13話 決闘に決着がつきました
――【魔物生産】。
これが俺の原点であり、最終手段だ。
もしこれでオルガが倒れなければ、俺の負けということになるだろう。
だが、これで決着をつけてやる。
「来やがれ。――『セイント・メテオレイン』ッ!」
あらかじめ掌握していた座標――今回はオルガの真上に、全ての魔力を費やして作り出したスライムを展開。
そしてここまで出番の無かった聖剣を複製し、全てのスライムに装備させ――天高くからの急降下。
これは言わば聖なる剣の雨。
正直、聖剣がどれほどの代物かは分からない。
しかし、勇者にしか託されない剣が弱いはずがない。
余裕でオルガの防御力を貫通することだろう。というかしてもらわないと困る。
だが。
「ククッ、面白い。面白いぞ、アルトッ! ここまでオレ様を楽しませてくれたのはお前で二人目だッ! これは誇ってもいいッ! だが、勝負に勝つのはこのオレ様だッ!」
オルガは俺を認めながらも、余裕で『セイント・メテオレイン』をいなしやがるのだ。
一体どういう反射神経をしているのか。
本当に人間なのか?
そう疑問に思わざるを得ない。
何せ、『セイント・メテオレイン』は人間が目で追える速度を逸脱している。
そのはずなのに、避けられている?
何故、的確に聖剣を弾くことができる?
もう訳が分からなかった。
それに比べて俺は、魔力欠乏症で意識を保つだけで精一杯で……って、あれ?
魔力が回復している?
しかもかなりの速度だ。
これは一体、どういう……。
まさか、聖剣の能力か?
いや、今はそんなことを考える余裕はない。
オルガに勝つことだけを考えろ。
正直、『セイント・メテオレイン』で勝負が決まらなければ俺の負けだと思い込んでいたが、魔力があるなら話が別だ。
俺は再び魔力纏いで身体能力を強化する。
そして、手のひらにいるスライムを十匹に分裂させた。
これで単純計算ではあるが、さっきの『ファイア・インパクト』の十倍は威力が出せるようになるはずだ。
というのも、【魔物生産】の副次能力で全てのスライムと感覚・情報を共有することができ、『ファイア・ボール』の使用を命令することができるのだ。
しかし、それでもオルガは倒れない可能性が高い。
オルガの防御力が異常であることはすでに痛いほど分かっている。
そんな圧倒的な防御力を突破するために必要なのは貫通力だ。
一応、頭に技のイメージはあるけど、試したことがないから一か八かの賭けになる。
だが、早々に勝負を決めなければジリ貧になって負けてしまう。
だから、もうこれで終わらせてやる。絶対に!
「行くぞオルガ! これが正真正銘、最後の一撃だ!」
俺はそう意気込み、『セイント・メテオレイン』に飛び込んだ。
だが、座標を掌握している俺には聖なる剣の雨がどこに降ってくるのかなど、手にするように分かる。
俺は目に見えない速度で降ってくる光の雨を容易に潜り抜けてオルガの懐に入り込む。
「来たかアルトッ! 次の攻撃も耐え切って、オレ様がお前に引導を渡してやるッ!」
しかし、オルガに構える様子はない。
今も『セイント・メテオレイン』による攻撃が続いているからだろうか。
だが、俺にとっては好都合だ。
防御の構えに入られてはどうしようもないからな。
「喰らいやがれッ! ――『ファイアインパクト・廻』ッ!」
これがたった今、イメージのみで作り出した現状最強の攻撃だ。
基本は通常の『ファイア・インパクト』と変わらない。
だが、『ファイア・ボール』が標的に着弾すると同時に手首を捻ることでわずかながらに回転させて、貫通力を増している。
それに加えて『ファイア・ボール』十発分の衝撃が、一気にやってくるから爆発力が通常のファイア・インパクトとは桁違いだ。
それゆえに俺の右腕は爆発に巻き込まれて大火傷を負ってしまう。
流石に分裂して小さくなったスライムでは全ての衝撃・炎を吸収できなかった。
だが、右腕が灰になろうとも俺は最後まで技を止めることはせず、腕を振り切った。
すると流石のオルガも耐えられなかったのか、後ろに吹き飛び壁に衝突。砂埃が舞う。
これで……終わってくれ。
俺はそう強く願った。もう一歩も動けそうもない。
右腕からは肉が焼けるような匂いとともに激痛が走って、痛みが全身を蝕み始めた。
この痛みは火傷のせいだけじゃない。間違いなく骨が折れてしまっている。
筋肉繊維もただでは済んでいないだろう。
だからどのみち決闘はこれでお終いだ。
これで決着がついていたら俺の勝ちで、オルガの防御力が上回っていたら俺の負けということになる。
俺は壁に激突したオルガの方まで歩いた。
そして、砂埃が晴れた先にいたのは。
「俺の……勝ちみたいだな」
全身を脱力させ、気絶しているオルガだった。
しかしこれ、マズくない?
