には松○修造さんでも住み着いてるの?

 早めに追い出しといた方がいいと思うよ、なんか周りの気温20度くらい上がりそうだし。


 そんなことを考えていると後ろの方から女の子の声が聞こえる。


『馬鹿じゃないの!?

それでもっと酷くなったらどうするのよ!!』


「!?それは…面目ない。」


 鈴木さんが体を乗り出し、三河くんに対して怒っている。

 見た目がおっとり系の美人さんだからこんなに声を荒げて怒るイメージがなくて驚いた。


 でも、心配して三河くんを見に来たらこの有様だったら誰だって怒るな。



「はぁ、大丈夫そうなら私帰るね。

 もともと荷物持ってきただけだし。 

 えっと彰くん鈴木くん大切な幼馴染を運んでくれてありがとう!」


 田中さんのとびきり可愛い笑顔にドギマギしながらなんとか答える。


『「おう!」「うん。」』


 なるほど三河くんと田中さんは幼馴染だったのか。

 もしかしてさっき僕が田中さんが好きみたいなことを言ったからバット落としちゃった?

 それに田中さんを呼んだのに三河くんが来たのも好きだから?だったら意図せず僕は三河くんの邪魔をしてしまったのかも。

 これは早めに彰と三河くんの誤解を解かないと…


「聞いてほしいことがあるんだけど」


「だったら俺は出てくよ」


「いや、彰にも聞いていてほしい」


「そっそうか」


 彰は気を遣ってくれようとしていたみたいだが、宣戦布告とかではないから安心していいよ。

 それに三河くんもそわそわしてるし…


「俺は心の準備をさせて欲しいのだが…」


「大丈夫。

心の準備が必要な話ではないから」


「余計に怖い」


三河くんが腕を摩る。


「ごめん。

それで話って言うのは僕の好きな人の話しなんだけど、彰には田中さんが好きって言ってしまったけど違うんだ」


「はぁ゙!?」


 びっくりしている彰と対称的に三河くんは凄く嬉しそうな顔をしている。

 やっぱり田中さんのことが好きなんだな


「ごめんね、彰。

 好きな人聞かれて答えられなくて…

 それで苗字で結構いる田中さんって口から出まかせ言っちゃったんだ」


「俺!お前が奏のこと好きって言ってびっくりしたけど応援してやろうとしたんだぞ!?」


「本当にごめん。」


「つまりは鈴木は俺のことが好きじゃないと言うことだよな?」


変化球ボールのような質問を三河くんがする。


「…そんなの当たり前じゃん」

「???」

「ん?」


 彰と三河くんは顔を見合わせてクエスチョンマークを出している。

 その理由がわからなくて僕の頭の中はクエスチョンマークで埋め尽くされる。


「…俺が田中なんだが」


「だよな!?

 俺、ずっと田中の名前間違えて呼んでたのかとおもちゃったぜ」


「俺の名前は田中で合ってる」


「え?えー!?」


 暫く思考が追いつかなくて固まっていたが、理解した瞬間、間抜けな声を出してしまった。


「ほらな!」


 彰がすごいドヤ顔でこちらを見つめてくる。

 彰のドヤ顔はなんか人のことをムカつかせる能力でもあるのかな?

 殴っちゃダメかな…?

 でも、三河くんの名前が田中くんだってことが、なんか腑に落ちないっていうか違和感があるんだよなぁ。

 なんでだろう。


「でも、北川が俺の名前を間違えて呼んでるのはそうだぞ。」


「は!?」


 訂正:田中くんによる予想外の返答に今度は彰が間抜けな声を出す。


「俺の名前はかなでではなくそうだ。」


 僕の謎の違和感が田中くんの言葉で払拭される。


「そうだ、

僕彰から名前を聞いた時に、かなでって呼ぶもんだから女の子だと思っちゃったんだよ。」


 僕と田中くんに見つめられて、どんどん彰が涙目になっていく。


「だってこの2年間一度も注意してくれなかったんだよ?

 かなでだって思っちゃうじゃん…」


「すまん。

 なんか北川はいつもおちゃらけてるいるからてっきりノリ?というものなのかと…」


「俺!人の名前いじらないもん。言ってくれたらすぐ直したよ。

 そんな酷い奴じゃないよ?

 そういう所は意外としっかりしてるのに…酷い゙じゃんか」


 彰がおいおい泣き始めた。

 少し可哀想だな、後で慰めようかな。

 というか田中くんと彰はずっと田中くんのことが好きだと思ってたわかだから…。

 僕男の人好きだって思われてたの!?

 そりゃあ彰も田中くんも困惑するよ


お゙れ゙そんなに酷い奴じゃないんだからな゙」


「うん。勘違いして悪かった。

 お前はとてもいい奴だ。」


「ぞゔだ゙よ゙」


 自分でいい人だというのはどうかと思うけど…。

 彰慰められて余計に涙出ちゃってるし。

 田中くんがめんどくさい彼女を甲斐甲斐しく慰めている図に見える。


 てか、鼻水すごい出てるな拭きなよ彰。

 あっ、田中くんにちーんしてもらってる。

 旦那だ、田中くんもう彰の旦那だよ。



 にしてもこいつ将来、酒飲んだら泣き上戸になってめんどくさくなりそうだな。

 なんか昔泣き上戸な知り合いいた気がするんだけど彰だったりして…。

 絶対彰には酒飲ませないようにしよう、そう誓った。


「じゃあな!そうドヤァ」


「誇るな!」


「フハハ。」


田中くんのよくわからない笑いのツボに僕は苦笑を浮かべる。


「田中くん

どこら辺に笑う要素あるんだよ。」


「いや、なんかなお前たちそんなに仲良かったんだなって。」


「それってどういう…」


「お前が知らないうちに、俺と研吾はBest friendsになったんだぜ!」


 彰が僕と肩を組む。

 彰、会話に急に英語入れたから違和感凄いよ。なんか馬鹿っぽいよ


「そうか、いいな。友達って。」


いいんだ!?それで!?


「もちろんお前も俺のBest friendsに入れてやってもいいんだぜ?」


「彰、今まで田中くんの名前間違えてたのに偉そうじゃない?」


「それを言うなー!」


「ふふふ、じゃあ俺も北川のBest friends?だな」


「おう!それと研吾もだ!」


「僕も?」


「当たり前だろ!

お前らそんなに友達いないじゃん?

てか、研吾は俺以外友達絶対いないし。

だから友達をちゃんと増やさないと寂しくなっちゃうだろ?」


「む。俺は友達少なくないぞ。

ちゃんといる。」


「ちょっと俺はってなんだよ。

僕が友達いない奴みたいじゃないか。」


『「そうだろ。」「違うのか?」』


「な!二人して傷つくことを〜」


 僕はあまり人と話せるタイプではなかったけど、本当はずっと誰かとこんな風にちょっとのことで言い合ったり、笑ったりそういうことが出来たらいいなって思ってたんだよ。

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