31話 騎士学校に到着しました
アルトリア騎士団・第一部隊のホームを出た俺はノエルの案内で騎士学校に向かった。
第一部隊の騎士団員の話では、そこに副隊長のラインハルトがいるらしい。
俺たちの話に耳を傾けてくれるといいけど……。
そんな不安を抱えながら、俺たちは騎士学校に到着した。
「おおー。騎士学校ってこんな感じなのか。俺、学校に行ったことないから分かんないんだけど、同年代の人たちと勉強したりするんだよな?」
「そうですね、アルトさんの想像している通りだと思います。でも、アルトさん。学校に行ってなかったんですね」
「俺の家そこまで裕福じゃなかったし、十四歳から冒険者やってたから学校に行くっていう発想すらなかったよ」
それに学校に行く必要性を感じなかった。
周りにいた人たちが学校に通ってなかったのも大きいかもな。
でも、どうやら俺の妹は学校に通っているらしい。
そう母さんが言っていた。
まあ、どこの学校に通っているかは知らないし、興味もないからどうでもいいけど。
俺、妹にめちゃくちゃ嫌われてたし……。
多分、自分のことなんて知られたくないだろう。
本当は仲良くしたいけど。
「……で、こういうのって勝手に入っていいものなのか?」
「ダメですね。でも、私たちに時間は残されていません。なので、こっそりラインハルトさんを見つけて話をしましょう」
「……そうだな。俺たちに時間はなかったな。なら……」
俺は己の魔力を空中に放出し、【魔力感知】に徹することにした。
こうすれば、わざわざ学校の中を探し回る必要もなくなると思ったからだ。
それにしても俺、本当に魔力制御が上手くなったな。無駄な魔力を放出していない。
それのお陰で一度に作り出せるスライムの数も多くなった。
とはいえ、まだ集中していないとダメ。
どんな状況でも魔力の制御を完璧にできるようにならないと……。
「……ん? これは……」
「どうかしましたか?」
「二十、いや三十の魔力反応と一際大きな魔力反応が同じ場所にいるみたいだ」
「もしかして、その大きな魔力反応がラインハルトさんでしょうか」
「そうかもしれないな。ノエル、向かおう」
「はい」
俺たちは魔力反応が複数ある場所に向かった。
「……あれがラインハルトか?」
「そうみたいですね。アルトリア騎士団の制服を着ているので、間違いないと思います」
俺たちは建物の影に隠れて、ラインハルトと思しき人物の様子をうかがっていた。
どうやら、あれがラインハルト本人のようだ。
しかし、こんなところで何をしているんだろう。
ここは校内にある訓練場みたいなのだが、訓練は行っていない。
この学校の生徒らしき子どもたちを座らせて、ラインハルトが何やら話し込んでいる。
流石にラインハルトがいる場所から、俺たちが隠れている場所まで、十メートル近く離れているから話の内容は聞こえない。
「……さて、どうしようか。このまま出て行ったら子どもたちに見つかってしまうが……」
「……アルトさん、行きましょう」
「ノエル?」
「悩んでいたって仕方がありませんし、待っていたってラインハルトさんが一人になる時間が来るとは限りません」
……確かにノエルの言う通りだな。
俺たちにはもう時間が残されていない。こうしている時間ももったいないか。
「なら、行こう」
「はい、アルトさん」
そう短い話し合いを終えて、俺たちはラインハルトの下へ向かった。
「……話し込んでいるところ申し訳ない。お前がアルトリア騎士団・第一部隊の副隊長――ラインハルトか?」
俺は単刀直入に聞いた。
もうなりふり構っている暇はない。
俺たちにはラインハルトに協力を取り付ける以外にもやることはあるからな。
それにラインハルトは副隊長という話だ。どんな不敬な態度でも許してくれるだろう。
しかし、
「何だ、貴様は」
普通に機嫌を悪くさせてしまった。
さっきまであんなに柔らかな表情で話していたのに。
どうやら第一印象は最悪みたいだな。
まあ、それはどうでもいい。
今は俺たちのやるべきことをやるだけだ。
「俺はアルトリア騎士団・第十二部隊のアルトだ。お前に話したいことがあってここに来た」
「アルトリア騎士団だぁ? 帰れ、帰れ。俺はアルトリア騎士団が大嫌いなんだ」
それは一体どういう意味だろうか。
副隊長がアルトリア騎士団を嫌っている?
