9話 勇者を演じ続ける覚悟を決めました
……え? いきなり品定めですか? 初対面の相手にそれは失礼じゃない?
別に俺は構わないけど嫌な人は嫌だよな、絶対。
というか、この人たち誰? それもまた女だ。
アナベルもノエルも、魔物の群れと戦っていた騎士たちも女だけだった。
アルトリア騎士団・第十二部隊……だったっけ? この隊には女しかいないのか?
だとしたら、凄い戦力に偏りがありそう……というか、絶対にある。
この人たちも強そうには見えない。
そう思っていたときのこと。
「あぁ? こんな弱っちそうなのが勇者だってのかぁ? ……アナベルさんよぉ、連れてくるやつ間違えたんじゃねぇのかぁ!?」
何か気の強そうな奴が出てきた。
それにこいつも初対面なのに失礼だな。さっきの人たちより失礼極まりない。
弱っちそうって何だよ、弱っちそうって。
俺は弱っちそうじゃなくて、弱いから。
一人対複数人なら【魔物生産】のお陰で戦えなくはないが、一対一は普通に負ける。
力の差が歴然だった場合の話だけど。
というか、俺も自分のことを勇者だとはこれっぽっちも思ってない。
アナベルたちが勝手に言っているだけだ。
俺だって迷惑している。
そのアナベルはと言うと……。
「何、心配はない。彼が優秀であることは私も、ノエルも認めている。それにこれはシャルロッテ様がおっしゃられたことだ。オルガがどう思おうが、彼は勇者だ」
どうやらアナベルは俺が勇者であると本当に思い込んでいるらしい。
だが、その態度が気に食わなかったのか。
「おいアナベル。口の聞き方には気をつけろよ? お前はオレ様より弱ぇ。お前の目にはあいつが優秀に映ったのかもしれないがなぁッ! オレ様からしてみれば雑魚も同然なんだよッ!」
オルガは吠えた。猛々しく、獰猛に。
こいつを見ていると、冒険者時代に戦った白虎を思い出す。
白虎は凄まじいほどに強かった。
Sランクにカテゴライズされているモンスターで、大陸の西側を支配している聖獣だ。
初めて奴と対峙したときは手足が痺れた。体が動かなかった。死ぬかと思った。
いや……俺はあの戦いで一度、死んでいたかもしれない。
それほどまでに濃密で殺伐とした戦闘を繰り広げた。
俺は何もできなかったけどな。てへっ!
そんな俺が言っても説得力はまるでないが、オルガは白虎より遥かに弱い。
どれだけ吠えようと白虎を知っている俺からしてみれば、子犬がキャンキャン鳴いているようなにしか見えなかった。
とは言え。
「だから――貴様に決闘を申し込む」
この宣言には驚いた。
何を勝手に戦おうとしてるの? やめて?
それはアナベルも同感だったらしい。
「オルガっ、何を勝手に!」
と、慌てる様子を見せた。
だが。
「いいや、これは決定事項だッ! もしお前がオレ様に勝てたなら、勇者を好きに名乗ったらいい。だがオレ様に負けたら、さっさと目の前から消えやがれッ!」
オルガは俺に対して敵意を向け続ける。
それに、そのオルガが向けてくる目……。俺はそれを知っている。
俺をパーティから追放するときに、カインが向けてきたものと酷似しているのだ。
こいつはどうやら俺を見下しているらしい。
「少しは落ち着け!」
アナベルはどうにか抑えようとしてくれているが、そんなものは油に火を注ぐ行為だ。
俺にそんな価値は無いからな。
だって俺はパーティーを追放されただけで冒険者を諦めるどころか、生きることさえも諦めようとした男だぞ。
だから今回もオルガの言うことは正しい。
なにせ俺は弱い。弱いからパーティーから追放されたんだ。
「…………」
だが、それでも。
そんな俺でも。
勇者だと思い続けてくれるのなら、俺はアナベルやノエルのために勇者を演じ続ける。
俺はもう……二度と逃げたくはない。
次、目を背けてしまったら、俺は正真正銘の役立たずになってしまう。
だから。
「分かった。その決闘、受けて立つ」
俺は覚悟を決めた。
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