第73話

「あたしちゃんはディーラーだからな、そりゃ当然、ディーラーならバニーガールに決まってんだろ」


ふんす、と鼻息を荒くしながら双蛇羅刹が胸を張った。

胸を張った際に、豊満な胸が、面積の小さいレオタードから零れ落ちそうだった。


「此処はあたしちゃんが認可した人間しか入る事の許されない賭博都市ラスベガス。一度入ったら、『ゲーム』をしない限り出る事は出来ない」


ゲーム。

その単語を聞いて黒隠は憤りを見せる。

彼の顔は仮面をつけている為に分からないが、握り締めた拳の硬さが彼の怒りを象徴していた。


「ふざけた真似を…勝手に連れてこられてゲームをしろと?理不尽な話ではないか」


「あぁん?あたしちゃんが理不尽なのは当たり前の話だろぉが!!今更泣き言呟いてんじゃねぇよ!」


理不尽な台詞である。

流石の加咬弦も、黒隠に同意するかの様に首を縦に振った。


「だけど、あたしちゃんは理不尽だが、勝負は公平だ。何故ならあたしちゃんは賭博を司る悪魔ちゃんだからな、勝負には絶対的に公平で行う。それだけは保証してやるよ。あたしちゃんの胸を賭けても良い」


「賭けるのが好きよな、この僕は」


統道旭が珍しくそう呟いた。

理不尽の権化でもある統道旭が言うのだから、賭け好きである事は間違いないだろう。


「黒隠、爺様からの命令かの?」


「旭さま、お嬢様、どうも、お久しぶりであります、そうです。私は、その男を殺す為にやって来たのです」


黒隠が細い指先で加咬弦を指差した。


「しかし、お嬢様はその男を庇おうとしている、それはいけません。もしも庇い続けるのならば、お嬢様にも多少の傷を、受けて貰う覚悟でいて下さい」


「ふぅん。全体即死の『深淵の終着点メイドインアビス』を使っておいて、多少の傷、とは笑わせるの」


口で笑みを浮かべてはいるが、その目は笑っていなかった。


「おらおら、むかしむかしあるところにが聞こえて来るぜ、昔話なんざ後でやりな。さっさとゲームを始めるぜ」


そう言って双蛇羅刹がパチン、と指を鳴らす。

すると、加咬弦らは何時の間にか賭博場へと移動していた。


「おら、なんのゲームをするか選べよ、この中からな」


そう言って、双蛇羅刹は自らの胸元に指を突っ込んだ。

そしてどうやったら胸の中に隠しておけたのか、四十八枚入りのトランプカードの束が出て来る。


「このトランプカードにはゲームの名前が書かれている。あたしちゃんがシャッフルすっから、そこの髑髏、お前がストップって言え、そして上から五枚を場に出す。その中から、弦太郎、お前が一枚引け、その引いたカードの内容が勝負の内容だ」


そうして、双蛇羅刹のシャッフルが始まった。

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