16th December
「おい、おい、ヘンリー! ヘンリー・リチャード・ギーガー・マイヤー」
ごほごほと咳き込む声に呼び起こされるように、ラビは目を覚ました。
「何を寝ているんだ、ガンズ・リング・ヘイグ・ローゼズ?」
ぷかぷかと漂う、甘ったるい煙。
(……ここは、どこだぁ?)
声に反応するように、薄桃色の耳だけをぴょんと動かして、ラビはゆっくりとこわばった身体を伸ばしていく。
「いてっ」
なんだぁ、と見れば。
そのふわふわのおしりに刺さっているのは
「サイッテーだ」
ぶつくさ文句を言いながら。腰を曲げ、小さな普通のウサギを模した方の手を伸ばしてその歯を引っこ抜く。
「ウーン、もっとサイテーだ」
そこにあったのは時計のカケラだったのだ。
あのピラニアが一緒に飲み込んでいたのだろうか。
つんつんつん、と頭に何か当たる感触に振り返れば、そこには
「……お前、オイラ置いて逃げただろ?」
——きょとん。
「まったく……」
ふうとため息をついて、ラビはその首から下げられた郵便袋にカケラをほいっと投げ入れる。
「さっきから何を……ごっほ、ぶつくさ言っているんだヘンリー・リチャード・ギーガー・マイヤー?」
時計を見れば、またまた秒針はあっちゃこっちゃを向いていて。
辺り一面は毒々しいきのこと大きな草木に覆われていて。
(大きい? いや、オイラがちっちゃくなったのか?)
「どうしたと言って、ごほごほ……いるんだよ、メアリー・リューディー・ギーガー・オズボーン」
はぁ……とラビは観念したように声の主を仰ぎ見る。
ひときわ大きく、毒々しい模様のきのこ。その上にどっかり座って、
「
「ゲッホごほ。なんだって? なんと言ったんだい、ジャン・ジャック・ピエール・レノン?」
もう、一体全体、ここは何時何分何十秒?
世界は正気でいられるのかい?
「で? お前は誰なんだよゥ」
誰かの名前を呼んでいるようで呼べていない、そんなあおむしを目の前にしてラビは盛大なため息をついた。
「リング・ア・リング・オー・ローゼズ。ああ、リング・ア・リング・オー・ローゼズ。なぁどうしたらいいと思うかい? ヘンリー・リチャード・ギーガー・マイヤー? ごっほ、げっほ。咳が、ごほっ、止まらないんだ。薔薇の花束を用意すれば、転んで止まるというのは本当かい?」
Ring-a-Ring-o' Roses,
A pocket full of posies,
Atishoo! Atishoo!
We all fall down.
「……いや、ってかよぅ」
ラビは両の耳をへにゃりと垂れ下げて、呆れたように呟く。
糖蜜とたばこ葉と、花の香りがあたりに充満する。
「たばこ……やめりゃいいんじゃねーの?」
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