18話 新必殺技について話し合いました

「――なぁ、そろそろ機嫌直してくれよ。俺が悪かったって、謝ってるだろ? もうみんな訓練始めてるしさ。俺らもそろそろ始めようよ」


 あれから数十分は経過しただろうか。


 俺はこの調子でずっとオルガの機嫌取りをしている。

 しかし予想以上に拗ねているらしく、俺の話に耳を傾けてすらくれない。


 よっぽどショックだったみたいだ。


 まあ俺からしてみれば、何でここまで機嫌を悪くしているのか分からないけどな。


 こんなことになるならオルガじゃなくてアナベルに頼めばよかった。

 アナベルならこうやって機嫌を悪くすることは無かっただろうし。


 ふとアナベルたちの方へ視線を向けた。


 どうやら訓練は上手くいっているらしい。

 まあスライムが強すぎて、ノエルたちの攻撃は掠りもしていないけど。


 でも、ノエルたちの剣筋は決して悪くない。今までの努力が実を結んだ結果が表れているのだろう。


 あの調子なら一週間も繰り返しこの訓練を行えば、今よりずっと強くなれるだろう。


 頑張れ……と応援してやりたいが、俺はいま大きな問題にぶち当たっている。

 それを解決しなければ、応援などできるわけがない。


 ……はぁ。仕方ない。この手段は使いたくなかったのだが……。


「分かったよオルガ。俺の訓練に付き合ってくれたら休みが取れるようアナベルに取り合ってやる」


 そうこれが俺の最終手段。


 これで一度は終わりかけたノエルとの関係も修復できたのだ。


 今回もこれで万事解決なはず……なのだが。


「……お前は何を言っている? そんなものでオレ様の機嫌が治るとでも思ったのか?」

「あれ? ノエルはこれで機嫌を治したんだけどな……」

「それは休みが極端にないアイツだからこそ効いただけだ。オレ様は休みが取れなくて困ってはいない」

「そうだったのか。……じゃあどうしようかな」


 俺はウンウン唸りながら考える。

 

 しかしながら何も思い浮かばない。

 何せ俺たちはたった二日の関係だ。オルガが喜びそうなこと、何も知らない。


「……ったくしょうがねぇな。オレ様がお前の修行につきやってやる。しょうがなく付き合ってやるだけだからな!」


 おお、どうやらオルガの機嫌が治ったらしい。


 ようやく訓練が始められそうだ。


「それは助かる。早速で悪いんだけど、俺は『ファイアインパクト・廻』に代わる必殺技を編み出したい。どうしたらいいのか教えてくれ」


 そう……俺がやりたかったことは新しい必殺技の開発だ。


 本当の所を言うと、『ファイアインパクト・廻』も未完成の技であるため、まだまだ改良する余地はある。


 だが、『ファイアインパクト・廻』は全身のエネルギーをくまなく右腕に集中し一気に放出させる技なため、カウンターを受けてしまう可能性がとても高いのだ。


 ゆえに目指すのはリスクが少ない上に、威力も申し分ない短・中距離で使える必殺技を編み出したい。


 しかし戦闘の経験が少ない俺には全く考えつきそうもなかった。


 だからオルガに頼んでいるというわけだ。


「新しい必殺技……か。ならまずは今のお前にできることを知りたい」

「俺にできること……か」


 俺はオルガに【魔物生産】について説明した。


 主な能力は自分自身の手で倒したことのある魔物を魔力を消費して作り出すことだ。


 次に副次的能力についても説明した。


 一つ。


 一度触れたことのある装備品を複製することができ、それを魔物に装備させられる。


 二つ。


 作り出した魔物とは感覚と情報を共有することができ、魔物を通して魔法を使用できる。


 三つ。


 作り出した魔物が魔物を倒すと、失われていた分の魔力が補充される。


 四つ。


 魔法陣を吸収した際に身についた能力で【自動生産】というものがある。

 それは空気中の魔力を核となった魔物が取り込み続け、その魔力が尽きるまで増やし続けられるスキルである。


 などなど。


「――なるほどな。次に魔法のことだが。お前は何が得意で、何が不得意だ?」

「魔法は全て得意じゃないな。一応、全属性の初級魔法は使えるよ。でも、回復魔法は苦手だな」

「回復魔法が苦手……か。それはお前の魔力制御が甘いからだな。回復魔法は微細な魔力コントロールがあって、初めて正常に機能するからな」

「なるほど。じゃあ魔力制御も課題だな。それで、どうだ? 『ファイアインパクト・廻』に代わる必殺技は思いついたか?」

「……そうだな。初級魔法だけでは『ファイア・インパクト』のように至近距離で撃ってダメージを稼ぐ……ぐらいのことしかできそうもないな」


 ……やっぱりそうだよな。


 俺もその結論に至った結果、『ファイア・インパクト』を編み出したわけだからな。

 やはり戦闘経験豊富なオルガでも思いつきそうもないらしい。


 だが、それは仕方ないことだと思う。

 自分で言っちゃあ何だが、俺の身体スペックは異様に低い。

 もし、【魔物生産】がなければオルガとまともに戦えやしなかっただろう。


 それは俺の話を聞いて、オルガも気づいたことだろう。


 ゆえに。


「お前のスライムを攻撃に活かせないか?」


 と問うてきた。


 だが、スライムは『ファイアインパクト・廻』のように爆発的な威力を出せるようなスペックはしていない。


 スライムの主な攻撃手段はジワジワと体液で溶かす……だからな。


 ん? 体液で溶かす? 

 つまりそれは獲物を溶解するってことだよな?


 だったら……。


「一つだけ可能性はある……気がする」

「何だ、言ってみろ」

「それは……」


 オルガにスライムのことを話した。


「なるほど。確かにその溶解する力を高められれば――」

「――何のリスクもなく、敵を倒せる……!」

「これはやってみる価値がありそうだな」

「あぁ! ありがとうオルガ! お前のお陰で何とかなりそうだ!」


 俺はオルガの手を掴み、ブンブンと振った。


 これで俺も怪我をせずに戦えるようになるはずだ。


 今後、魔物の群れ――そしてその元凶たる魔法陣を設置した奴と一戦を交えるかもしれないからな。


 それまでに俺はこの新しい技を完成させてやる!



 ――その日から俺は、スライムの能力アップと新しい技の鍛練に励むようになるのだった。

 

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