え、子供の癖に怖すぎじゃね?なんであんな雰囲気出せるん?霊だから?は?だったら俺にも教えろや

妖護屋は夜、町を見廻るのも仕事だ。


万が一市民が妖怪に襲われたりしたら


直ぐに対処出来る様にする為だ。因みに先日新しく


妖護屋に入った茨木童子は他の地区を見廻って


いる。が、その最中、伊吹は居酒屋にいた顔見知り


の男達に囲まれて酒を大量に呑んでしまった。


いうと、彼は随分酒に弱い。酒が好きなので大量に


飲んでしまうせいである。酒が美味いのが悪い。


許せ。早々に酔いが回ったが、酒瓶を手放さなかっ


たようで浴びるように呑み、只今帰る所である。


既に刻は丑三つ時を回っていた。顔を赤くして


おり、その足取りは覚束ない。そんな彼の元へ二人


の町奉行が近付いて来た。


「お、伊吹」


「ふぇ?」


とろんとした目を彼等に向けた。舌が回っていない


ようだ。


「ほー、八朗さん、喜平太さん、こんばんはー」


「あぁ、こりゃ完全に酔っ払ってんな」


「二日酔いに気をつけろよ」


「あらりまえれすよー」


周りからは分かっていないような顔をしているが。


「あ、そういえば近頃多数の人間が突如姿を


消して行方知れずになっていると言う怪しい事件が


あるんだ。人間か、妖か、どちらの仕業かは


分からんが気をつけろ」


一人が伊吹へと忠告する。伝えられた当人は


片手を腕を横に伸ばし、膝から先を額の方向へ


曲げる。


「ふぁーい」


顔は緩んでおり、真面目に受け取ってはいない様子


だ。それが伊吹らしいといえばそうだが。


「無駄に元気が良いし、絶対分かってない模様


だな」


呆れたご様子のようだ。両手を上げ、首を横に


振った。その内、二人と別れた伊吹は夜空を


見上げた。長い間、外の、しかも冷たい空気に


触れていた為、酔いは覚めているようだった。頭も


冴え始めた。


「今日は皆既日食で珍しく赤く月が光ってる。何か


赤い月って良くないことが起きる気がするんです


けど……」


伊吹の阿呆毛がぴょこぴょこと揺れたり、立った


り、下がったりしている。何かの検知機の様だ。


そんな伊吹の予感が当たったか少年の声がどこから


か聞こえた。大人びているが僅かにあどけなさが


残っている。


「妖護屋さん、こんばんは。今日はとても


良い夜だね」


瓦屋根に少年が赤い月を背に怪しげな雰囲気を


纏っていた。…一つ言おう。


「怪しげな雰囲気っていうか、既に怪しいから! 


てか、お前なんなんだよ、突然何、狐が化けました


か、それともただの幽霊?!」


伊吹の鋭い突っ込みに少年は笑ったと同時に反論


した。突っ込みを流せるものは多くいる。その内の


一人か。


「妖護屋さん、面白いね。少しは合ってるけど僕は


霊でも、化け狐でも無いよ。それよりも厄介


だからね」


「と、いうか別に登場の仕方なんてどれも同じ


なんだから気にしなくても良いでしょ、その突っ込


みは流石に煩いし、耳障りだよ。あと、酒臭い


から」


少年は、鼻を摘み、臭いを嗅ぎまいとする。


一気に捲し立てる少年に微妙な表情をさせ、一つ


咳払いをする。そして、掌に息を吹きかけて臭いを


嗅いでいるようだった。…顔を顰めた。やはり臭い


のか。


「……いや、何かごめん。てか、俺は本来は呆ける


立場だから。反射的にやったけど違うから。


突っ込みが無いと面白くはならないし、酒臭いのは


認めるけどそんな遠くまでは臭って来ません、意地


悪して、大人を揶揄うのはやめなさい」


数刻の沈黙。口を開いたのは少年だった。


伊吹に人差し指を向けた。


「……あんた、大人じゃ無いだろうが!」


「大人だ、とっくに成人してるわ! 22歳


だよ、俺は!」


「もっとまともな嘘を吐け!」


「まともだわ、少なくともてめぇみたいな餓鬼より


はな!」


少年から投げられた鎌を伊吹は瞬時に鞘から刀を


抜き、防いだ。



二人は剣と鎌で戦い合った。が、先に折れた


のは伊吹であった。彼を見て少年は嘲笑した。


「あんた、弱いんだな」


伊吹はそれに気を取られる事なく、着物を正して、


帰路に着くために歩き始めた。


「弱いよ、それは認める。けど俺が彼処で戦う手を


止めたのは周りに被害が生じる危険性があった


から。こんな丑三つ刻だから寝ている人達は大勢


いる。その中で俺達が戦ってもし寝ている子供や、


周りの人達に何かあったら俺は兎に角、お前は責任


なんか問われる事は無いだろう。だけど、死なせて


しまったら人だろうと、妖だろうと誰もお前を


赦しはしないよ。それだけは分かる」


数刻の間、沈黙していた少年だったが、声を出して


笑った。無邪気な子供だ。けれど、その中に狂気を


隠している。


「お兄さん、面白いね。そして、愚かだ」


「愚かで結構だよ」


息を吐いた伊吹の前に少年は何かしらの術を使い、


現れる。それに喫驚する伊吹。その横で少年は


歩きながら話し始めた。


「……僕はね、本当は妖護屋であるお兄さんに依頼


しに来たんだ。引き受けてくれるよね?」


半ば脅し文句だ。そう思わずにはいられなかった。


「保留な。で、お前の名は?」


少年は伊吹の数歩前を軽く跳びながら進み、体を


伊吹の方へ向けた。


「僕は夜顔(やがん)、これから宜しくね、


妖護屋さん」


夜は笑い、牛の様な鬼が少年の背後で蠢いた。

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