5話 女騎士が自爆しました
あれから数十分歩き続けてようやく俺たちは森の中に入ることができた。
……のはいいものの、体力はすでに限界を迎えている。
この状態でさっきみたいな無茶をしたら丸一日体が動かせなくなるだろう。
まさかここまで体力が衰えているとは思わなかった。
数ヶ月前までバリバリ依頼をこなしていた冒険者だったのにな。
底辺のFランクだったけど。
やはり数ヶ月も部屋に引きこもっていたら誰だって体力は衰えるということか。
これはもう一度、体を鍛え直さないといけないみたいだ。
本当はこれからも引きこもっていたいが。
しかし、どうせ今回みたいに魔物が現れでもしたら無理やり戦場に連れて行かれるに違いない。
あぁ……損な役回りだな、俺って。
本来、騎士団で解決しなければならない案件に振り回されるなんて。
というか、さっきの恥晒しな女騎士を見るに、この騎士団のレベル、かなり低いんじゃないか?
中にはいい動きをしている人も少なからずいたが、全体的に見るとやはり弱い。
というのも。
「なぁノエル。お前は女でも騎士だよな? さっきまで引きこもってた俺より疲れてるってどういうこと?」
俺はすぐ隣を歩く女騎士に聞いた。
それに対して、肩で息をしながら歩く女騎士は涙目になりながら反論してくる。
「だって、仕方ないじゃないですかぁっ! アナベルさんの訓練は厳しいんですよぉ! 昨日だって夜遅くまで体を酷使する訓練をしていて、今日はあまり眠れてなくてツラいんです……!」
ふむ。どうやら嘘を言っているわけではないらしい。
ノエルの目の下にはかなり濃いくまができているのが証拠だ。
せっかく可愛らしい顔をしているのに台無しだな。
しかし。
「それは騎士団としてダメじゃね? いざというときに百パーセントの力が出せないとさ」
「それはそうなんですけどぉ……、私にもいろいろと事情がありまして……」
「事情、ねぇ。そんなのただの言い訳でしかないけどな」
「アルトさん、なかなかストレートに言ってきますね。でも、その通りなので何も言えないのが悔しいです……」
俺の言葉に肩を落とすノエル。
だが、どんな事情があってもこんな体たらくな騎士団では守れるものも守れない。
一度、アナベルとは話し合ってそこら辺を改善しないといけないな。
そうでないと俺の負担が増えるかもしれない。
俺はこれからもできるだけ引きこもっていたいのだ。
だから、ノエルたちにはいつでも全力が出せるようになってもらいたい。
というか、俺が不必要になるぐらい強くなって欲しい。
……あ、そういえば。一つ気になることがあったな。
これを解決できたら生存確率がグッと上がるだろう。
その気になることと言うのは。
「なぁ、ノエル。言うか言うまいか悩んでいたんだが、何で胸当てを着けていないんだ? アナベルは装備していたように思うが……」ら
これは単純に疑問だった。
【魔物生産】を使用する際、胸の柔らかさを堪能できたのは男として嬉しい限りだが、騎士としてはどうなのか。
勿論、別に着けることを強制しているわけではないが、これでは弱点を晒しているようなもの。
何かそうしなければならない理由でもあるのだろうか。
無いと胸当てを着けない意味が分からないけど。
ちなみに俺の服装は寝間着だけどな。
そして髪の毛はボサボサ。寝癖が至る所にあって、外出するのが恥ずかしくなるレベル。
それはさておき、俺はノエルの方に視線を向けた、のだが……。
あれ? 何か俺、まずいこと言ったかな。
耳まで真っ赤にして、蹲ってる。
「どうしたんだよノエル。腹でも痛いのか?」
「痛くありません! せっかく思い出さないようにしていたのに……!」
「な、何だよ。急に大声出すなよな……」
「だって……恥ずかしいじゃないですか! 胸が成長したせいで一週間前まで着けられていた胸当てが着けられなくなったなんて……っ!」
「えぇ……?」
「ほら見たことですか! やっぱり引いてるじゃないですか! ……もう私、帰ります」
……え? 俺、何かしました?
明らかにノエルが自爆したようにしか思えないんだけど。
胸当てを着けてない理由ぐらい、適当にでっちあげればいいだけなのに……。
あぁ……、胸関係で人を怒らせたのは二回目だ。
一回目は……いや、もうあいつのことは忘れた。二度と思い出したくないね、あいつのことは。
それにしても、一週間で胸当てが着けられなくなるってどういうこと? 男にでも揉まれたか?
迷信だと思っていたけど事実だったのか? いやでもそれなら何であいつはいつまでも貧乳だった……?
……謎が深まるばかりだな。
でも今は、
「……何か、ごめん。まさかそんな理由があったとは思わなくてな。……お詫びと言ってはなんだが、アナベルに定期的に休めるよう取り合ってあげるよ」
ノエルの機嫌を取ることが最優先だ。
本当に帰られたら困る。
「しょ、しょうがないですね。そこまで言うなら許してあげます」
……あっ、そこまで休みが欲しかったんだ。
さっきまで蹲ってたのが嘘のようだ。
ノエルは意気揚々と歩き始めていた。
「何をしているんですか? 早く行きますよ!」
「はいよ……」
俺は言われるがまま、ノエルについて行くのだった。
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