3話 魔物の群れと遭遇しました
ガタゴトと馬車に揺られながら、俺たちは戦場になっているという村に向かっている。
どうやら話を聞くに、数百規模の群れを成した魔物が、その近辺に出没したらしい。
すでに女騎士たちの仲間が対処に当たっているみたいだが、戦況はよろしくない……とのこと。
というのも。
「――魔物が無限に増え続けてる?」
「ああ。情報では村付近にある森に、魔物を無限に生み出している魔法陣があるらしい」
「なるほどね。つまりその魔法陣をどうにかしないといけないけど、魔物が多過ぎて近づけないってことか」
「その通りです、アルトさん。しかしそれはこの村だけの話というわけではありません」
「どういうことだ?」
「魔物大量発生の現象は大陸各地で確認されていて、私たち騎士団だけでは対処し切れませんでした。そこで、その状況を打破するために勇者であるあなたを探していたわけです」
俺が引きこもっていた間に世界がこんなことになっていたとは。
俺の故郷にそのような話は出回っていなかったから、まったく知らなかった。
だが、いつ故郷がこのような事態になってもおかしくないということか。
なら早いうちに対処しないと危ないな。
ただ……俺にこの現状を打破する力があるのだろうか。
どうにかしないといけないなら、死力を尽くしてでも頑張ってみようとは思っているが、普通に厳しいだろうな。
だって相手は数百規模の群れを成した魔物の大群で、今も数を増やし続けている。
「どうにかできないだろうか?」
脳筋の女騎士が真剣な眼差しで問うてくる。
それに対して。
「増援は見込めないんだよな?」
質問を質問で返した。
だが、その答えは案の定。
「ああ、無理だ」
女騎士はキッパリと言い切った。
「そうか」
なら、俺にできることは一つしかないか。
今、魔物と戦っている女騎士たちに余力が残っているならまだ他にも手はあったと思うが、それも難しい。
ならばこの局面は。
「……二手に分かれよう」
「どういうことですか?」
「村を守るグループと魔法陣を解除するグループに分けるってことだろう。だが、そのグループの分け方はどうするつもりなのだ?」
「ああ、それはな……」
俺は二人にグループ分けについて話した。
と言っても、別に大したことは言っていない。
余力の無い女騎士たちにこれ以上負担をかけられないなら、余力のある俺たちを二手に分けた方がいい。
それに、この分け方が一番成功率が高い。
俺の能力が最も活かしやすいはずだからな。
だが、何も知らない女騎士にとっては。
「ふざけているのか?」
そう思わざるを得ないだろう。
俺だって女騎士の立場ならそう思う。
こんな分け方、死にに行っているようなものだからな。
「もう一度言うぞ? ふざけているのか?」
「ふさげてない。疲れた女騎士たちはこれ以上戦えないし、お前らも数百を超える数の魔物を相手するのは難しいだろう。だったら、俺が一人残った方がいいに決まっている」
「キミはやはりふざけている」
「ふざけてない。大真面目だ」
ふと外を見ると、遠くに魔物の群れを確認できた。
どうやら言い合っている時間は残ってないらしい。
なら、ここは。
「欲を言うなら二人のうち一人はこっちに残って欲しい。スキルを使ったら俺は無防備になってしまう」
「分かった。それならノエルを残して行こう」
「ありがとう」
「ほかに何か無いのか?」
「……無いかな。ノエル……だっけか? 彼女が居てくれるだけでいい」
本当はこの馬車を残して欲しいが、村から森まではもう少し離れている。
まあ日頃から鍛えている女騎士なら普通に徒歩でも大丈夫な距離だろうけど。
「……俺たちは馬車から降りることにするよ」
「分かった。ノエル、アルトを頼むぞ」
「はい、任せてください!」
こうして、俺とノエルは止まった馬車から降りた。
そしてそのまま見送ることもしないまま、俺はスキルを使おうとした。
が、そういえば。
「名前を聞くのを忘れてたな。お前、名前なんて言うんだ?」
俺は後ろに振り返って聞いた。
「私か? 私はアナベルだ」
「そうか、アナベルと言うのか」
「……どうした?」
「何もない。お互い生きていればいいな」
「そうだな」
そう言葉を交わし終えて、馬車は再び走り始める。
さて。
「ノエル。早速で悪いんだが、少しこっちに来てくれないか?」
「え? 何ですか?」
「いいからいいから」
「……?」
どうやらノエルは不思議に思っているらしい。首を傾げて困っているように見える。
それもそうだろう。
まだ魔物の群れからは距離があるのに歩きもせずに俺はしゃがみ始めたわけだし。
「あの……?」
「ノエルも腰を落とせ」
「わ、分かりました」
疑問を抱いているだろうにノエルは俺の言うことを聞いて、鎧の金属が擦れる音を鳴らしながらしゃがみこむ。
よし、これで後は。
「胸……借りるぞ」
「えっ……?」
ぽふん。
そんな効果音が聞こえてきそうな胸に包まれながら、俺はスキル使用の準備を始めた。
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