茨木童子の契約。って契約したらもしかしたら命も取られるんだよ、大丈夫かよ鬼さんよ。流石に武士に呪術使えないと思うけど

いつからだったのかは分からない。鬼に成り


果ててしまった時点で己は誰も食いたくは


なかった。傷つけたくも無かった。けれど、鬼は


人の血肉を食うことでしか生きてはいけない。


その為に決して美味くも無い人肉を食らった。


傷つけたくは無いと戯言を言っている自分は既に


大勢の者達を傷つけ、殺していた。罪は重い。


罪悪感が心を埋め尽くし、こんな罪人救っても


くれないと理解していたのに助けを求めた。


誰でも良いから己を殺してくれと。それが鬼の


自分と長くも短い縁を持ってしまう武士、源頼光


らだった。一条戻橋でぼんやりと川を眺めていた


ところ、声をかけられた。時間帯は丑三つ時と


いうのに彼らは睡魔にも襲われずにそして鬼で


ある自分ですら恐れなかった。混乱、戸惑いが


茨木童子の頭を、心を蝕んだ。体が血を欲して


いた。駄目だと、言い聞かせる。ずっと我慢して


来たというのに。背後の大剣の柄を持ち、


自身の腕を斬り落とした。


「な、何をしている!?」


武士の一人が大声をあげた。突然の出来事に目を


見張っていた。


「お前らを殺したく無いからこうしているの


だろう」


腕を拾い、噛んだ。これで少しは欲を抑えられる


だろう。汗と、視界をぼやかす涙が頬から落ちる。


(退治してくれたら良いのに。そうすれば


こんな苦しみから解放されるんだ)


早く殺せと願った。ただそれだけを望んだ。


すると、武士の一人、頭領の様な男がこちらに


近づき、頭を殴った。脳震盪を起こし、意識を


失った。








目を覚ますと、知らない天井が見えた。起き


上がると1人の男が布団の側におり、目を覚ました


茨木童子に言葉を投げかけた。


「腹は減っているか?」


「減ってなんかいない」


拗ねていた。鬼である己を殺さなかったことに


対してだ。この人間達は何を企んでいるのだろう


か。


「嘘をつけ。何も食べていないのだろう、


人間の食べ物くらい食べて腹を満たせ」


男はそう言い、茨木童子の横に食事を乗せた


盆を置く。美味しそうな匂いがする。


涎が出て来そうだ。今……なんて? 自分の


言葉に驚いた。鬼になって以降暫く人間の


食事を見ても何も感じなかったのに


何故……。男は口を開いた。


「意識を失ったお前の体内に薬を仕込ませて


もらい、呪符を貼らせて貰った。内側から


鬼としての欲、機能を退化させるものだ」


「人間がそこまでの力を……」


正直驚いた。陰陽師が力を増したらしい。


「だが何故そこまで……」


男は茨木童子の質問に応えた。


「お前の鬼になれど人間としての心を失わない


姿に興味を惹かれてな……。お前に俺達と共に


妖退治をして貰いたいと思った」


この人間達にはいくら驚かされれば気が


済むのだろう。何とも強く、愚かな者達だ。


「お前達を裏切る可能性も十分ある」


「その時は迷わず斬るが、お前は誰も


傷つけないのだろう?」


……知っていたのか。茨木童子が自分達に


手出しが出来ないと。全く懇ろだ。


茨木童子は口元を緩ませた。


「そうか、なら安心した。お前達は


酒呑様の居場所を知りたいんだろ、なら


教えるさ」


男は複雑な表情をした。


「お前は主君を裏切っても良いのか」


「いや、あの人は生き残るさ。それでまた


違う場所で鬼の王として君臨し続ける


だろうよ。俺みたいな家臣のことなんて


いつか忘れるよ。たとえ俺が裏切ったと


しても」


その目は遠くを見つめていた。


「お前は、罪な男だ。」


その意味は正しくは理解出来なかった。








「お前が裏切ったとて彼はお前を忘れる


ことはしないだろうよ。罪人としても家臣と


しても」


酒器に入っている酒を呷る。


「ああ、伝えていなかった」


今更思い出したが、あの薬は鬼などが人に


戻るまで1000年近くかかる。幸い味覚は


戻るが。それ程、人から鬼と成り果てた


期間が長いからだ。


「それまでの期間苦しむだろう。あの薄桃の


鬼は」


悲壮の空気を纏った男は再び酒を口に


含んだ。

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