3.部活動設立なんて案外そんなもんだ。
結局その日の部活動で主だった成果は上げることが出来なかった。
いや、そもそもの目的は別に「コハル先生の素性を暴こう!」ではなかったはずだ。
ただ、もしそうだとすると、俺らの活動に何らかの意味や目的を見出すことは難しい。
なにせあの部活動は、俺たちが作った「現代文化研究部」という、実にありがちな名前を看板に掲げた、ただのぐうたら集団だからだ。
我らが鷹崎学園での部活動設立には五人のメンバーが必要となるが、逆に廃部の条件は部員が二人以下になったらという実に緩いもので、その条件が俺らの集まりにジャストフィットした。部活動存続に必要なメンバーは身内でカバーできる。俺と、
逆に設立には後二人必要になるが、その人員については正直誰でも良かった。ぶっちゃけ名前だけ貸してもらえればよかったし、事実そうしようと思って、芥が目ぼしい友人に当たる予定になっていたのだが、結果として「部活動設立メンバーに名前を連ねたのは
如月春菜。
分かりやすい表現を取るなら「カースト最上位の女王様」だ。別に誰がそう決めたわけじゃない。だけど、いつの間にか彼女は女子の中で一番の発言権を持っていた。スクールカーストなんて案外そんなもんだ。
そりゃ、春菜は見た目だけで言えば確かに可愛い。ウェービーな茶髪は恐らく朝早く起きてセットしているのだろうし、メイクを含めて彼女が「綺麗」でなかったことは俺が知っている限り一度たりともない。
いや、違う。
一度だけ、ある。
髪も学校で見かけるほど綺麗にセットされてなくて、メイクだって、最低限も最低限で、着ている服も、どっちかっていうと芋っぽい感じの如月春菜を、俺は確かに知っている。
あれは確か、俺もアイツも、まだ鷹崎学園に進学する前の、中学生時分のことだったはずだ。忘れもしない。近所の本屋でちょっとした口論になった相手は間違いなくアイツだった。
それから一年以上の時が経って、俺は春菜と出会った。それが高校一年生の春だ。
あいつの一言目は今でも忘れられない。
「あ、陰キャオタクだ」
補足をしておくと俺は別に陰キャではない。というかそもそもそのカテゴライズを使っている時点で春菜の方がむしろ……という気もするのだが、まあ、言わないでおこう。
オタクの方は……まあ分からなくもない。ただ、もし俺をオタクと定義するならばアイツだってオタクだ。俺ときちんと会話で来ていたくせに、自分だけ違うなんてのは通用しない。
が、その解釈を周りがするとは限らない。
春菜は常に周りに二人の友人を“侍らせて”いる。
侍らせるってのは俺の勝手な解釈だ。だって、何をするにも春菜が中心にいて、他二人が脇役をやってるんだもん。あんなの友人じゃなくて、「女王様とおつきの人」だろうよ。本人たちがどう思ってるのかは知らないけど。
んで、そのおつきの面々もそれに同調する。春菜は学校だと可愛くて、それはそれは男子におモテになりそうなキャラで売ってるから、いつのまにか俺は、女子の間で陰気なオタクみたいな扱いになっていた。
ただ、だからといって、俺を取り巻く世界が何か変わるわけじゃない。
もし、俺が誰かに一目ぼれして、告白でもしようってなったら、障害になってくる可能性はあったと思う。
だけど、そんな機会はこなかった。
と、いうか、そもそも誰かに恋をするってことが無かった。
別にホモだったりするわけじゃない。俺だって可愛い女の子は可愛いと思うし、人並みに性欲はあるから、意中の子と、結ばれて、デートして、最終的に体も結ばれるなんて展開には憧れが無いわけではない。
だけど、じゃあ実際に恋愛に結び付けられるかというと話は別だ。
むしろ「身体だけの関係で良いから」と言われた方がまだなびいたかもしれない。
実際、いるのだ。「陰キャオタク」というレッテルが貼られていても、いや、貼られているからこそ告白してくる物好きが。
きっと、競争率が少ないとみているに違いない。俺自体モテるほうではないからその見立ては正解だし、よく言われるのは「顔は良い」だ。
「顔がね……」と言われるよりはましだが、この表現には「でも性格がね……」という意味がセットになっている。セット販売するんじゃないよ全く。「イケメン」だけ単品で売ってくれ。
そんなわけで、一応告白されたり、友達から初めてみない?みたいな誘いを受けたことはあるのだが、俺はその全てを断って来た。
まあ、全てっていうほどの数はないんだけど、一応そういうことにしておきたい。だってその方が「モテる男」っぽいからな。
その俺が、幼馴染の二人と一緒に部活動を作ろうってなったときに、人数が足りなくなった。
最終的には「きちんと最後まで部員でいてくれるやつ」で「俺らの部室に勝手に出入りしないやつ」を探そうということになったし、その「探そう」の部分はほとんど芥まかせになるはずだったのだが、春菜は、どういうわけか、自らその役を買って出たのだ。
「あんた。部員の頭数に困ってるんでしょ?私と加賀の名前、使っていいわよ。感謝しなさい」
と、まあ、上から目線ではあったものの、春奈と、その友人(取り巻き?)の
それから、春奈(と加賀)は部室に現れたことは一度もない。
俺からすればありがたいことだし、向こうからしても、俺たちのテリトリーに入り込む理由なんてないだろう。
本音を言えば、妨害行為を働いてくると思っていたし、春菜や、その友人のたまり場として使うと言い出してもおかしくないと思っていた。
その場合、部員の多数決で部員を除名することが出来るシステムになっているため、俺、芥、月乃の三人で、春菜(と加賀)の除名に賛成すれば問題ない運びにはなっていた。
そこまで考えた俺たちの計画は、三年生に上がった今でもなお、使われていない。
それはもちろん、良いことなのかもしれない。
だけど、時折思うのだ。
春菜は一体何を考えていたのか。そして、何を考えているのか。
そして、この時の俺はまだ知らないのだ。
その答えを知る日が、そう遠くないことを。
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