25話 友達だった男と決着がつきました
――その瞬間、視界が赤に染まった。
これはシオンの魔法か? だが、ここまで規模が大きい魔法は見たことがない。
熱風だけで肌が焼けそうだ。
「――『インフェルノ』。アンタにこの魔法を使うのは癪だけど……死なないように頑張ってね?」
やっべぇ。さっきの挑発で怒ったか?
マジで俺を殺す気だ。
でも、俺を連れ戻すことが目的じゃないのか?
いや、こう考えるべきか。
本気で
だったら光栄なことだ。
俺はSランク冒険者に認められたってわけだからな。
だが、甘い。
たしかにその『インフェルノ』とかいう、火属性魔法は範囲が広く、避けることも吸収することも難しいだろう。
なら、受け止めればいいだけの話だ。
「来たれ、スライムたち!」
俺は目測でスライムを作り出す位置を決めて、何重にも築かれた要塞の如き壁を顕現させた。
これもオルガとの訓練で身に付けた技だ。
毎回、魔力を漂わせて座標を把握するのは時間がかかるからな。
……さて、この間に。
俺は魔力を漂わせて座標を把握する力を応用した【魔力感知】でリリアの位置を探る。
リリアは身体能力を底上げする支援魔法を使うからな。カインを強化されたら厄介だ。
「……見つけた」
どうやら突っ立っているだけらしいな。
それとももう支援魔法はかけ終えたのか。
何にせよ、リリアはこれで終わりだ。
俺はリリアの頭部にスライムを作り出した。
クズとはいっても女の子だからな。体に傷をつけるわけにはいかない。
そのことをオルガとの戦いで学んだ。
だからスライムで溺れさせることにした。
……インフェルノの勢いが弱まってきたな。
そろそろカインが動き始める頃合いか。
『インフェルノ』による攻撃が止んだら、攻撃を仕掛けにくるに違いない。
そう予想して、新しく開発した『ファイア・インパクト』の準備を始める。
この『ファイア・インパクト』はオルガ戦で未完成ながらに使用した『ファイアインパクト・廻』の改良版……といったところか。
その名も『ファイア・スパイラル』。
この技は魔力制御の応用――【魔力操作】ができるようになって、初めて使えるようになるものだ。
流石に『ファイアインパクト・廻』に比べると威力は劣るが、通常の『ファイア・インパクト』の十数倍の威力を誇る。
その上、自分を傷つけなくてもよくなった。
というのも今まではゼロ距離で初級火属性魔法の『ファイア・ボール』を叩き込んで爆発させていたから、自分にもその被害が出ていた。
俺はその対処としてスライムの特性を利用していたわけなのだが……
『ファイア・スパイラル』は手のひらで発動させた『ファイア・ボール』を【魔力操作】の応用で乱回転させる。
そして留める……が基本的な発動方法で、爆発させてダメージを稼ぐというよりかは、乱回転させた『ファイア・ボール』で螺旋状の傷をつけて吹っ飛ばすイメージだ。
だから、スライムを使わなくても反動はない。
この発想は『ファイアインパクト・廻』の手首を捻って貫通力を上げるという部分から来ている。
……どうでもいいか。
俺は『ファイア・スパイラル』を待機させたまま、
「さあ、どうやって来る?」
カインを待ち受ける。
そして、遂に『インフェルノ』の猛攻は完全に収束し、俺の予想していた通りカインは姿を現した。
しかし、上空から。
これは分からなかった。
この跳躍……リリアの支援魔法が効いてるな。対応するのが遅かったか。
それ以外にも、カインの手には馴染みのある武器が握られている。
どうやら、リリアが【アイテムBOX】から取り出したらしい。
まったく、厄介な奴だ。
俺は展開していたスライムを一旦消去し、新たにスライムを作り出してカインの攻撃を受け止める。
すると、
「おい、リリア! もっと俺を強化しろ!」
もうすでに気絶しているリリアに向かって命令し始めた。
……はぁ、呆れた。仲間の状況ぐらい把握しとけよ。
そう思い、カインに優しく教えてあげた。
「リリアならとっくに倒されてる。見てみ?」
「ああ? そんなわけ――って、は?」
……こいつ、馬鹿すぎる。
戦闘中によそ見をするな。
まあ、俺はカインの情け無い表情が見れて満足だけど。
でも、これで終わりだ。
「じゃあな、カイン」
「ちょっ、待て――!」
待つわけないだろ。
俺はカインの腹に『ファイア・スパイラル』をぶつけた。
カインは回転しながら吹き飛んでいく。
おぉ……、こんな感じなのか。
俺は感心して、残りのシオンにトドメを刺そうとした瞬間――
――空間がわずかに揺らめいた。
……ような気がした。
「……気のせいか?」
特に変わった様子はない。揺れたはずの空間にも異常はないように思う。
一体、何だったのだろうか。
カインを中心に空間ごと揺れたような気がするんだけど……
……まあいいか。
とりあえず、シオンには気を失ってもらおう。
牢屋にぶち込むってなると、起きていたらワーキャー喚いてやかましいだろうし、魔法を撃たれたら面倒だ。
俺はシオンに向かって歩みを進める。
「な、何よ! 来ないでよ! アンタが悪いんじゃない!」
まだ俺が悪いと騒ぐのか。
もう勝ち目はないんだから、せめて自分の非を認めるような素振りぐらい見せてみろ。
そんな表面上の反省をされても、トドメを刺すことには変わりないけどな。
「来ないでって言ってるでしょ! 何でっ、何でこんなことになるのよ! アンタ、今まで私たちを騙してたの!? そんなに強いなんて聞いてない! そっ、そうよ! 私は悪くない! 悪いのはカインとリリアよ! 私は止めたよ? だから私は見逃して――」
「――知るか。じゃあな」
俺はシオンの頭部に問答無用でスライムを作り出した。
すると、シオンは苦しいのかその場で悶え始めた。
それもそうだろう。
シオンが話しているときにスライムを作り出したから、あいつの口の中は今、スライムに侵されている。
まあ、ただそこに留まり続けるだけだから、別に害があるわけじゃない。
だから、無理して剥がそうとしない方がいい。
気を失ったのを確認できたら勝手に剥がれるように命令してあるし、もがき続ける限り苦しめられるだけだ。
早く意識を手放した方が楽になれるぞ。
俺も見ていて気持ちのいいことじゃないし。
それにしても、シオンは何が言いたかったんだろう? 言ってることが支離滅裂で意味が分からなかった。
お前も一緒になって俺をパーティーから追い出していただろうに。
何が私は見逃して――だ。
人のことを馬鹿にするのも大概にしろよな。
「……さて」
『ファイア・スパイラル』で吹き飛ばされてから身動き一つ取らないカインの下へ歩く。
どうやら、まだ意識を持っているらしい。
あれで意識を飛ばさないのは、流石Sランクといったところか。
それにしても酷い有り様だな。
カインの腹部は焼き爛れていた。未だに煙が上がっていて、肉の焼ける匂いがする。
ただ、『ファイアインパクト・廻』を使ったときみたいに肋骨が見えている、なんてことはなかった。
「…………」
俺はカインの顔を見下ろせる位置にやってきた。
後はこいつにトドメを刺して、牢屋にぶち込むだけだ。
しかし、
「何で、こんなことになっちまったんだぁ……? 何でSランクの俺が負けて、無能のアルトに見下されてんだ?」
カインが何か言いたげなので、最後まで聞いてやることにした。
「なあアルト……。お前は無能じゃなかったのかよぉ……。ずっと力を隠して騙してたのか……?」
「…………」
「何とか言えよ……。俺たちを騙してたんだろ? パーティーからお前を追い出すよう、お前が仕向けたんだ……。だったら、俺たちなんも悪くねぇじゃねぇか。……そうだよ、何も悪くねぇ。騙してたアルトが悪い。だから、償え。パーティーに戻ってこい。そんなに強いなら追い出す必要もなかった……」
「…………」
「お前の後に入れた奴はもう追い出した。お前が望むなら、シオンもリリアも好きにしていい。だから、また俺たちと一緒に冒険者を――」
「――やるわけねぇだろ。もう遅いんだよ、何もかも……」
それに、ここまで来て一切の謝罪もないのか。そのうえ俺が悪いと決めつけやがって、こいつは一体何様のつもりだ?
人にものを頼む態度というものを知らないのか?
つーか、いらねぇよ。シオンもリリアも。
俺はあいつらが大嫌いだ。
この世で一番嫌いなお前に何度も抱かれた女なんざ欲しくもねぇ。
大して可愛くもねぇし、クソなんだよ。
だから、
「もう二度と俺の目の前に現れるなよ、クソ野郎!」
言いたいことを言ってやった。
「じゃあな、カイン」
「まっ、待て! わ、分かった! 俺が悪かった――」
「――もう遅いって。それぐらい、分かるだろ」
そして、俺はカインにトドメを刺した。
シオンとリリアと同じ方法で。
だが、それだけでは気が済まない。
流石に性別上、女の子だからシオンとリリアにはできなかったが、カインは男。
手加減してやるつもりはない。
俺はカインの身ぐるみを全部剥ぎ、すっぽんぽんの状態にしてやった。
後は奴の息子にマジックでゾウさんの絵を描いて……と。
「よし。これで子どものゾウさんだな」
まさかカインのそれがこんなに小さかったとは……
シオンとリリアはこれで満足してたのか?
……お似合いだな。
シオンとリリアは胸小さいし。
さて……
「一回、ロンドに戻るか。後は兵士に任せればそれでいいだろう」
こうして俺は過去と決別し、ようやく前だけを向くことができるようになるのだった。
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