12話 女騎士との決闘が始まりました 

 アナベルの案内で、俺たちは決闘場にやってきた。


 どうやらこの決闘場には観客席があるようで、アナベルたちはそこで観戦している。


 そして、俺はというと。


「――ほう? オレ様から逃げずにやってきたみたいだな。アルトといったか? その度胸は認めてやろう」


 オルガと対峙していた。


 どうやらオルガは準備万端らしい。「早くり合おうぜッ」と息巻いている。


 しかし、オルガの腰に剣の姿はない。


 まさかこいつ、拳で俺と戦う気か?


 たしかに剣に覚えのない奴は拳で戦った方が強い気はする。


 だが、俺と戦う場合、それは愚策だ。


 何せ、俺に打撃かつ近距離戦闘は無意味。

 俺の主な戦闘スタイルはスライムを複数作り出して戦わせることだからだ。


「おいッ! 早く剣を構えろ!」


 ……何で俺はこいつに上から目線で話しかけられてるんだろう。


 別に偉くもないくせに。


 こういう奴を見てると、一発ブン殴ってやりたくなる。


 たとえ決闘に負けたとしてもな……。


 負けるつもりは毛頭ないけど。


「その前に、決闘のルールはどうする?」

「あぁ? そんなもの何でもありに決まってんだろうがッ! 決着はどちらかが戦闘不能になるまでだ」

「なるほど。分かりやすくていいな」

「なら早く殺り合おう! オレ様が負けることなんざ絶対にあり得ないがなッ!」


 ……ふむ。流石はアルトリア騎士団・序列十位といったところか。

 俺に負ける未来は見えてないらしい。

 それぐらい自分に自信があるってことだろう。


「それじゃあ二人とも、準備はいいなっ!」


 観客席にいるアナベルの声が響いた。


 そして。


「――始めっ!」


 決闘開始の合図とともに、オルガが動き始める。


 だが、それは俺も同じことだ。

 俺は【魔物生産】を発動していた。

 しかし前回と違って、座標を掌握する時間はない。


 だから、とりあえずは。


「もらった――ッ!」


 オルガの攻撃が顔面に届く寸前にスライムの壁を作り出し、防いだ。


 流石は防御力最強のスライムだな。


 鋭く重いパンチは勿論のこと、その衝撃すらも吸収し、俺に一切のダメージはない。


「何ッ!? オレ様の攻撃が止められただとッ!?」


 どうやらさっきの速攻には自信があったみたいだな。

 たしかにあれを初見で防ぐのは困難だ。


 だが、俺は【魔物生産】を使い続けてきたお陰で、ほぼノータイムでスライムを作り出すことができる。


 そのためオルガが動き出した後でも余裕で対処することができた。


 それに。


「動揺してくれてありがとな」


 俺はその隙に三十二匹ものスライムを作り出していた。


 勿論、それだけじゃない。


 そのうちの二十匹は俺たちをぐるりと囲むように待機させている。


 残りの十二匹の使い道は防御。

 俺はスライムを密集させてドーム状の壁を作った。


 そして。


「――『ファイア』」


 俺は待機させていたスライムと感覚を共有し、初級の火属性魔法を使用した。


 その瞬間、全方位から全てを焼き尽くさんとする炎が押し寄せる。


 その様はまるで津波のようだ。


 轟々と燃え上がる炎はしばし止むことはなかった。


 ……流石にこれはやりすぎたか?


 俺は周りのスライムで炎どころか熱すらも防げているが、オルガは生身だ。

 火傷では済まないかもしれない。


 ――そうオルガを心配していたのが間違いだった。


「クフ、クハハハハッ! いいッ! 実にいい……ッ! オレ様はお前を見くびっていたらしい。素直に詫びよう。悪かった。お前は……強いッ!」


 そして――空間が爆ぜた。


 いや、違う――ッ! 


 これは……! 


 気迫で炎を押し返されている……?

 

 何なんだ、この技は!


