そして、裏切りへ。ねぇ、知ってる?裏切ったら裏切った分の報復が帰ってくるって。覚悟しといた方が良いかもよー(棒)

大江山へと戻ったのはそれから数日後だった。


その時には既に武士達、後に源頼光四天王と


呼ばれる源頼光、渡辺綱、坂田金時、ト部季武、


碓井貞光、源頼光の友人である藤原保昌ら総勢


五十名と共にやって来ていた。


「では、俺が全員とは言い切れないが仲間達に


酒で酔わせて来る。暫し待ってくれ」


それだけを言い残し、同胞達の元へと向かった。






成果はまあまあとはいえる。半分の同胞達は


出かけていたので勘づかれないようにやるしか


無い。幸い酒呑童子が酔ってくれた為良しと


しよう。なので、源らを手招きし、中へと入れる。


「こりゃ、鬼にもなって更に主君を裏切った


んだから俺は地獄行きだろうな」


苦笑を浮かべる。理解して行なっているのだから


覚悟はあるけれど、やはり酒呑童子へ顔負けは


できない。


「そん時は俺達も謝ってやるよ」


坂田が茨木童子の肩を叩く。一種の慰め、励まし


なのだろう。


「それは嬉しい限りだ」


「後で盃を交わそう」


ト部が無表情のまま励まして来る。それが


励ましというのかは曖昧だが。


「ああ。だが、その前に大江山四天王を


倒さないとな」


大剣を鞘から抜き取る。目の前に酒呑童子を


守るようにして立っていたのは彼の家臣で


ある熊童子、虎熊童子、星熊童子、金童子らで


あった。


「まさかお前が裏切るとは…」


「それ程お前達の目が節穴だったというわけだ」


あくまでも茨木童子は冷静だ。怒りに身を任せる


ことは愚かだと知っている。今までもこれからも


しない。


「頼光、こいつらは強いぞ。油断はするな」


視線は合わせない。油断や、隙を見せたら


確実にやられるからだ。


「そうか、では、お前達一体一で戦ってくれ」


その命令と共に彼らは動き出した。


あの源頼光の配下だ。簡単には死なない


だろう。茨木童子は酒呑童子と向き合った。


「まさかお前が裏切るとな」


酔いが覚めたのか冷静だ。流石、鬼の王だ。


「同じことを先程も言われましたよ。…貴方には


感謝しても仕切れません。拾ってくださったこと


感謝しています」


だが、もう戻れない。居心地の良かったこの


場所には。一度足が嵌まってしまえば抜け出せ


ない。


「けれど、俺は貴方とはいられない。人間という


弱く、愚かでそれでいて優しき罪多き生き物に


惹かれているから」


大剣を首元に向ける。その手は震えており、


剣が振動で揺れている。それでも、握り続け


なければならない。この場所を壊す為に。鬼と


いう悲しくも、憎い生き物をこの世から排除する


為に。


「早くやれば良い。鬼の王を倒した者として


後世まで祀られるぞ?」


殺されそうになる直前まで笑っている。


思った以上に王としての器が大きいということを


今、理解した。この優しくも強い王を己はこの


手で闇へ葬ろうとしている。歯を食いしばるが、


涙が溢れ、止まらない。これは殺すのに邪魔だ。


何故、今となって出て来る。止まれ、脳に命令


してもいうことを聞かない。迷いが生じる。


「茨木童子…」


「っ…」


名を呼ばれた。迷いを振り切る。瞬間、主君の


片目を、片手を斬り落とした。


「それがお前の答えか」


源が目を閉じながら呟いた。無かった出来事


として処理しようとしているのだろう。


「何故…」


理解出来ない顔を浮かべている。


「あんたは俺の恩人だから…斬れない。


俺はあんたを裏切った。そして、歯向かった。


こんな部下がいたらあんたは苦しむし、面倒


だろ? だから忘れてくれ。俺という鬼がいた


ことは」


それだけだ。己の主君から背を向けた。


彼の為だ。慕っているからこそ、覚え続けて


貰うのは苦しい。辛い。会いたいと、壊した


筈のこの場所へ再び戻って来たいと思って


しまう。それだけは駄目なのだ。だから…


「さようなら」


最後は笑っていたかった。



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