30話 アルトリア騎士団のホームにて

「え? これがホーム?」


 というのが俺の素直な感想だった。


 しかし、それは無理もないだろう。何せ、ホームと紹介された建物はどこからどう見ても教会にしか見えなかった。


 何より、教会の外で子どもたちが走り回っていた。


 それでもノエルは訂正することもなく、教会の敷地内に入って行った。


 どうやら、ノエルの行動を鑑みるに本当にここがアルトリア騎士団の第一部隊が暮らすホームらしい。


 俺はノエルの後ろを着いて行く。


 すると、一人の少年がノエルに気がついたのか、走りながら近づいてきた。


「ノエルお姉ちゃん今日も来てくれたの?」


 もしかして、ノエルはこの子と知り合いなのか?


 というか、今日もってことは昨日も来てたってことか?

 朝早くに出発したのにいつの間に……。


 というのはさておき、続々と子どもたちが集まってきて、ノエルが完全に身動きが取れなくなってしまった。


 この様子を見るに、ノエルは子どもたちに好かれているらしい。


 まあ、ノエルも子ども好きそうだもんな。

 ここに来るまでの道中も、すれ違う子どもを必ず目で追っていたし……。


 それにしても、俺の場違い感ハンパねぇ。


 完全に蚊帳の外って感じで、誰も俺のことを見ていない。みんなノエルに夢中で俺のこと気づいてないんじゃない?


 そう思っていると、一番早くにノエルの存在に気づいた少年と目があった。


「ノエルお姉ちゃん、あのお兄ちゃんは? もしかして彼氏?」

「か、かかか彼氏!? ち、ちちち違います! アルトさんは私の恩人で……決して彼氏というわけじゃ……っ」

「そうなの? じゃああのお兄ちゃんは誰なの?」


 そう言って、少年は俺の方を指差した。


 だが、ノエルはまともに話を聞いていない。どうやら、俺を彼氏と勘違いされて動揺しているみたいだ。


 ならば、代わりにと俺が自己紹介しようと思い口を開こうとした。


 次の瞬間。


「――『ファイア・アロー』」


 火属性の初級魔法の詠唱が聞こえ、咄嗟に俺はスライムを作り出し防御しようとした。


 しかし、咄嗟の判断だったがゆえ『暴食グラトニー』を発動することができず、もろに攻撃を受けてしまう。


 というのも、『ファイア・アロー』という魔法は貫通力が高く、スライムでは受け止めきれなかったのだ。


 俺の右腕は『ファイア・アロー』にやられて火傷を負った。


「っ、誰だ!」


 そう言って、俺は奇襲を仕掛けてきた奴の正体を確認しようと目を凝らした。

 すると、そこにいたのはアルトリア騎士団の制服を着た男と女の二人組で、


「そのセリフ、そのままお返ししよう。お前は誰だ」


 男の方が舐めたことを言ってきた。


 こいつら本当に騎士か?


 自分たちから攻撃を仕掛けてきたのに、先に名乗らないのは常識がなっていないんじゃないのか?


 俺たち争いに来たわけじゃないってのに。


 だが、本当にここで争いになったら元も子もない。

 ここは穏便に済ませるために俺の方から名乗るか……。


 そう思っていたところに、


「ん? よく見たら晩年最下位だったノエルがまた性懲りも無くいるじゃないか」


 新たな燃料を投下してきやがった。


 何が晩年最下位だ。お前なんかよりよっぽどノエルの方が記事をやっている。

 お前のような奴がとやかく言えるはずがないだろう。


 俺は流石に耐えきれなくなって、奴に攻撃を仕掛けようとした。


 しかし、


「アルトさん。私は大丈夫ですから。それよりもやるべきことやりましょう」


 と、馬鹿にされたはずのノエルに止められた。


 ……くっ。


 本当は今にもぶっ飛ばしてやりたいところだが、ノエルやこの場を任せてくれたアナベルたちのためにもここは……。


「分かったよ、ノエル」


 怒りを鎮めることにしよう。


「……俺はアルトリア騎士団・第十二部隊のアルトだ。今回俺たちは第一部隊の副隊長――ラインハルトに用があってここに来た。お前たちはアルトリア騎士団・第一部隊の騎士でいいんだよな?」

「ああ、そうだが?」

「なら、ラインハルトは今どこにいる? 俺たちはその人に用があるんだ」

「ラインハルトさんに用事? 一体、何の理由でだ?」

「それはまだ教えられない。だが、絶対にラインハルトに話しておかないといけない要件だ」


 俺は王都壊滅のことを伏せて伝えた。


 理由は単純。彼らに伝えて騒ぎ立てられたら、ラインハルトが動きにくくなるかもしれない。


 俺たちはあくまでラインハルト個人に協力の申し出をしたいのであって、第一部隊に協力を求めていない。


 本当は第一部隊に協力を要請できたらいいけど、それは現実的に無理だと判断したのだ。


「で、どうなんだ? 答えてくれるのか?」


 俺たちに時間はあまり残されていないため、答えを急かした。


「……ラインハルトさんなら今日も騎士学校にいる」

「騎士学校? どうしてそんな場所に」

「分からない。何も教えてくれなかったからな」


 ……? 


 もしかしてラインハルトとうまく行ってない感じ?


 今日もってことは、ここ最近ずっと騎士学校に行っているということになる。

 でも、ラインハルトは副隊長なんだろ? そんなに自由行動できるもんなのかな?


 ……まあ、何でもいいや。


 俺たちはラインハルトの居場所さえ分かれば、どうだっていい。


「ありがとな。ラインハルトの居場所を教えてくれて。……ノエル、騎士学校までの案内を頼む」

「はい」


 こうして、俺たちはラインハルトがいるだろう騎士学校に向かうのだった。

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