17話 戦力増強の話し合いをしました

 オルガとの熱い決闘から一夜が明けて、俺たちは訓練場にやってきていた。

 アナベルが言うには俺たちの戦力増強を目的とした話し合いをするためらしい。


 まあ俺は全身筋肉痛でボロボロですぐに訓練開始、というわけにもいかないみたいだ。


 ちなみに右腕はすでに全快している。


 どうやらアナベルとノエルが数時間かけて、じっくりと治療してくれたらしい。


 そのことには本当に感謝している。


「一日ぐらい休みが欲しかったけど……」


 俺はボソッと呟いた。


 のだが、どうやら聞こえていたらしい。


「おい。今休みが欲しかったと聞こえたが、どういうつもりなのか聞かせてもらおうか」


 アナベルが睨んできた。地獄耳かな?

 俺はスッと視線を逸らし、心のうちで溜め息を吐いた。


 ……はぁ。休みたい。


 昨日の朝まで俺はただの引きこもりだったっていうのになぁ……。


 流石に昨日の今日で早起きとなると身体的にも精神的にもツラい。


 そういえば。


「アナベルとオルガは何でそんなに顔が腫れてるんだ?」

「朝早いから顔が浮腫んでいるだけだ。だから気にするな」

「オレ様はベッドから落ちて床に顔面を叩きつけただけだ」

「…………」


 さては昨日騒がしかったのこいつらだな?


 シャロに黙らせるよう言ったけど、武力行使に出ていたとは……。

 どうやらシャロは思っていた以上に武闘派で強かったらしい。


 それにしても二人は何を騒いでいたんだろう?


 アナベルなんかは特にそこら辺しっかりしているはずなのに……。

 恐らくオルガから仕掛けて、アナベルは巻き込まれただけだろうが……。


 まったく、二人ともいい歳して何やってんだか……。


「それよりもだなアルト。シャルロッテ様とお会いする話が無くなったのだが、何か知っているか?」


 アナベルが不思議そうな顔をしていた。


 ふむ。どうやらアナベルは知らないらしいな。シャルロッテの偽者――シャロが来ていたことを。


 まさかシャロの奴、アナベルとオルガ相手に姿を見せず無力化したのか。


 ……恐ろしい奴だな。


 しかし、どう話したものか。


 ……俺は少し考えて。


「さあ? わざわざ会って話す要件でもなかったんじゃないか?」

「うむ……そうだといいのだが」

「それより戦力増強の話し合いだろ?」

「あぁ、そうだったな。……みんな。早速で悪いのだが、私たち全員が一気に強くなれる案は無いだろうか?」


 ……え?


 ……アナベルって話し合い下手か?


 いきなり話を振られても答えられるわけがないだろう。


 まずは自分の意見から言うべきだ。


 しかし。


「他の部隊との合同訓練はどうでしょうか」


 ノエルが挙手をした後、真面目に答えた。


 まさか、答えられる奴がいたとは……。


 内容も実に現実的だ。アルトリア騎士団・第十二部隊は人数が少ないからな。


 いい刺激にもなるだろう。


 と言っても合同訓練となると、その他の部隊のスケジュールにも影響してしまう。

 いきなり合同訓練と言われてもすぐには調整できないだろうし、あまりいい案ではないのかもしれない。


 できることなら、第十二部隊の中だけで完結できるものがいいだろうな。


「……合同訓練か」

「ダメでしょうか?」

「難しいだろうな。第十二部隊は他の部隊とは折り合いがとにかく悪い。合同訓練を持ちかけても、いい返事は聞けないだろう」

「そうですか……」


 やはり合同訓練は難しいようだな。


 まさか同じアルトリア騎士団なのに折り合いが悪いとは思わなかったが……。

 しかしそうなってくると、地道に訓練して鍛えていくほかないように思うな。


「オレ様から一つ提案がある」

「何だオルガ。いい案があるのか?」


 まさかのオルガが話し合いに参加してきた。

 てっきり興味がないのかと思っていたよ。


 それに提案があるって? とても心強い。

 オルガは強いからな。強い奴が考えることなら、強くなれること間違いなしだな。


 そう思っていたのだが。


「アルトのスライムと戦わせるのが一番手っ取り早いとオレ様は考える」

「そう考える理由はあるのか?」

「単純に強い」

「強い? そのようには見えなかったが……?」

「お前の目は節穴か? まさか分からなかったのか? ……いや、あれは戦った奴にしか分からないのかもな」


 ん? オルガの奴、何が言いたいんだ?


 たしかに俺のスライムは強い。俺よりもな。

 だが、オルガの言う純粋な強さというのはよく分からない。


 どうやらそれはアナベルも同じらしい。


「どういうことだ?」

「よく聞けアナベル。あのスライムはオレ様の動きを先読みしていやがった」

「先読みだと?」

「あぁ。だがスライムの強さはそこだけじゃない。先読みだけでも脅威なのにそれを逆算して攻撃に組み込んでいた。そうだろう? アルト」


 え? そうだったの?


 俺はあのとき、足止めのつもりで戦わせていただけなんだけどな……。


 でも、スライムがそうしなければ足止めができないほどに、オルガは強かったってことだろう。


 まさかオルガの動きを先読みした上、それを逆算し攻撃に活かしていたとは……。

 流石、俺が作り出すスライムたち。俺の想像を遥かに超える活躍ぶりだ。


 これからもドンドン頼りにさせてもらおう。


「ああ、その通りだ。あいつらは俺たちと同じように考えながら戦っているからな」


 この訓練方法はオルガの言うようにありだと思う。


 流石にオルガと戦っていたときのように十二匹ぶつけるのは一方的になって訓練にならないだろうから、四匹程度を相手に訓練するのがいいはずだ。


「ほう。ならば一つ、試してみるか。アルトはスライムを頼む」

「分かった」


 俺はアナベルの指示で二十匹のスライムを作り出した。

 そして一応、木剣を装備させておく。


 これで全員(オルガを除く)訓練することができる。


 しかしそれではオルガの時間が勿体ない。


「アナベル。ここを任せてもいいか?」


 だからここの指揮をアナベルに託した。


 まあそんな大層なことではないけども。


「何か用事でもあるのか?」

「少しな。スライムにしてほしいことがあったら命令してやってくれ。そうすれば、要望に応えてくれるはずだ」

「了解した」


 さて。


「オルガ」

「オレ様に何か用か?」

「俺に付き合ってくれ」

「――はぁっ!? バッカお前ッ! そういうことは二人きりのときに言うことであってだなッ!?」


 何だ急に。オルガらしくもない。

 一体、何を焦っている?

 俺、何かおかしなこと言ったか?

 ……言ってないよな。


 でも、現にオルガはワタワタしているし……。


 ……まあ、何でもいいか。


「それで、どうなんだ? 俺の特訓に付き合ってくれるのか?」

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