29話 新・宿舎までの道中にて


 俺たちはあれから、急いで王都ベルゼルグに帰還した。


 だが、帰ってきたときにはすでに日が落ちていた。そのため、アルトリア騎士団の新・宿舎に向かうのは明日となって……


 ……夜が明けた。


 本当はやりたいことがあったのだが、カインとの決着やミストとの再会などがあって、疲れていたらしい。


 思いのほか、すぐに眠ってしまったので一瞬のことだった。


 そして、今から騎士団の新しい方の宿舎に向かうことになった。カレンやシノア、テレシアは留守番だ。


 アナベルとオルガは新・宿舎に向かうとは言っても、俺とは別行動を取ることになった。どうやら、新・宿舎は複数あるらしい。


 目的はアルトリア騎士団・第一部隊のラインハルトではあるが、ほかの部隊にも協力を仰ぐことにしたのだ。


 今回、俺と行動をともにするのはノエル。

 人選はよく分からないけど、知らないうちにそう決まっていた。


 俺からしてみれば誰でもいいんだけど。


 あ、そういえば。


「新しい制服、いい感じだな。お前らまで俺に合わせることなかったのに」

「いえ、いいんです。私たち第十二部隊はアルトリア騎士団の中で浮いている存在ですから。それに、私はアルトさんとお揃いがよかったんです」

「ふ~ん、そういうものか」


 それにしてもあのいかにも女騎士って感じのアナベルが、俺のワガママを聞いてくれたのには驚いた。


 ダメだと拒否されるかと思っていたら、すんなり受け入れてくれた。

 それどころか、アナベルも俺と同じ制服を纏っている。


 少し変な感じだけど。


 というのも、これまでの制服は全体的に白く、ところどころに赤いラインが入っているというものだった。


 だが、俺が考案した制服はそれの真逆。


 全体的に黒く、ラインが入っているところが青くなっている。


 だから、アナベルが着ると違和感がある。

 ずっと白い制服姿を見てきたからかな。


「でも、本当によかったのか? ただでさえ浮いているのに拍車がかかるようなことして」

「同じことを二度も言わせないでください。それに制服を変えたぐらいじゃ変わりませんよ。私たち第十二部隊は曰くつきな方が多いですから」

「そうなのか。そこら辺詳しく知らないから、この騒動が終わったらみんなに聞いてみようかな」


 そんなことを話しながら歩いていたら、王都の中心から外れたところまで来ていた。


 旧・宿舎から離れた場所にあるとは思っていなかったから、王都の中心辺りかなと思っていたんだけど……


 どうやらあてが外れたらしい。


「そういえばさ、第一部隊の副隊長がラインハルトだって話は聞いたけど、隊長はどんな人なんだ?」

「うーん、そうですね……。風の噂程度の話ですが、かなりの美人さんだそうですよ」

「……美人ねぇ。俺の周りにいる人みんな可愛いから美人って言われても想像できないなぁ」


 と、ふと思ったことを口に出してみた。


 アルトリア騎士団の女騎士、本当にレベルが高いと思う。


 まあ、シオンやリリアも可愛くはあったけど、性格がゴミクソだったから総評はマイナスだった。


 でも、アナベルは顔可愛いしスタイルもいいし、料理も上手いという……


 マジでマイナスな部分がなかった。


 ノエルももちろん……じゃないな。料理が壊滅的にできないこと以外は完璧だ。


 昔のノエルは少し遠慮がちな部分があって距離を感じていたけど、今はちゃんと俺たちの前でも笑うようになったし、よく相談するようにもなってくれたからな。


 オルガは……うん。女要素ゼロ。炊事洗濯はもちろんのこと、掃除もやらない。一日中ずっと特訓している。


 でも、時折りなぜか恥じらいを見せることがあって……オルガを目で追うことが多い。


 面白いから。


 ほかのみんなもいい子ばかりだ。


 シノアは俺が苦手だった回復魔法を人並み以上に使えるようになるまでつきっきりで指導してくれた。


 テレシアも訓練に行き詰まったら俺が考えつかないようなアイデアを出してくれた。


 ただしカレン、お前はダメだ。


 お前のせいで、俺は何度アナベルに怒られたことか。


 勝手に俺の部屋に忍び込んで一緒に寝やがるから変な勘違いされるし、オルガに無言の腹パン喰らわされるしで、散々な目にしか遭っていない。


 まあ、世話になってた部分はあったから……ギリプラス。


 と、勝手に評価してみたけど、何か申し訳なくなった。


 俺、人のことを評価できるほど、いい人間じゃないしな。顔は平均ぐらいだし、身体能力も高くない。


 それに友達もいない。うん、いいとこ無いな。


 俺は自分のことを思い返して、少し悲しくなった。


「……で? さっきから何でノエルは黙ってるんだ?」

「……な、何でもないですけど? そ、それより第一部隊の隊長は序列一位って話を聞いたことがあるような、ないような……あれ?」


 ……何かノエルの様子が変なんだけど。


 ノエルってこんなキャラだったっけ? 


 そう疑問に思ったが、俺は何も見てないことにした。

 また変に自爆されて、帰るなんて言われたら面倒だからな。


 うん。そっとしておこう。


 そんなこんなで妙に居心地の悪い無言が続くことになって……


 しばらく歩いた頃、


「つ、着きましたよアルトさん。ここがアルトリア騎士団の新・宿舎の一つ、第一部隊専用のホームです」


 俺の目の前に大きくて立派な教会が建っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る