10話 新登場の女騎士と話をしました

「ハッ、面白い。なら、オレ様は先に決闘場で待つ。怖気づいて逃げるなよ?」


 俺の出した答えにオルガは獰猛な笑みを浮かべたかと思いきや、俺やアナベルを押し退けて部屋から出て行った。


 その途端に。


「アルト。どういうつもりだ」

「そうですよ、アルトさん。シャルロッテ様と面会する予定があることをお忘れですか?」

「まあまあ二人とも。一瞬で片付ければ問題ないだろ。それにどのみちこうなってただろ、あれは」

「それはそうかもしれないが……」


 アナベルは頭を抱えてしまった。


 俺も頭を抱えたいところだ。少し調子に乗りすぎてしまった。


 しかし、さっきも言ったように遅かれ早かれ俺とオルガは戦うことになっていたはず。

 そうでもしなければ、オルガに認めてもらえないからだ。


 そういえば。


「オルガって強いの? アナベルより強いと言ってたけど」

「……あぁ。悔しいがその通りだ。そもそもオルガはアルトリア騎士団の中でも上位の強さ。私が太刀打ちできるような相手ではない。勿論、アルトにもほぼ勝ち目がない……と私は思っている」

「マジ?」

「マジだ。だがキミは勝つ気なのだろう? なら、少し待っているがいい。渡したい物がある」


 そう言って、アナベルは急いで部屋から出て行った。


 しかし、渡したい物とは何だろうか。


 この状況で言ってくるということは、オルガとの決闘で役に立つ物だとは思うが……。


 そう思っていたら。


「ねぇねぇ、きみって可愛い顔しててもやっぱり男の子なんだね。ドキドキしちゃったよぉ!」


 出会っていきなり品定めしてきた女騎士の一人が話しかけてきた。


 確か、名前をカレンと言ってたっけ?


 でも女騎士と言っても、アナベルやオルガとは雰囲気がまるで違う。


 どこかふわふわしていて、掴みどころがない。

 これまでで出会ってきた騎士の中で、一番女の子らしい気がする。


「あ~っ、今カレンのこと弱そうって思ったでしょっ! オルガと比べたら弱く見えちゃうけど私だって隊長より強いんだからねっ!」


 と、カレンは頬を膨らませていた。


 しかし、それを聞いた俺の印象は胡散臭いなぁ……である。


 こんな女の子っぽい人が、一番騎士らしいアナベルに勝てるとは到底思えなかった。


 俺はノエルに視線を向ける。


「カレンさんの言っていることは事実ですよ。アナベルさんは第十二番部隊の隊長ですけど、戦闘能力だけで言えば一番弱い私の次に強いぐらいでしょうか」

「マジか……。というか、自分を一番弱いとか言うなよ。何か悲しくない?」

「平気です。もう自分の弱さを受け入れてますから」


 ノエルは神妙な面持ちで語った。


 まあ実際ノエルは弱い。引きこもってた俺より体力が無いぐらいだった。


 そのときは寝不足だとか言い訳してたけど。


 というか、ノエルはそこの眼鏡っ娘よりも弱いのか。見るからに大人しそうで、とても戦闘に向いているとは思えないんだが……。


「……私、ですか? 私はシノア……です。よろしくお願いします」

「あぁ、よろしく」


 やっぱりノエルより弱そうに見える。

 視線がめちゃくちゃ泳いでるし、剣を振り回す姿がとてもじゃないが想像できない。


 頑張って俺の方に視線を向けようとしているけど、恥ずかしいのかすぐに目を逸らしてしまうような子だぞ。


 可愛いな、おい。


 で……、三人目の女騎士にノエルが勝てないのは何となくだけど頷ける。


 何かめちゃくちゃ賢そうだし、弱点を突いてきそうな気がする。

 ノエルにはとても大きな弱点があるからな。


 もう二度と口にはしないけど。


 正直、一番相手したくない相手かもしれない。何を考えているのか、全然読めない。


「人のことをジロジロと見るのは感心しないな。しかし、今回は初犯だから許してやろう。それで? 君は何が知りたいんだい?」

「えーと、名前?」

「ほう、名前とな。どうやら君は私に興味があるみたいだ。いいだろう教えてやろう。私はテレシアだ。覚えておくといい。きっと役に立つ。それで? 他には何が聞きたい?」


 テレシアはニコニコしながら、ズイッと顔を近づけてくる。


 それに対して俺は苦笑いしつつ、後ずさった。


 ……マジで行動が読めない。


 大体こういうのって一つしか答えてくれないもののはずなのに、二つ目もしっかり答えるつもりらしい。


「あ~っ、ずるいっ! 私だってアルトくんとおしゃべりしたいのに!」

「わ、私も、したいです……」

「うんうん、二人の気持ちもよーく分かる。でも残念だったな二人とも。彼は私の話に興味があるのだ。そうだろう?」

「いや、えーと、俺は……」


 どう反応すればいいのか分からない。

 確かにテレシアの言うように聞きたいことはある。


 でも、別に誰だっていい。


 オルガのことは三人とも知っているだろうし。


 何だったら。


「ちょっと三人とも! アルトさんが困ってますから、離れてくださいっ!」


 この場を収めようとしているノエルでもいい。


 だがそれを聞く時間は残されてないみたいだ。


 アナベルが戻ってきたらしい。

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