 スライムが守ってくれていたからよかったものの、生身だったら吹き飛ばされて終わっていた。


 ……ヤバいな。正直に言うと甘く見ていた。


 序列十位の強者とはいえ、これで決着だと思っていたが……その称号は伊達じゃないってことらしい。


 俺はスライムで防御するのをやめて、四匹一組で攻撃するよう命令する。


 ……さて、ここからどうしようか。


 魔力はまだ八割程度残っているが……。


 さっきの攻撃より高いダメージを出そうとしたら、もう接近する以外にない。


 なら。


「オルガ! お前ヤバいな! それでも女か!」

「ハッ! 戦いに男か女かなど関係ない。それにオレ様は女であることなどとうに捨てているッ!」

「確かにな。女でも強い奴は沢山いる。だが、お前は女だ。お前がどう思っていようとそれは覆らない! 俺がお前に勝って、それを証明してやる!」

「やれるものならやってみやがれッ!」


 ……まずは第一段階をクリア。


 スライムたちのお陰で座標を掌握する時間を稼げた。


 というか、動き回りながら俺と会話するってどれだけ余裕なんだ。

 息なんか全く切らしていなかった。


 こんなヤバい奴、どうすれば倒せるのか。


 一応、最終手段の前準備を終わらせたが……。


 しかし、これを使えば俺は魔力欠乏症でぶっ倒れてしまう。


 だから、次の攻撃で何とか仕留めたいところだな。

 そのためには何としてでもオルガに近づきたい。


 だが、ただ近づけばいいってわけじゃない。


 俺は一発でも攻撃を喰らえばダウンしてしまうから、無傷でオルガの懐に入る必要があるだろう。


 そして次に、オルガの弱点に正確かつ高威力の攻撃を叩き込まなければならない。


 俺的には後者の方が難しい。


 あの技は少しでも体勢が悪いと威力が半減してしまううえに、攻撃範囲が拳一個分ほどしかない。


 その狭い攻撃範囲で、弱点をつけるのかどうか……。


 まあ、悩んでいても仕方がない。


 俺は攻撃の前準備として手のひらにスライムを作る。


 これは防御には使わない。


 接近する側に回ったら、スライムでの防御はどのみち間に合わないだろうからな。


 ……よし、やるか。


 俺は覚悟を決めて、オルガに近づく。


「ハッ! その様子を見るに、仕掛けてくる気満々だなッ!」

「あぁ。でないとわざわざ近づきはしない。これで決着をつける気だ」

「つまり次の攻撃がお前の最大威力の攻撃ってわけか――ッ! 受けて立つ。かかってこい、アルトッ!」

「行くぞオルガ! これで終わりだ!」


 そう意気込み、俺はオルガに最接近する。


 だが、このままではカウンターを喰らって終わるだろう。


 だから俺はオルガに攻撃し続けてくれているスライムと感覚を共有し、初級火属性魔法――『ファイア・ボール』で牽制しつつ、その隙を突く。


「――【魔力纏い】!」

「なっ――身体強化だとッ!?」


 どうやらオルガは俺が身体を強化をしてくるとは思ってなかったらしい。


 まあそれもそうだろう。


 身体強化魔法が使えるなら、初めから使っているのが普通だからな。


 しかし、そのお陰でオルガの懐に入ることができた。

 しかも体勢がそれなりにいい。足に力も入るし、腕も振り切れる。


「これで終わりだ! 喰らいやがれ!」


 ――『ファイア・インパクト』! 


 これが俺の出せる最強の攻撃。


 初級の火属性魔法――『ファイア・ボール』を最大出力で発動させ、ゼロ距離で相手の腹部に叩き込む技だ。


 ただでさえ高威力なのに、今の俺は身体を強化している。


 威力は申し分ないと思う。


 ゆえに生身だと俺にも反動がきてしまう諸刃の剣だ。


 だからこそ俺は手のひらにスライムを作っておいた。


 これで俺に跳ね返ってくる衝撃や熱を打ち消す――または緩和してくれるだろう。


「――――ッ?」


 俺は……これで決着だと思った。


 だが。


「効いたぜアルト……。やっぱりお前は最高だ――ッ!」


 オルガはピンピンしていた。まともに食らったはずなのになんでッ!


 わずかに火傷の後はあるが、大したダメージにはなっていないらしい。


 俺は動揺を隠せなかった。


「くっ……!」


 ならもうこれしかない!


 俺は最終手段のトリガーを引いた。

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