勝利の余韻に浸る間もなく俺は思った。
オルガはこれだけタフで強くても女の子だ。
俺はオルガとの決闘に勝利してそれを証明した。
そんな彼女の腹部には一生残り続けるかもしれない大火傷ができてしまっていた。
というよりこれは皮膚が爛れている。
しかも爛れた皮膚の奥に白い物が見えていて……もしかしてこれ、肋骨?
ヤバい……!
これはすぐに治療しないと手遅れに……!
俺はアナベルたちを呼ぼうと振り返ろうとした。
しかし。
「カレン、シノア、テレシアはオルガの治療を頼む」
すでにアナベルたちは駆けつけていた。
流石は騎士といったところか。やることが早い。
でも、それではダメだ。
俺はそのことを訴える。
「俺のことは後回しでいいから、アナベルとノエルもオルガの治療に回ってくれ」
俺はオルガの治療がすべて終わった後でいい。
俺には意識があるし、耐えようと思えば耐えられるからだ。
しかし。
「何を言っているのだ! キミは! どちらかを優先することなどできない! 二人とも重傷者に他ならないからだ」
「そうですよ。アルトさんは黙って治療されていてください。それに……」
「オルガはキミが心配するような柔な奴じゃない。オルガと戦ったキミが一番そのことを理解しているはずだろう?」
……違う。
そうじゃない。二人とも何も分かってない。
たしかにオルガは強かった。
……異常なまでに。
今まで出会ってきた冒険者の中でも一番強かった。
多分、次戦ったら俺は負けてしまうだろう。俺にはあれ以上の攻撃はない。
しかもまだ未完成で発動しない可能性もあるし、簡単に避けられてしまうだろうから。
だが、そんなことは関係ない。
だってオルガは。
「女の子だから」
「何だ?」
「オルガは女の子だ。そして俺は男。どっちを先に助けるかなんて、言わなくても分かるはずだ」
「だが、オルガは強い。だからキミはこんな無茶をしたのだろう?」
「あぁ、その通りだ。勇敢に戦う騎士だったから半端な戦いはできなかった。でも戦いが終わればオルガは女騎士じゃない。普通の女の子だ。だから先に助けてほしいと言っている」
俺はそう恥ずかしげもなく言い切った。
もしこんな危機的状況じゃなければ、赤面ものだ。
でも、俺は本当にそう思っている。
「そうか。キミから見れば、あのオルガも女の子か。やはり、キミには勇者の素質があるようだな」
「そういうのはいいから、オルガを……」
「大丈夫だ。そう心配しなくてもいい。オルガには傷一つ残らないよう、徹底的に治療するつもりだ」
「だから、アルトさんは安心して眠っていてもらってもいいんですよ」
そう彼女たちに優しく諭された。
だからなのか、俺の瞼は閉じていく。
眠るつもりはなかったのに。俺にはオルガを傷つけてしまった責任がある。
せめて治療が完了するまでは起きているはずだった。
でもこれは、抗えない。酷い眠気だ。
この眠気は一睡もせず、ダンジョンを踏破したときに匹敵するかもしれない。
いや、もしかしたらそれ以上か……。
そう俺は思いながら。
「……なら、そうさせてもらう。後は頼んだ……」
オルガのことをアナベルとノエルに託した。
どうやら、人間は眠気には勝てないらしい。
俺は気を失ったかのように、眠りにつくのだった。
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