2話 進路希望調査

 進路希望調査か。前の僕はなんで書いたんだっけ?


 確か彼女と初めて会ったのはあのバスの停留所。

 でも、その時会わなくても僕は彼女と出会った。確か職場が同じになったんだ。

 そして僕が新人教育を任されて…それで彼女が新人として来た。

 「それで前会ったことありますよね?」って、「あの時心細かったからよく覚えているんですよ」みたいに話しかけられた覚えがある。

 だから職場を変えなかったら、例えバスの停留所で出会わなくても彼女と出会ってしまう。

 つまりこの進路希望調査で選ぶ大学や会社によっては彼女と出会ってしまう可能性がある。

 なんで僕は前働いていた会社まで忘れたんだよ!

 これじゃあ避けるにも難しいじゃないか!考えるんだ、何でもいいから搾り出せ。


「研吾 け ん ごってば!!」

「うわっ」


『ガンッ』


 北川くんの大きな声に驚き、僕は情けなく椅子からずり落ちる。


「いった!!」


「ごめんごめん。

全然話しかけても気づかなかったみたいだからさ、大丈夫か?」


北川くんが差し出した手を取り立ち上がる。


「うん。それでどうしたの?」


「進路希望調査どうすんのかな〜って、

 ほらこの前研吾東京の大学か神奈川の大学かで迷ってたじゃん?」


 丁度考えていた時に訪れた北川くんからの情報提供。


「…僕、北川くんのこと大好きだ!!

愛してる!!」


「はぁ?どうしたんだよいきなり、ていうかなに今更北川くんって呼んでるんだよいつも彰じゃんか、気持ちわっる。

 研吾のせいで鳥肌立っちゃたじゃんか。」


 嬉しすぎて荒ぶってしまった。

 なるほど僕は東京の大学か神奈川の大学かで迷ってたのか、大学ということは一応前選んだ方に行っても会社には直結はしないということか、進路希望調査で選んでも彼女にも会わないでいられる可能性もあるということか…。


 僕はいつも彰って呼んでたのか、次からはそう呼ぼう。

 というかいつまで彰?は腕をさすってるんだろうか。


──地味に傷つく。


「であるからして、ソ連とドイツはー」


 天気予報通り、窓の外で雨がザーザー降っている。

 世界史の先生の話をBGMのようにして雨の音がする。


「なぁなぁ研吾。

桧原ズラとれかかってね?」


 彰が後ろを振り向き、話しかけてくる。


「ぶっ‼︎」


「…鈴木大丈夫か?」


「あ、はい。」


「そうか、じゃついでにここの問題の答えを答えてもらおうか。」


そう言いながら世界史の桧原先生が黒板の空欄を叩いた。


──しまった。

ずっと窓の外を見てたから問題文が何かもわからない。


「研吾、あれ不可侵条約だと思う。」


 小さな声で彰が答えを教えてくれる。


「不可侵条約!」


「鈴木、そこはさっきやったところだ。

次からは話を聞くように。」


「……はい。」


 僕は振り返って彰をジト目で見つめた。

 彰は前を向き僕と目を合わせようとしない。


「いや!俺も悪気があったわけではないから

 そっそんな目で見なくていいじゃん…。」


「………。」


 彰の言い訳に構わず僕はジト目を続行する。


「…ごめんなさい。」


「いいよ、話聞いてなかった僕も悪かったわけだし」


「やっぱりそうだよね!?」


 彰が調子良く答えてくる。


「は?」


「うっごめん。」


 なんか彰は飼い主に叱られた犬みたいになった。

 朝から見てて分かったことだけど、彰はクラスでも結構人気者の方なんだと思う。

 何かやらかしても憎めない。

 このたったの数時間だけでお調子者だし、うるさいやつだけど、すごく良いやつってことがよくわかった。

 僕にはこんなに良い友達がいたんだな。

 少しだけホッとした。


──ヤンキーみたいな人にパシられてたらどうしようかと思った。


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