100年ぶりの再会…仲良く、なんて出来ませんよね、てか帰りたいからさっさと和解しろや。ちなみに土産も寄越せ金持ち鬼が

茨木童子が伊吹に無理矢理宿から連れられて


来たのはとある屋敷だった。座敷に座ると襖が


開いた。目の前に座った人物は、過去に仕えた


相手…酒呑童子だった。あの頃と何も変わって


いない。


「何故あんたが…」


後退りし、目の前の相手を睨む。そこまで


しなければ溢れてしまう。封じ込めていた感情が。


裏切り、袂を分かった筈なのに。


「伊吹の仕業だ。俺はあいつに依頼し、


お前に会いたいと伝えた。お前の気持ちを


考えずに…」


酒呑童子は目を伏せた。それは罪悪感から来て


いた。他でもない茨木童子への。


「ふざけんな。あの時言ったよな、俺のような


裏切り者は忘れろって! あんたは覚えてない


かもしれないけど」


「覚えている」


「っ!」


酒呑童子の言葉に茨木童子は瞠目した。


酒呑童子はその姿を一瞥した。


「陰陽師がかけた呪術は既に解けている。


お前が裏切ったことも、告げた言葉も全て記憶の


中に残存している。お前を忘れるわけには


いかなかった為に」


酒呑童子は困ったように目尻を下げた。


「なんでそこまで…俺の代わりなんて幾ら


でもいる。俺一人の為に妖護屋に依頼して


謝んなくても良かったのに」


ああ…情け無い。


茨木童子が後悔するように、顔を伏せた。


「お前を拾った時から俺は人に戻し


たかった。鬼となっても両親と文を交わし、


血肉を食らっている時でも墓を作り、謝り


続けているお前を見たから。俺はお前という


鬼を自由にしてやりたかった。頼光殿からは


お前が裏切った真意を聞き納得したよ。この


鬼は何者にも仕えず、染まらないと。


けれど、俺に仕え、俺の色に染まって


くれた。だからこそ、謝りたかった。


お前に。お前を自分自身の為に利用して今


まで謝れなくてすまなかった。」


元主君は頭を下げた。茨木童子は首を必死に


横に振った。その姿は慌てていた。主君に


頭を下げられてはどうしたら良いか分から


なくなるからだろう。


「やめてください、あんたが謝ることなんて


無いんですから!」


それでも酒呑童子は頑なに頭を上げな


かった。


「いいや、あるさ。謝りたいことはこれ以上


に沢山。だから、もう消えるな。お前は最後


まで俺の友人で…最高の家臣だ」


その言葉に茨木童子の涙腺は崩壊したも


同然だった。涙がはらはらと落ち、嗚咽が


漏れた。本音も、感情も勝手に吐露されて


いく。


「ずっと自分のことしか考えて無くて


裏切って姿を消したのも同胞達に顔を


合わせられなくて、裏切った自分が、情け


無くて…それでも、家臣って言ってっ…」


茨木童子が途切れ途切れに言葉を吐く。


その姿を酒呑童子はただ黙って見ていた。


「俺、のこと許せないかも、しれないけど


まだ仲間として、認めて…家臣として


仕えさせてくれますか?…」


酒呑童子の瞳が揺れ、手が震えていた。


けれど、その震えた手でゆっくりと茨木童子


の手を握った。


「勿論だとも。俺はお前を再び家臣として


認めるよ」


「っ…酒呑様ぁ~!」


涙で頬を濡らしながら泣き喚く茨木童子に


酒呑童子は苦笑する。ある意味、その姿が


本来の床屋の夫妻に、実父から愛される


筈だった、ただの子供で、茨木童子だった


かもしれない。和解した二人を見ていた


伊吹は顔を綻ばせた。が、一言呟いた。


「いや、馬鹿でもあんな鼻水垂らして泣か


ないからな?」

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