第62話
「で、誰が飯買いに行くんだよ」
加咬弦はそう言いながら特定の人物の方に顔を向けた。
自分は買い物には行けないので、自分以外が買い物に行く様になっている。
「それはもちろん下手人だろうて」
統道旭が双蛇羅刹を見た。
「だってよ不老長寿下手人」
双蛇羅刹が加咬弦を見る。
「不老長寿は何処から出て来たんだよ」
関係ない部分にツッコミをいれる加咬弦。
「サービスに決まってんだろ、あたしちゃんは優しいからな!」
胸を張って豊満な胸を揺らす双蛇羅刹。
「…真面目な話、俺は外には出れないぞ」
彼は黒として判断され、処分される寸前だ。
次に迷宮協会の人間に出会えば確実に処分される。
「妾が使い走りなぞ、品が下がるであろう?」
なんとも自分本位な言葉ではある。
「しょうがねぇな…じゃあ頼んだぜ、紫式部」
誰も居ない所を見て、架空の人物に買い物を任せる双蛇羅刹。
どういった状況から紫式部が出て来たのか彼女の頭の中を見てみたいと思ってしまう。
「ふぅん、仕方がないの…ほれ、これでなんでも買うが良い」
統道旭は懐から財布を取り出した。
分厚い財布を、双蛇羅刹に向けて投げる。
「うっひょう!コイツぁ凄ぇや!ハロー諭吉!もうじきグッバイな諭吉ぃ!」
財布を受け取って狂喜乱舞する双蛇羅刹。
中身を確認すれば、数十枚の万札がぎっしりと入っていた。
「お前、財布丸ごと渡すなよ」
加咬弦は金を全て使われるかもしれないと危惧した。
しかし、金を全て使われても、統道旭には余裕が残っている。
「案ずるでない。妾が歩けば金の延べ棒に当たるでの」
ふふん、と鼻で笑う統道旭。
我ながら美味い例えであると思っていたのだろうが。
「答えになってねぇよ…」
さて心配である。
どうにか双蛇羅刹に言いつけて使い過ぎない様に言うべきだと思った。
だがそこで新たな情報が入った。
「別荘地には金庫が置かれておる、百万か二百万程は置いてあろうて」
統道旭は上に指を向けた。
それから察するに、金を管理する金庫が二階に置かれているらしい。
「それ大丈夫なのか?」
泥棒とか入ってきたら簡単に奪われるのではないのかと思う。
「大丈夫だろうて…ほうれ、迷宮遺物は切っておく、一時間後にまた付け直すゆえ、早々に行くが良い」
統道旭は双蛇羅刹を厄介払いする様に別荘地から出そうとした。
「おうおう!待ってな!あたしちゃんが豪快な魚を釣ってきてやっから!!」
別荘から飛び出た双蛇羅刹は手を振って二人に大きな魚を持ってくる事を誓う。
「食料を買えって言ってんだよ」
もしかすれば釣り竿を買って本当に魚釣りから始めるのではないのかと思ってしまう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます