23話 友達だった男と再会しました

 あれから数時間が経過した頃、俺たちは冒険者時代の拠点――ロンドに到着した。


 空を見上げてみると、太陽が若干東に傾いている。


 つまりは昼過ぎだ。


 本当は昼ご飯を食べたい時間帯だが、俺たちは任務中の身。悠長にご飯を食べている時間はない。


 しかし、腹が空いては何とやら。


 俺は屋台で売られている肉の串焼きやハムとチーズが挟まれているサンドイッチを買い食いしつつ街を散策していた。


 ちなみにアナベルもお腹が空いているのか、食べ物を買っては食べ、買っては食べを繰り返していた。


 わざわざ立ち止まらなくてもいいのに……


 そういうわけで辺りをじっくり観察する時間があったのだが、早くも俺の中で引っかかることがあった。


「何か兵士の数が多くないか? 数ヶ月前はこんなにいなかったはずだけど」

「確かに多いな。何かあったのだろうか?」

「兵士たちも例の三人組を探しているんじゃないか?」

「その可能性はあるな。しかし、協力はしない。シャルロッテ様に内密に進めるよう言われているのだ」

「もしかして他の勇者たちに手柄を奪われないようにするためか?」

「恐らくそうだろう。国民のためを思うと強力した方がいいのだが……」


 アナベルはそう言って、肩をすくめた。


 正直、俺もアナベルと同意見だ。絶対に力を合わせた方がいいに決まっている。


 だから、


「話ぐらいは聞いてもいいんじゃないか?」


 と。提案してみたが案の定、却下された。


 正義感の強いアナベルでも、主君の命令には逆らえないということか。


 なら……


「兵士以外はどうだ?」

「兵士以外……?」

「ああ。兵士以外ならまず国と関わっているような奴ではない限り、他の勇者たちの耳には入らないだろ?」

「……その通りかもしれない。だが、三人組の情報を知る一般人などそういないだろう」


 それに関してはアナベルの言う通りだ。


 兵士でも見つけられない奴らの情報を一般人が掴んでいるわけがない。


 だが、


「俺に心当たりがある。この街の情報ならあいつが一番知っているはずだ」

「ほう? 言ってみてくれ」

「そいつの名前はミスト。情報屋という二つ名で冒険者の間では広まっていて――」


 俺はアナベルにミストの情報をこと細かに話した。


 まず、ミストはあらゆる情報を集めることを生業としている変わった冒険者ではあるけど、ランクはSと超一級。


 しかし、彼女は隠密に長けているがゆえに攻撃力に乏しく決定打を持っていない。


 だが、彼女を一度見失ったら一貫の終わり。攻撃力の低さなど関係なく、自身の特技を活かして一方的に攻撃され続ける。


 それだけじゃない。


 機動性も抜群で、特にヒット&アウェイで繰り出される神速の攻撃は目で追うことができないほど。


 しかし、それだけの力を持っていながら、俺を馬鹿にすることは一度もなかった。


 まあ、ミストにお別れも言わずに消えてしまったから嫌われたかもしれないけど。

 といってもミストは情報屋だ。お金を渡せば情報を教えてくれるだろう。


「それでそのミストとやらはどこにいるのだ?」

「さあ?」

「まさか、知らないのか?」

「うん。知らない。というより分からない。でも……」


 あいつなら必ずあそこに現れる。


 俺がそこへ向かったという情報を聞きつけたらな……


 だから、


「冒険者ギルドに向かおう。そいつはそこに現れるはずだ」

「分かった。手がかりが無くては探せるものも探せないからな」


 こうしてアナベルから許可をもらった俺は、かつての職場である冒険者ギルドへ向かうことになった。


 ――元気にしているだろうか。


 俺を嘲笑った最低最悪の冒険者たちは……




 冒険者ギルドを目指して、俺たちは二、三十分歩き続けた。

 冒険者ギルド近辺には見覚えのある冒険者がいたが、どうやら俺に気づいてないみたいだ。


 気づいていれば、ちょっかいをかけてくるはずだし。


 といっても、もう半年近く経った。俺のことなんて忘れているのかもしれない。

 だとしたら、奴らにとって一時の笑いの種にしかならなかったということだろう。


 俺は一日たりとも忘れたことはなかったけど。


 まあ、今さらどうこうしようとは思っていない。


 奴らが手を出してこない限りは……だけど。


 そんなこんなで冒険者ギルドに到着した俺たちは冒険者ギルドに足を踏み入れた。


 次の瞬間のことだった。


「――キャハハッ! 本当に来やがった! 負け犬のアルトの野郎が!」

「つーか、いい身分だなぁ、おい! 女を六人も連れてよぉ。モテたことがない俺に対しての当てつけか? そんなにいんなら一人ぐらい貸せや、なぁ?」


 盛大に馬鹿にされてしまった。


 しかもアナベルたちを侮辱しやがった。


 ああ、そうだ。こいつらはこういう奴らだった。


 俺の顔を見なければ俺のことを思い出しもしないが、俺の顔を見るなり馬鹿にしてくる最低な奴らだ。


 ……こんなこと、思い出したくもなかった。


「何か言い返してみろよ、雑魚が! それとも何か? 俺たちが怖いか? 怖いよなぁ! お前、何にもできない無能だもんなぁ!」

「だから気の毒でしょうがねぇよ。お前なんかを街の奴らが贔屓にしてやがったせいで、カインは檻にぶち込まれたんだからよぉ!」

「そうよそうよ! あんまりじゃない! 悪いことをしたって思わないの?」


 ……何だよ、それ。


 俺が悪いと言いたいのか? 

 悪いの全部、カインの奴だろうが。


 それにお前なんかを贔屓にしやがっただと?


 ああ、確かにそうだな。


 弱くて何もできなかった俺なんかを街の人たちは贔屓にしてくれていた。


 正直、思うよ。


 どうして贔屓にしてくれてたのかなって。


 だが、それを悪く言うのは誰であろうと許さない。許せるわけがなかった。


 だから、奴らに一言言ってやろうと思った瞬間――


「――お前らいい加減にしろよ……? 黙って聞いてればアルトの悪口ばかり。殺されてぇのか?」


 オルガが俺のために怒ってくれた。


 それはとても嬉しいことだ。


 だが、


「いいんだオルガ。これは俺の問題だから」


 わざわざオルガの手をわずらわせることもない。


 今の俺なら一人でも十分対処できる。


「しかしだな、アルト。流石に私も彼らを許すことはできそうもない」

「私もアルトさんを馬鹿にされて、少し腹が立っています」

「そうだそうだ! あたしも怒ってるんだからねっ!」

「私も嫌……です」

「ふむ。どうやら私も少し苛立っているようだ」

「みんな……」


 俺は少し困惑した。


 もちろん、怒りを露わにしてくれるのは嬉しい。


 でも、俺はまだまだだ。


 みんなにそう思ってもらえるほど、何かしてあげられたわけじゃない。


 だから、


「ありがとうみんな。でも本当に大丈夫だから。それに、こんなところでやり合いになったら、ギルドの職員に迷惑になるからさ」


 俺は怒りを鎮めてもらおうした。


 だが、新たに燃料を投下するように。


「女の前だからってカッコつけんなよ、無能が。そこの女どもがお前のことをどれぐらい分かってるか知らないがなぁ、俺らの方がよーくお前のことを分かってんだよ!」

「だから本当は今すぐ逃げ出したいってことも、手に取るように分かってるんだぜぇ? なんせお前は弱いから! 逃げ出すことしかできないもんなぁ!」

「そうよ! あの日も逃げたんだから! 今日だって逃げ出したいに決まってる!」


 ……ああ、もうクソ。うるさいな。


 何なんだよ、コイツらは。

 俺に何の恨みがあってここまで馬鹿にしてくるんだ。


 ……いや、もう恨みなんかあってもなくてもいい。


 もう我慢できそうもない。


 本当はこんなこと言うつもりじゃなかった。だけど、どうやら俺も仕返しというものをしたいらしい。


「もう、お前ら死ねよ。俺に言いたいことがあるんなら出てこい。二度と口を開けないようにしてやる」

「おぉ、怖い怖い。そんなこと言われちゃあ相手したくなるんだけどさぁ、今回は手を引いてやるよ」

「逃げる気か?」

「逃げる? 誰が? 俺が? 誰から? お前から? ないない。天と地がひっくり返ってもありえないっての!」

「ならなぜ手を引く?」

「ああ? そんなの今から半殺しにされるお前に関係ないだろ」


 そう冒険者が言った瞬間のことだった。


 俺に向かって魔法が放たれる。

 それもただの魔法じゃない。


 この規模は……上級火属性魔法!


 俺は咄嗟に【魔物生産】でスライムを作りだし、魔法を吸収した。


 すると、


「あら? てっきり灰になって消えてくれるかと思ったのだけど?」

「どうやら後ろにいる女に守ってもらったみたいだね」


 奥から見覚えのある奴らが出てきた。


 いや、まさか。あり得ない……


 檻に入れられてるんじゃないのか……!


「よぉアルト。半年振りだな。早速で悪いんだが、半殺しにされてくれ」


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