というか、本当に最悪じゃないか。第一印象も良くないのに、アルトリア騎士団そのものを大嫌いと言っている。
これは協力を取り付けるのは難しそうだ。
そう思っていると……。
「……あの、もしかしてあのときのお兄さんですか?」
という声が耳に届いた。
声が聞こえた方向に視線を向けると、そこには騎士学校の女子生徒が一人立っていて、俺のことを見ていた。
「覚えてますか? 私、昔お兄さんに助けてもらったアニスです」
昔ってことは……冒険者時代だよな。
それでいて、俺に助けてもらった……ということは。
「もしかして、あのときの……。無事に逃げられたんだな。よかった……」
そうあれは、俺が冒険者になって一年も経っていない頃……。
俺はとある森にクエストで立ち寄っていた。
そのときに運悪く魔物の群れと遭遇してしまったのだ。
しかし、まだ俺には気づいておらず、そこから立ち去ることはできる状況だった。
だが、女の子が魔物に囲まれていた。
非力な少女だ。戦える力はない。
でも、何もできない俺にあの子を助けることができるのか。いや、できない。
そう頭では考えていた。
だが、体は勝手に動いていた。
あのときの俺は、冒険者に夢と希望を抱いていて、カッコいい冒険者になりたかった。
だから、考えるよりも先に体が動いてしまっていた。
それからのことはあまり覚えていない。
自分が囮になって女の子を逃したところまでは微かに記憶に残っているが、そのあと俺はどうやって生き延びることができたのかは分からないでいる。
そう過去話に思いを馳せていると、不意に両肩に手を置かれて掴まれた。
――ラインハルトに。
そして。
「アルトといったか? 妹を助けてくれたこと、感謝する」
「え?」
俺には何がなんだか分からなかった。が、話の流れで言うと、つまるところ。
「ラインハルトはアニスの兄なのか?」
「ああそうだ。アニスは俺が愛してやまない妹……! だから、ありがとう。お前は命の恩人だ……」
機嫌の悪かったラインハルトはどこにいったのか。
俺は今、めちゃくちゃ感謝されている。
……あれ? ということは。
「もしかして、あのとき俺を助けてくれたのはラインハルトだったりする? 流石にあの状況を一人で打破できるような力、俺にはなかったし」
あのときの俺は死んでいてもおかしくはなかった。
でも、こうして生きている。
だから、俺はこう考えることにした。
俺が囮になったことでアニスは無事に逃げることができたが、残された俺のことが心配だった。
だから兄であるラインハルトに助けを求め……俺は彼に助けられた……と。
もはや、これしか俺が助かる方法はなかった……と思う。
あんな場所に人が偶然通りかかるなんてこと、滅多にないだろうしな。
つまり、俺にとってラインハルトは命の恩人ということになるのか……。
そのラインハルトはと言うと……。
「そうらしいな。まさか、こうして再会できるとは思わなかったし、見違えるほどに成長していたなんてな」
どうやら心当たりがあったらしい。
なら、俺の考えたシナリオは当たらずとも遠からず……といった感じかな。
でも、そんな昔のこと今はどうでもいいか。
俺たちにはラインハルトに王都壊滅のことを話して、協力を取り付ける必要がある。
「なあ、ラインハルト。俺たちは――」
「――知っている。さっき聞いた。俺に話があって来たんだろう?」
「あ、ああ。その通りだ。俺たちの話を聞いてくれるか?」
「それはできない」
予想外にもラインハルトは首を横に振った。
「理由を聞いてもいいか?」
「勘違いしないでもらいたいが、俺はお前と友好関係を築きたいと思っている。アニスを助けてくれた恩人だからな」
「なら、どうしてだ?」
「特に深い理由はない。俺に話があるということは、何かしらと戦ってほしいのだろう? 違うか?」
「違わない……」
「なら、俺と戦うがいい。戦って、俺の横に並び立てる男であると証明しろ。それができれば俺はお前を騎士として認め、全面的に協力する」
どうやら、ラインハルトにも譲れないものがあるらしい。
なら、俺にできることはラインハルトと戦って、認めてもらうことだけだ。
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