第61話
本名不明。
生まれた時から迷宮で生活をしていた迷宮迷子である。
モンスターが溢れる迷宮で生存して来た彼は、通常の迷宮迷子よりも深く黒粒子を吸い込んで来た。
同時に様々な試練を乗り越えた事で彼のスキルは合計で七つ所持しているマルチスキルホルダーだ。
統道理事長に裏市と呼ばれる非合法の売買市場にて、多額の金が積まれたオークションに売り出されていた所を、三億四千万と言う買値を付けて統道理事長が購入。
マルチスキルホルダーは珍しい存在だ。
基本的に、迷宮に長く居れば居る程にスキルが解放される可能性が高くなる。
それでも、スキルを五つ以上解放している迷宮迷子は全世界でも二十パーセントにも満たないらしい。
それ程に珍しく、統道理事長が所有している私設部隊の迷宮迷子でも、黒隠以上のマルチスキルホルダーは存在しない。
黒隠はその事に対して多大なる誇りを持っていた。
しかし決して驕るワケではない。このスキルは己を助ける為ではなく、誰かの為に用意されたものだと解釈している。
スキルとは、未来や現在に対する暗示としての効果を持つ。
彼のスキルはどう見ても暗殺向けのスキルが多く、故に誰かに仕える為にあるスキルだと解釈しているのだ。
だから、黒隠が自分の為にスキルを乱用する事は無く、この力は自分に対する多大な恩義を与えた者に使うのだと決めていた。
そして、その思想こそが黒隠の異常性である事は、彼自身は分からないままであった。
「(孫娘殿が何処に居るかは検討が付かぬ故、私設部隊に属する情報を知る事が出来るスキルホルダーに伺った所…別荘地と言う単語が現れた)」
この近くにある別荘地は全部で七件。
その内、加咬弦と共に行動している以上、彼の存在をなるべく露わにしない様にすると考える。
「(で、あれば。この三つの何れかであるが…どれも白の様に思える)」
統道旭が滞在する別荘地は、統道理事長しか知らない。
だから、統道理事長に問えば、即座に彼女らの居場所が分かるのだが…。
「(とりあえずはこの三件を見回る…それでいなければ、協会の方に忍び込むしかあるまい)」
随分と遠回りな選択をして、黒隠は駆けだした。
既に周囲は黒色に染まった夜中である。
彼の外套に髑髏の仮面は、衣装が黒で仮面が白の為に中々印象に残りやすい恰好であった。
「(第一の術『影送り』)」
だから、自らの姿を隠す為に、黒隠はスキルを使用する。
このスキルは、影の中に入る事が出来る、と言うもの。
姿が消えた黒隠は、影に入ったまま、別荘地へと向かった。
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