11話 勇者の聖剣を託されました
「――アルトっ! 戻って来たぞっ」
勢いよくドアは開かれ、そこには肩で息をしているアナベルが立っていた。
この様子を見るに、どうやら急いで戻ってきたらしい。
別にそこまで急ぐ必要はないだろうに。
そんな彼女の手には。
「もしかして、それが渡したい物か?」
「ああ。聖剣だ」
「聖剣……?」
「勇者であるキミに相応しい武器だ。キミにしか扱うことはできないが、きっと役に立ってくれるはずだ。これで、アルトリア騎士団・序列十位のオルガを倒してこい」
そう言って、アナベルは聖剣を手渡してきた。
……何か、俺よりアナベルの方がやる気に見えるんだけど? 気のせいかな、これ。
オルガの決闘を受け入れたときは、『どういうつもりだ』とか言ってたような……?
もしかしたらアナベルもオルガのことが少し気に食わないのかもしれない。
「…………」
「……え?」
「……ん? どうした」
「いや、もう俺に渡したい物も言いたいこともないんだろ? だったら俺、制服に着替えたいんだけど……」
流石にパジャマで戦うのはあれだし。
そもそも制服に着替えるためにここへ来たわけだしな。
しかし。
「ん? なら、早く着替えたらいいのでは?」
アナベルは一向に出て行こうとしない。
「……え? なら部屋から出ていけよ。俺の着替えをそんなに見たいのか? 見たいなら見てもいいけど……騎士のくせに変態だな。ムッツリか?」
「ちっ、違――ッ!」
「はいはい。さっさと部屋から出て行ってな」
「あっ、おいっ! アルト! 私は断じて変態でムッツリなどでは――」
――バタンッ!
アナベルの言葉を待たずに俺は締め出してやった。
勿論、ほかの女騎士もろともだ。
別に裸を見られても特に問題はないが、心の準備というものがある。
流石に軽い気持ちで戦いに挑めば、一瞬で戦いに決着がつきかねない。
その場合、百パーセント負けるのは俺だ。
何せ、相手はアルトリア騎士団の序列十位という話だ。
つまり、アルトリア騎士団の中で十番目に強いということになる。
相手にとって不足はない。
そうカッコつけて言いたいところだけど、俺は対人戦はおろか、魔物とすらまともに戦ったことがない雑魚だ。
何せ俺は未だにスライム一匹しか、自分の手で倒したことがない。
そんな奴がオルガほどの強者と渡り合えることができるのか。
勿論、カインに追放される以前から、一人でも魔物と戦えるように修行はしてきた。
追放されてからも【魔物生産】を使い続けていたお陰で、魔力総量は上がっている。
だが、それだけではオルガに勝てるとは思えない。
「…………」
可能性があるとすれば、聖剣だが……。
俺はアナベルに渡された聖剣に目を向ける。
一体、この聖剣にはどんな能力があるのか……。
まあ、めちゃくちゃ使える能力があっても、俺の戦闘スタイルに合わなければ使わないだろうけど。
「……それにしても、この制服。サイズ合ってなくないか? 明らかにデカいんだけど」
と、意識を聖剣からアルトリア騎士団の制服に切り替えた俺は文句を言う。
それにデザインも俺の好みからはかけ離れている。
何せ、全体的に白い。白すぎる。
ところどころに赤いラインが入ってはいるが、とにかく白い。
黒色が好きな俺からしてみれば落ち着かない。
この決闘が終わったら絶対にアレンジしてやろう。
まずは制服を黒く染めるところから始めるかな。
そう思いながら、制服に着替える。
……うん、やっぱり大きかったわ、それとも俺の足が短いのか。
これは裾上げもしないといけないらしい。このままだと裾を踏んでしまう。
まあ踏むだけならいいけど、踏んで転けたらかっこ悪すぎるし。
……と、冗談はそれぐらいにしておいて、俺は精神を研ぎ澄ませることに意識を集中させる。
何度も深呼吸を繰り返しながら。
そして。
「行くか」
俺は聖剣を手に、部屋を出る。
絶対にオルガに認めさせてやるという想いとともに。
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