15th December
むかしむかしのそのむかし。
ライオンと
ライオンが
街のあちらこちらを追い回す
人々は白の証と 黒の証を差し出し
国の宝物まで差し出して
一旦街からお帰りいただいた
「俺を怖がってはいけないよ? 刻ウサギの片割れ」
静かな囁き、薔薇の香りが漂えば。
少女はぱたりと目を閉じる。
「チッ……!! てんめぇ!」
「そうカリカリすんなって、眠ってるだけさ」
ふわりとその外套が揺れる、地下牢に風など吹き込まないはずなのに。
「"もしも"と"そして"があるのは、お伽話の中だけさ。キミもよぉく知っているだろう?」
優しい手つきで少女を抱きとめ、そっと抱える彼の表情は柔らかく。
だけどもその外套からはおぞましい気配が覗いてくるようで。
「その子をどうするつもりだ……」
「どうにも?」
「……」
「安心しなよ、俺が彼女についた嘘はたったひとつだけさ」
なぜだろう。何かを見落としてそうで。
まるで頭の中がたくさんの気持ちでいっぱいになっているみたいに。
「……何がどうなっているのかも、サッパリわからないのに。って?」
「テメェ……」
こいつはやばい。本能的にそう感じたラビはジャリっとその鉄球の鎖を構える。
「別にいいけど……"今"のキミじゃ俺の相手にもならないよ、刻ウサギ」
「……?」
そこに敵意のかけらも感じられず、ラビはぎょろりとその姿を一瞥する。
「構わないけれど、ほら。城の兵がやってきたら俺が殺しちゃうかもしれないよ? さっさとそこから出たら?」
あっけらかんとした、悪意のない善意でもない殺意。
狂気の一歩手前の優しさと虚無。
なんだかそれは見知ったものに似ているような気がして。
「はい、ストップ」
——それ以上は、考えてはイケナイよ?
"ブギーマン"の外套がぶわりと揺れた。
「ボギー、食べていいよ」
「オゥケイ♪」
「なっ……!?」
瞬きをする間もなく、ピラニアのような牙を持つ魚の形をした怪物が迫ってきていた。
その魚の、虚構のような眼と、一瞬視線が交わったような気がして。
『オマエ、ボギーのコト、怖がッタネ♪』
——〝何か〟が視えた。
頭がガンガンする、吐き気がしてスゥーッと血の気が引いていくような感覚がした。
ニンゲンの怒鳴り声、引き裂かれ串刺しにされ、焼かれて。
磔にされても血は出なくて。
ああ、ああ、乗り越えたと思ったのに。
オイラは、オイラは皆の敵じゃないよ。
どうして……。どうして?
時が、あたりの空気が、スローモーションになったような感覚がする。
抑揚の無いような、感情の冷めきったような、声。
世界が少し、翳った。
それも束の間か。
一瞬だったのか。
「おやすみラビ、また十年後の夜に——」
♠︎♤♠︎♤♠︎♤♠︎♤♠︎♤
『ボギー、久々ニ悪意のナイ恐怖タベタ。マズイ……』
「そんなこと言ったってさ、ボギー。あの子は食べちゃダメなんだ、きっとラビは"ありす"を救うキーマンだから。でもなんで、
『ボギー、ヨクワカンナイ』
十年前のクリスマス。
もしかしたらあの夜は——。
さてと、と青年は立ち上がる。
月夜を背に、暗闇を纏って。
「ボーグル、ボガート、ボギー、ショウタイムだ」
みっつの影が、彼の外套をぶわりと揺らす。
今宵も恐怖と共に踊れ、踊るがいい。
ライオンと
権威を取り戻したい
そんなもので。
隠された王女は暴かれようとしている。
「聖獣の花嫁探しの盛大な解釈違いだよ、愚かな人間たち……」
さぁ今宵も、護衛の兵士がその懐に忍ばせた刃で彼女の命を狙うなら——。
悪い子はだぁれ 怖がったのはだぁれ
なきむし よわむし いくじなし
皆みんな ブギーマンの大好物
お城のバラは青ばかり
深紅の兵士はまっぷたつ
ブギーマンがやってくる
悪い子みんな たべちゃうぞ
うそつき 首をちょんぎるぞ
よい子は迎えにきてあげよう
真っ暗まっくらな ブギーマンのおうち
よい子は連れて出てあげよう
さあ怖がれ おそれるがいい
ブギーマンの舞う夜に
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