第64話

頬を赤く染める。

カチューシャを外し、銀色の髪がさらりとベッドの上に散った。

白雪を連想させる着物を緩ませ、肩を露見させる。


「どうした?早く襲わぬか?供え膳食わぬは男の恥、否、此処迄お膳立てをしておいて…襲われぬのであれば、妾こそ生き恥よ」


傲慢さは相変わらず。

しかし言葉を汲み取れば、加咬弦に身を捧げると言っている。

それでも、加咬弦が首を縦に振る程の勢いは無かった。


「状況を見てくれ…俺は追われる身だぞ?」


現状を知っている。現実を理解している。

今は、愛し合う時ではないし、それをする程、自分が良い立場にあるとは思っていない。


「ふむ、…では何時が良い?お前が追われなくなった時かの?それとも、自分で生きる理由を見つけた時かの?」


「…」


押し黙る。

きっと、彼がそれを望む日は来ないだろう。


「どれも一日や一週間で変われぬ事に変わりなかろう?其処まで妾とて待てぬ、いや、お前が妾を襲わなければ…妾の名誉に掛けて、意地にでもお前を抱くつもりだが…それでもお前は、妾を抱かぬと言うのか?」


着物の帯を外す。

前が剥がれて、裸体が露わになる。


「…お前、二人きりになる為に羅刹を買い物に行かせたのか?」


目を逸らしながら、加咬弦が全てはこの為にかと思った。


「当たり前であろうて。でなければ、財布など渡すまい」


加咬弦は、重苦しい吐息を口から漏らす。

この絶世の美女を前に、理性が外れない筈がない。

それでも意地を前にして、何とか平然を保つが。

それも限界だった。


「…俺は、そういうの、知らないぞ」


経験がない事を素直に告げる。

聞いて、統道は、鼻で笑った。


「奇遇だのう。妾も、知らぬ…今だけであるぞ?妾を、お前の色に染める事が出来るのは…あっ」


興奮の波が意識を浚った。

皮を剥いた果実の様に瑞々しい体に痕を付けていく。


「ん、ふふ、獣よな…ほれ、妾の体を、貪るが良い…」


果実を貪る獣を優しく抱き締める。

甘い蜜が垂れて、それを塞ぐように、二人は結ばれた。


が。


「んっ…痛ッ…ま、まて…まてまて…ぁッ」


興奮が止まぬ猛り狂う獣に向けて破瓜を迎えた乙女の拳が頭部を殴った。


「待て、と言うておろうがッ!」


「いってッ!」


繋がる二人は即座に離れる。

シーツに赤色が零れる、胸元を抑えて、涙目を浮かべる統道旭。


「…な、んだよ。割とガチに殴りやがって…」


「きょ、今日は、此処迄にする」


声を上擦らせて、統道旭は無常にもそう告げた。


「…は?お前、旭、それは無いだろ、これは…」


ただ突いただけ。

それなのに、そこで終わり。

男として、到底我慢できぬ言い渡しだった。


「だ、だって…血が…」


少女の証を見詰めながら声を漏らす。


「そりゃ初めてなら出るだろ」


さも当たり前だと、加咬弦は言い捨てた。


「とにかくっ…今日はここまで…ゆっくりと、な?」


上目遣いで言われる。

無理矢理襲えば、スキルを使用してくる事がなんとなく分かっていた。

強気に出る事無く、無理に理性で心を静める。


「…はぁ、どうすんだよ?」


充血し火照る体、憤りは収まる気配がない。


「…仕方がないの…かぷっ」


恥ずかしそうに、それでも愛しい子を撫ぜる様に。

指と口が不純を受け止めた。

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