16話 第二王女(偽者)と話をしました

 ………………。

 …………。


 ……ん? 


 外がやけに騒がしいような気がする。

 せっかく人が安らかに寝ているというのにドタバタ、ガラガラガッシャンとうるさいな。


 ……はぁ。


 あまりのやかましさに目が覚めてしまった。


 まだ体はだるいというのもそうだが、全身筋肉痛でまともに動けそうもないというのに……。


 ……起きるか。


 俺は仕方なくといった感じで目を開けた。


「……お目覚めですか? 勇者様」

「――へっ!?」


 おっと、急に知らない人から声をかけられたものだから変な声が出てしまったぜ。


「って、本当に誰!?」


 まったく見覚えのない女の子がベッドの側に置かれている椅子に座っていた。

 もしかして俺は顔も名前も知らない人に寝顔を見られ続けていたのか……?


 最近、恥ずかしいことばかりだな。

 王都の中をパジャマで歩き回ったり……。


 ほんと、ツイてねぇよ……。


 それにしてもこの女の人は誰なんだろう?

 服装からして騎士団の人ではない。メイド服を着ているけどメイドではなさそう。


 騎士団にメイドとはおかしな話だからな。

 

 というかさっき、俺のこと勇者って言ったか?


 俺が勇者であることはアナベルたち騎士団を除いて、知っている人はそういなかったはずだけど……。


 ……いや、一人いたな。


「シャルロッテさんですか?」

「私のことをご存知だったのですね。それなら話が早いです。勇者様」

「…………」

「あなたにはこの国を救ってもらいます」

「……はい?」


 なぜ俺が国を救うことを勝手に決められているのだ?

 ここは「この国を救ってほしいんです」って頼むところでしょ?


 いやまあ……目の前にいるアルトリア王国の第二王女らしき人物は、誰かに物事を頼むような性格ではなさそうだ。


 なんか人間らしくないんだよな。


 決められたことを淡々とこなすゴーレムのような感じ。


 シャルロッテからは意思を感じない。


 ……こいつ偽者だな。


 第二王女なのにメイド服なのは明らかにおかしい。


 そう俺が訝しんでいるのも知らずに、シャルロッテは表情一つ変えずに淡々と告げる。


「はい? ではありません。聖剣を託した以上は救ってもらわないと困ります」

「確かにそうかもしれないけど……。もっとこうさ……ないの? やる気を出させるような言葉とかさ」

「ありません。これはあなたの使命です。やる気が無くてもやらなければならないのです」

「……分かったよ。でも、俺が国を救ったときには何かご褒美をくれ」

「分かりました。そのように検討しましょう」


 よし。言質は取った。


 これで約束を守ってくれなかったら、逆に俺が国の平和を脅かしてやる。


 俺には【魔物生産】という魔物を従わせることができる悪役向きのスキルがあるからな……。


 というか。


「…………」


 シャルロッテがまったく動かなくなってしまった。


 まるで操り手のいない人形のようだ。


「……おい」

「はい。何でしょう」


 ……この感じ、やっぱり彼女を模して作られたゴーレムのような気がする。

 でもゴーレムは基本、石で作られた化け物だからここまで精巧に作り上げることはできない。


 もしかしたらゴーレムとさまた別の存在なのかもしれない。


 ただ、話は通じるみたいだ。

 なら聞きたいことを聞いておくとするか。


「この国を救うというのはよく分かったけど、具体的には何をすればいいんだ?」

「空中を漂う魔力を吸って、魔物を強制的に生み出す魔法陣を破壊し、それを設置しているであろう者たちを捕らえて欲しいのです」


 ……魔法陣と言えば、森の中にあったやつだな。

 

 しかし、妙だ。それだけのために勇者を探すだろうか?


 たしかに魔法陣を放っておくと何百、何千という魔物が生み出され続けるが、騎士団が総出で対処すれば容易とはいかずとも片付けられるような気がする。


 恐らく、これ以外にも何か目的がある……と思う。

 流石にそれは教えてもらえないだろうけど、念のために聞いておくとしよう。


 あのとき聞いておけばよかったと後悔しないように。


「シャルロッテ。勇者を探していたのは魔法陣の件以外にも目的があるからじゃないのか?」

「……それにはお応えできません」


 やっぱり無理だったか。

 しかし俺は確信することができた。


 アナベルたちにはもっと強くなってもらわなければいけない。


 もちろんオルガ以上になれというわけじゃないが、アルトリア騎士団・第十二部隊だけで、魔物の群れを殲滅できるぐらいにはなってほしい。


 そうすれば、俺が引きこもれる。


 それはさておき。


「いつまでここにいるつもりなんだ?」

「分かりません」

「なら帰っていいよ。もう聞きたいことはないし」

「分かりました。そうさせていただきます」


 礼儀よく頭を下げた後、偽者のシャルロッテは部屋を出て行こうとする。


 ――のを俺は引き止めた。


 最後にやって欲しいことがあったのを思い出したのだ。


「悪いんだけど、外で騒いでる奴らを黙らせてから帰ってもらっていい?」

「分かりました。全力で対処させていただきます」

「ありがとな、――シャロ」

「シャロとは私のことですか?」

「あぁ。シャルロッテは別にいるみたいだからな。お前のこともシャルロッテって言うと紛らわしいから、シャロと呼ぶことにしたんだが……嫌だったか?」


 そう困ったように言うと、今まですぐに応えていたシャロが少し戸惑っているのが分かった。


 今まで名前なんてつけられてこなかっただろうし、仕方ないか。


 シャロが応えてくれるのを待っていると。


「……私はこれからシャロを名乗ろうと思います」

「それでいいと思うよ」

「分かりました。それでは行って参ります。――マスター」


 そう言って、今度こそシャロは部屋から出て行った。


 そして俺はというと。


「さて、寝るか」


 布団を深く被り、目を瞑った。

 まだまだ全然、体がだるいからな。

 そういうときは眠るのが一番なのだ。


 ……そういえばシャロは最後、俺のことをマスターと呼んだような気がするけど、どういうことだろう?


 ……まあ、いいか。


 呼び方に大した理由はないだろうしな。



 ――そして、しばらくした後のこと。


 騒がしかった奴らはシャロに片付けられたらしい。


 さっきまでとは打って変わって辺りは静かになり……俺は無事に深い眠りへと落ちることができるのだった。

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