2章 感動の再会〜王都を死守するまで

26話 情報屋と再会しました

 カインとの決着を果たした俺はロンドに戻っていた。


 ようやく過去に囚われることなく清々しい思いで、かつての拠点を楽しめるようになったが、まだ俺にはやることがある。


 ロンドを出ると草原が広がっているのだが、そこに全裸のカインを置いてきたのだ。


 だから、まずは兵士に変態がいると通報しなければならない。

 

 これを済ませたら、やっと街の人たちや冒険者ギルドの職員に顔合わせできる。

 まあ、どんな顔をして会えばいいのか分からないけど……


 それでも一度、顔を見たい。声を聞いておきたい。


 それを楽しみにしながら、俺は兵士と話をつけたのだった。


 どうやら、街中に多かった兵士は脱獄したカインたちを探していたらしい。

 俺たちが探していた三人組とは別件ということになる。


 そもそも、その三人組というのがカインたちのことだったのでは?

 もしそれが当たっていたら、とんだ無駄足だったということだ。


 俺はカインたちに本当の意味で決別できたからよかったが、アナベルたちからしてみれば無意味もいいところ。


 このことをどう話をすればいいのか。


 そんなことを考えながらロンドの街を歩き、冒険者ギルドに戻ってきた。


 アナベルたちが移動していなければ、ここにいるはずだろう。


 それに……多分だけどミストもいる。


 俺にはそんな気がしてならない。もしそうなら気をつけないとな。

 ミストはすぐに意識の外側から抱きついてくるから。


 ……嫌な気はしないけど。


 そう思ってしまうことに苦笑しながら、本日二度目の冒険者ギルドに足を踏み入れた。


 すると、予想通りのことが起きる。


「ア・ル・ト・きゅ~んっ! 会いたかったよぉ~っ!」


 意識外からの奇襲という名のハグ、または抱擁ともいう。


 そして、いつものように顔を擦りつけてくる。


 ミストは猫獣人だからな。

 猫獣人は心を許している相手には顔を擦り付け、マーキングするのが挨拶らしい。


 本当かどうかは定かじゃないけど……


 俺以外にしているところ見たことがないし。


 まあ、ミストの言っていることが本当なら、信頼してくれているってことだろう。


 というのはさておいて、俺は猫の首を掴むようにミストを引き離した。


「相変わらずだな、ミストは」

「ボクはボクのままだからね。アルトきゅんは……少し太った?」

「マジ?」

「少しお腹がぷにってるだけだよ。でもボク的にはもう少し太ってもらった方が好みかな~」

「その方が抱きつきがいがあるとかそんな理由だろ? お前の魂胆は見え見えだ」

「キャ~! アルトきゅんったらボクのこと好きすぎ~!」


 ……意味が分からない。


 魂胆は見え見えという話から、どういう思考をすれば、俺がミストを好いていることになるというのか。


 でもよかった。

 ミストはミストのままだ。何も変わってない。


 だから、安心した。俺は嫌われてもおかしくないことをミストにしてしまったからな。

 黙っていなくなったことに対して、怒ってなくてよかった。


 引きこもるようになってからも、このことだけは気がかりだったのだ。


「ごめんなミスト。何も言わずにいなくなってしまって……。冒険者を辞める前に言いに行けばよかったよ」

「ううん、ボクの方こそアルトきゅんに謝らないといけないことがあるんだ」


 ……ん? どうしてミストが謝る必要があるんだろう?


 俺は疑問に思っていると、ミストがその答えを口にする。


「ボクはアルトきゅんがパーティーから追放されることを前もって知ってたんだ。でも、ボクはアルトきゅんに言えなかった。もし、ボクがあのとき追放されることを言ってたら、アルトきゅんは勇者にならなくてもよかったかもしれない。ボクはアルトきゅんに取り返しのつかないことをしてしまった。ボクはどうアルトきゅんに償いをしたらいいのか、分からないよ……」


 ……そっか。ミストが知らないわけがないもんな。


 ミストの情報収集能力は異常だ。まだ表に出ていないような情報さえも手に入れる。


 だから、俺が追放されることを前もって知っていてもおかしくはないし、勇者になったという情報を掴んでいても不思議じゃない。


 でも、取り返しのつかないこととは何だろう? どうしてミストが俺に償おうとする?


 追放されたことにも、勇者になったことにも、ミストはまったくの無関係なのに。


 だから、


「じゃあお互い謝ることがあったってことで。この話はもう終わりな」


 無理やり話を終わらせようとした。


 だが、ミストがそれを良しとしなかった。


「ダメだ! ダメなんだよ……! ボクは頭を下げたぐらいじゃ許されないことをしてしまったんだ……!」

「どうしたんだよミスト。さっきから……」

「アルトきゅん、心して聞いてほしい」


 そう言うミストの表情は真剣そのものだった。


 どうやら、彼女はとんでもない情報を掴んでいるらしい。それが俺には分かった。


 そして、その情報が俺にも関わりのあることだということも。


「分かった」


 俺は頷いて、ミストの言葉を待つ。


「今から66時間後にアルトリア王国の王都――ベルゼルグは壊滅する」


 そう――ミストは厳かに告げた。









 










  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る