4話 魔物の群れを殲滅しました
まず第一の段階として、無意識に得ている外界の情報を全てシャットダウンする。
これから使うスキルにそれらの情報は必要ない。それどころか邪魔になってしまう。
とは言え、このままでは何もできない。
だから俺は次の段階として、意識的にとある情報のみを得る必要がある。
そのために自分を中心とした半径数キロメートル圏内に己の魔力を漂わせて、その範囲内を掌握する。
この前準備は俺が唯一持っているスキルを有効的に活用するのに必須の工程だ。
そのスキルを【魔物生産】という。
今まで倒したことのある魔物を魔力で作り出すというものだ。
だからこそ俺は家に引きこもりながら、魔物を倒すことができていた。
ちなみに俺が作り出せるのはスライムだけ。今まで自分の力で倒したことがあるのはスライムだけだからだ。
どうやら【魔物生産】で作り出したスライムが倒した魔物はカウントされないらしい。
……さて。
準備は整った。
ここからは一方的にやらせてもらう。
俺は今ある全ての魔力を消費して、スキルを発動した。
すると。
「あ、あの……アルトさん? って、えぇ!? 鼻血が出ていますよ、鼻血! それに顔も真っ青になって……。一体、何をしたのですかっ!」
ノエルのやかましい声が聞こえてきた。
ったく、集中が途切れてしまいそうになる。
だが、どうやら【魔物生産】の発動に成功しているらしい。
というのも鼻血が出たり、真っ青な顔色になるのは、魔力が欠乏したときに出る症状だからだ。
もし失敗していたら魔力は消費されないからスキルの成功・失敗は見なくても分かる。
……次の段階に入ろうか。
俺は【魔物生産】で作り出したスライムと感覚を共有する。
その瞬間、スライムが見ているだろう景色が見え、聞いているだろう声が聞こえてくる。
『そ、そんな……』
一人の女騎士は絶望を貼り付けたような表情で崩れ落ち、
『まだ、死にたくない。嫌だ、お母さん……』
また違う女騎士は戦意を喪失し、一歩また一歩と後ずさる。
……ふむ。
あまり状況はよろしくないようだ。
まあ、状況を悪くさせたのは俺だけどな。
ただでさえ厳しい状況なのに数百を優に超えるスライムが急に現れたのだから、こうなるのも無理もない話だ。
流石に絶望感を露わにされるとは思いもしなかったが。
しかし、この状況も一気に好転する。
俺の手によって。
俺は魔物の群れと相対している女騎士に声をかけた。
『俺の声が聞こえるか? 聞こえたなら撤退した後、森へ向かったアナベルと合流してほしい』
『ひっ、ひぃぃ。声が……』
『ごめんなさいごめんなさいごめんなさい、許してください、お願いします……っ』
『…………』
優しく声をかけたはずなのに怖がられてしまった。ショック。普通に傷ついた。
というか戦場のど真ん中で膝をついて謝るな。死ぬぞ。
ったく、まともに話せる奴はいないのか?
そう思っていると、このような状況下でも冷静に魔物を倒し続けている女騎士が声を上げた。
『あなたがどなたかは分かりませんが、助かりました。私たちは戦場から撤退し、アナベルさんと合流します』
おっ、この人がここを指揮している女騎士みたいだな。一気に撤退を始めた。
中にはただこの場から逃げ出したい人が一定数いるみたいだが、まあ何でもいい。
ここからいなくなりさえしてくれればな。
……さて。
――魔物の殱滅を始めようか。
とは言え、流石に気分が悪い。
魔力欠乏症には慣れているのだが、しんどいことには変わらない。
とりあえず、スライムたちに戦ってもらうしかないな。
俺はスライムに命令を下した後、意識の集中を解いた。
「アルトさん?」
「……やることはやった。後は多分、あいつらがどうにかしてくれるはずだ」
「ということは、あのスライムは……」
「ああ。俺のスキルで作ったスライムだ」
「大丈夫なんですか? スライムは攻撃力皆無ですよね?」
「やっぱりスライムはそういう認識か。でもあいつらは他のスライムとは違って……」
俺はノエルにあいつらのヤバさを伝えた。
まず、俺の生み出したスライムは攻撃力最強だということ。
何せ、どんな魔物でも体液で溶かして体内に取り込みやがるからな。
そして、最強の防御力も兼ね備えていること。
打撃は基本的に効かないし、斬撃も分裂するだけでダメージはない。
ただ、例外的に魔法攻撃は分からない。今まで受けたことがないのだ。
しかし、それを補うために武器や防具を装備させている。
どうやら俺が一度触れた装備品は複製することができ、スライムにも装備させることができるようなのだ。
これも【魔物生産】の副次効果だと思う。
正直、俺も【魔物生産】についてよく分かっていないことが多い。
だが、それでも言えることがあるとすれば、今のところあいつらは負けなしだということだ。
後、特徴としては。
「……アルトさん。これ、気のせいかもしれないんですけど、スライムたち連携して戦っていませんか?」
「よく分かったな。あいつらは役割分担していて、主に四つに分かれてる。陽動・防御・攻撃。そして、司令塔。まあ、司令塔が居なくてもあいつらは意識的に繋がってるから何の問題もないけど」
「アルトさん。もしかしてあのスライム、私たち騎士団より強いのではないでしょうか?」
「かもしれないな。あいつら、魔物を倒すたびに強くなってるし」
……そう話しているうちにそろそろ片付きそうだな。
魔力も三割程度だが回復したし、残りの魔物はスライムに任せても大丈夫だろう。
万が一に危なくなってもスライムと情報共有しているから、すぐに駆けつけることができるしな。
「さてノエル。アナベルと合流しようか」
「そうですね。私たちがいても出る幕は無いみたいです」
こうして俺はノエルとともに、その場を後にしたのだった。
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